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読書感想文 太宰治『畜犬談』に込められた反戦のメッセージ!!(ネタばれ注意!)

 何十年かぶりで太宰治の『畜犬談』を読んだ。他の目的で太宰の文庫を開いたら、たまたま『畜犬談』のページが開いたのだ。若い頃読んだ時は、ただ笑える小説というぐらいのイメージしか持たなかったが、今度は以前とは全く違って、この短編にひっそりと込められた太宰の深い意味を感じ取った。
 「犬は猛獣である」という一節が目に入った瞬間、私は中島敦の『山月記』を連想した。人間が虎に豹変して、昔の友人を襲う話である。太宰の文章を探してみると、あった。「かつての友に吠え、兄弟、父母をも、けろりと忘却し、・・・」似ている。ただし、『山月記』は昭和16年の発表だから、『畜犬談』の方が先である。いずれにしても二人は同じ視座に立って、当時の軍隊を見ていたんだと思う。
 『畜犬談』が発表されたのが1939年、昭和14年である。日中戦争が始まって2年経っている。太宰も体が弱く、戦争には行っていない。戦争には賛成していないが、声高に反対もしていない。しかし、心の中では戦争なんかして欲しくないと考えていた。その言うに言えない思いをこっそりと小説にこめたのだろう。
 この小説では、太宰は犬が大嫌いということになっている。なぜなら、犬は本来猛獣で、普段はその牙を隠しているだけで、いざとなれば、牙を剥きだして、相手に襲い掛かる獰猛さを持っているからだという。これが実は軍人を意味している。そういう見方で読んでいくと、いろんなところで合点がいく。ああ、ここは盧溝橋事件(昭和12年)のことを言っているのだなとか、これは幣原の軟弱外交のことだなとか、これはアメリカのこと、これは中国共産党のことだ、とかわかってくる。難しかったのは捨て犬の「ポチ」。キーワードは「皮膚病」。「日本軍は皮膚病だが、共産党は心臓病だ」ということを、国民党の蒋介石が言ったということが、ネットで調べるとわかって、それですべて合点がいった。「ポチ」とは日本軍(皮膚病)に苦しむ蒋介石のことだったのだ。
 小説の最後で太宰が奥さんに言う言葉、「(ポチの)皮膚病なんてのはすぐなおるよ」というのは「日本はすぐに負けるよ」という意味なのだということがわかる。


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