なぜ、セルフレジはなくなるというのか。
この記事を読んで、あなたが得られるかもしれない利益:ロンドンのスーパーでは、セルフレジが主流だ。しかしここに来て、客が自分で精算するシステムを撤廃する動きが急だ。自動化革命に逆らうようなこの動きの背景とは、何だ。
セルフレジの問題点
ニューヨーク・タイムズWeekly2023年11月26日号のSaying goodbye to self-checkouts, and hello to human workers(セルフレジにさよなら、店員対応レジにこんにちは)は、まさにそのタイトルが記事の内容をすべて物語っています。
ここ20年、ロンドンの、いや世界中のスーパーでセルフレジが導入されるようになっています。
買い物客は、商品をカゴにいれ、クレジットカードをスロットに通し、あとは自分で袋に入れて店を出るだけで、買い物終了です。
しかし、機械はあなたの買ったスパゲッティを認識できないことがあります。
ズッキーニを決済画面にかざすと、きゅうりの価格で精算されています。
食品以外のお酒や医薬品を精算するときは、店員を呼び出さなくてはなりません。
でも、いろんな問題や面倒があっても、セルフレジの行列のほうが、有人レジよりはるかに短いので、多くのお客がセルフレジを選びます。
世界中には2種類のお客しかいない
この傾向は、ロンドンのスーパーに限ったことではありません。
この20年間、世界のトレンドです。
記事は冒頭で、面白いことを言っています。
「世界中で、スーパーの客は2種類しかいない。セルフレジを使う客と、有人レジを使う客だ」。
ロンドンの北西部にあるテスコ(Tesco)というスーパーのある常連客の主婦は、「めんどくさい事やトラブルもあるけれど、それでもセルフレジを選ぶわ、列が短いもの」と話します。
セルフレジの盲点
ここ20年間、世界のセルフレジの台数は目だって増えてきています。
特にパンデミックのさなかは、接触を避けることが求められたので、セルフレジが急激に増えました。
しかし、ここに来て、この自動化革命を見直す動きが、出てきているのです。
世界最大のスーパーマーケット、ウォルマートがこの9月に、いくつかの店舗でセルフレジの廃止を発表しました。理由は言わずじまいです。
2016年、イギリス、アメリカ、ヨーロッパ諸国が共同で調査を行ったところ、セルフレジのロス率(損害)は4%にも上ることがわかりました。
業界平均の2倍です。
理由としてあげられるのが、万引きです。
商品を不正に購入する動きを、セフルレジのシステムは見逃してしまうというのです。
効率よりも情報
ロンドンのスーパー、ブース(Booth)も、セルフレジ廃止に舵を切りました。
3000人の従業員を抱えるこのスーパーは、「お客様と触れ合うことで、良い経験価値を提供できる」との声明を出しました。
同社は方針転換をの理由として、フィードバック(お客さんからの苦情、称賛、激励、意見など)を得られることを上げています。
日本はどうすべきか
日本も同様な問題が指摘されています。
セルフレジでの不正が、先日も報道されていました。
あるスーパーは、万引き防止の研修を始めたそうです。
商品のロス率も欧米並み、万引き防止のコストもかかる、では何のためのセルフレジだかわかりませんね。
冒頭、イギリスのセルフレジのマシンは、スパゲティやズッキーニを認識できないと申し上げましたが、日本のテクノロジーはもっと優秀かもしれません。
しかし、この問題の本質は、テクノロジーうんぬんではありません。
企業は効率を取るべきのか、情報(フィードバック)を取るべきなのかという問題なのではないでしょうか。
スーパーに来店して、精算を済ませて店をあとにするまでが、消費者にとっての経験価値で、それを快適なものにすることが、まず第一です。
それに加えて、精算の際に顧客と対峙することで得られる、様々な情報は、企業にとって宝の山と言えるものです。
これは、現在のマーケティングの大きな変化である、「ネット上での顧客情報を企業が勝手に取ることは許されない」、と関係します。
これまでは、スーパーもオンライン上で得た顧客情報があったはずですが、それは使えなくなるのです。
情報は、企業がオフラインでつまり店頭で、お客様と触れ合うことでゲットした情報に頼るしかなくなります。
さて、貴社はそれでもセルフレジを続けるつもりですか?
野呂 一郎
清和大学教授
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