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【組織を学ぶ】モチベーション理論を組織運営にどう活かすか?

組織を運営していく上で、組織や個人の行動の背後にある構造や理論について知見を持っていると役に立つことが多いです。【組織を学ぶ】というシリーズで、「組織行動論」や「組織心理学」から実務に役立ちそうな理論や考え方を紹介していきたいと思います。

参考文献としては以下の2冊は経営学や心理学の学説をコンパクトにまとめておりおすすめです。このシリーズでも、この2冊を適宜参照していくことにします。

今回は「モチベーション」について触れたいと思います。

最近ではリンクアンドモチベーションの「モチベーションクラウド」が業績を伸ばしているように、日本でも組織運営における「モチベーション」の重要性について関心が高くなってきています。

これは、デジタル化の影響などで事業の複雑性やスピードが増しており、長期雇用・年功制を前提とした「静的」な組織設計だけでは従業員をうまく動機づけできない、という経営課題が日本型組織にとってもリアルなものになってきているという背景があると思います。

こうした日本の経営状況の変化も踏まえて、モチベーションに関連する経営理論を概観しながら、私の経営実務の経験も交えて、日本型組織に対する示唆を提供できればと考えています。

モチベーション理論とは?

では早速モチベーションの理論的枠組を見ていきましょう。

まずモチベーションは、「内的モチベーション」と「外的モチベーション」の2つに大別されます。「経営行動」からその定義を引用してみます。

「内的モチベーション」とは、自分の内面から生じるモチベーションであり、達成感や責任感、あるいは能力が向上したと自覚できることなどがこれにあたる。もう1つの「外的モチベーション」とは、外部からもたらされるモチベーションであり、昇進、昇給やボーナスなどの金銭的報酬、秘書や送迎車がつくといったステータスの向上、オフィス環境や就業条件の向上などが相当する。
「経営行動」1-2 モチベーションの分類

これはシンプルですが納得感ありますよね。ポイントは、両者は相互に関係しあっていて、どちらか一方だけ良ければうまくいくものでないところ。

例えば、報酬が上がれば確かにモチベーションも上がるけれど、自分がやりたいと思うことがやれていなければ段々とモチベーションが下がっていく人もいます。特にこの傾向は最近のビジネスでは高まっていて、今の若い人は「内的モチベーション」を重視する傾向が強いと私も感じています。

なので、この内面、外面両者をうまくバランスさせながら組織設計していくことが求められるというのが大切な点になります。

そして、経営学では、このモチベーションの区分に対応する形で、モチベーション理論も「内容理論(Content Theory)」と「過程理論(Process Theory)」という形で2つに大別されています。以下また「経営行動」から引用します。

内容理論は、人はどのような欲求に基づいて働くのか、人を動機づける欲求とは何かを追求する理論群であり、人の内的欲求に焦点をあてる傾向がある。もう一方の過程理論は、人を動機づけるプロセスを追求する理論群であり、外部からどのような働きかけをすればモチベーションが向上するかという問題に焦点をあてる傾向がある。
「経営行動」1-3 2タイプのモチベーション理論

ビジネスの文脈だと、なかなか人の「内面」に入り込んでいくのは実際のところ難しく、より実務的な意味ではやはり「どうやって人を動機づけるか」というところが論点になります。

そこで、ここではまず「過程理論」の代表的な理論を説明しながら、そのビジネスの実務への示唆を考えていきたいと思います。

過程理論としてあがっているものは以下があります。

・目標設定理論
・期待理論
・公平理論
・手続きの公平感
・職務特性理論

いろいろありますね(笑)。目標設定理論については、この記事にまとめてあるので、ぜひ読んでみて下さい。「明確で困難な目標」を設定することで人は仕事に動機づけられ、その目標に向けて努力すること自体が学習効果を持ち、それがスキル向上につながる好循環サイクルとなる、というのは実際の仕事の現場でも組織が上手くいっている時に見られるサイクルです。

目標設定理論に続き、今回の記事では、「期待理論」について触れたいと思います。

「期待理論」の持つ日本企業への示唆

期待理論を提唱したビクター・ブルームは人がモチベーションを高めていくプロセスを以下のように整理しました。

インセンティブ型の営業組織などでは、目標達成によって得られる金銭報酬がなによりのモチベーション、という形で制度設計していますが、この期待理論は、もう少し複雑な人間心理にうまくアプローチできています。

目標に「手が届きそう」や、リワード*が「好みに適している」、といった心理面の要素まで含んでいることが、例えば「人が動機づけられるのは単におカネではない」といったビジネスの現実をうまく捉えているからです。

(*リワードは報酬と訳されますが、ここでの報酬は金銭報酬だけでなく、上司から褒められる、といった非金銭報酬も含みます)

例えば私が所属している外資系企業でも、四半期ごとの業績達成へのプレッシャーが大きいため、新規契約を取ってきた人には営業職以外のコンサルタントなどにも「特別ボーナス」を支払う、という施策を期中で実施したりします。

ただ、これはそう簡単にはうまくいかないケースが多いです。期待理論が示すように、単に金銭報酬が得られるからモチベーションが高まるか、というとそうではないからです。

多くのコンサルタントにとって一番の仕事のモチベーションは、顧客が喜ぶデリバリーを達成できるか、という点にあります。がゆえに、数万~数十万円の金銭報酬のためにわざわざ時間を費やすかというと、期待理論の「得られるリワードが好みに適している」の点を満たしていないので、強い動機づけとならないわけです。

さらにいうと、日本型組織においては、この「リワードが好みに適しているか」の部分が特にポイントになると感じます。

どういうことかというと、まずメンバーシップ型の人事制度が中心の日本企業では、社員の担う役割や業務内容が明確に定義されていないケースが多いです。

その結果として、仕事に対して「何を求めているか」という点が、役割や業務内容が明確に定義されているジョブ型の組織と比べて多様であると私の経験からも感じます。

会社から明確に「これをやるべき」「これで評価する」と言われていないがゆえに、また、年功制で賃金が成果に強く結びついていないこともあり、みんなが仕事に求めるものをマネジメント層が理解することの難易度が高いです。

こうしたメンバーシップ型という人事制度から生み出される「リワードへの好みの多様性」という特性にうまく対応した施策を考えることが、日本型組織においてモチベーションを高める上で大切と思います。

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