見出し画像

妻と手を繋ぎながら

 妻と手を繋いで歩く。

 桜は満開を過ぎて葉桜に変わろうとしていた。
 春の陽気。
 心地よい風。
 微かに舞う桜の花びら。
 繋いだ手のぬくもり。
 のんびりと流れる時間。

 ただ、妻と手を繋いで歩く。

 ふと思い出した。
 母は散歩が好きだった。
 幼い僕はゆっくり歩く母の歩幅に合わせる事が出来なかった。
「ただ歩くだけなんてつまらない」
 そう言って母よりずっと先まで駆け出しては立ち止まり、そして母の元に引き返す。それを何度も繰り返して、少しでも早く歩いてもらおうと、母の手を取って歩いたりした。
 そんな散歩の何が楽しかったのか、母の機嫌は良かった。だから仕方なく、僕は散歩につきあってあげていた。

 今になって、母の気持ちがわかる気がした。
 もっとちゃんと散歩につきあってあげればよかったな。
 いや、母にとっては、あれはあれで楽しかったのかもしれない。

 そんな事を考える。

 妻と手を繋ぎながら。


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

3
ショートショート書いてる人。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。