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子どもの安全を見守る「目」について

前回の投稿では、子どもの登下校について、保護者の役割をカンボジアの親の例から述べた。
今回は、ぼくが最近提唱している「三者協働のリスクコミュニケーション」について書きたい。

この発想の元は、10年ほど前になるが、アメリカ合衆国コロラド州のデンバーを訪れたときの体験による。

アメリカ、デンバーでの体験

デンバーに行った目的は、コロンバイン高校への訪問だった。
コロンバイン高校では、1999年に生徒2人にる銃乱射事件があり、12名の生徒と1名の教師が犠牲となった。
大変な事件だったので映画等、さまざまな資料が残されている。

コロンバイン

コロンバイン高校を訪問した目的は、「学校と遺族の関係」についての視察、調査だった。
校長のフランク・デアンジェリス先生が校内を案内してくれた。
事件現場となったカフェテリア、飾られた遺影。
このとき、ぼくが関心を持ったのは校長先生のコミュニケーション力だった。
廊下を通る生徒全てに、名前を呼んで挨拶していた。
生徒たちも、笑顔で校長先生に語りかける。
聞けばこの校長先生、数千人いる生徒の名前を全て覚えているそうだ。
三者協働リスクコミュニケーションの発想へとつながる、これがひとつ目の体験。

デンバーでは、別の高校も訪問した。
その高校は、校内に「4つのギャング団」が存在するという興味深い学校だった。
だから、登校風景にも特徴があった。
子どもを抱えて登校する女子学生がいて、校内の託児所に預けて教室に行く。
託児所を覗くと、5人ほどの赤ちゃんが元気な泣き声をあげていた。

ぼくが大きな関心を持ったのは、校内への入り口の様子だった。
大きな入り口から、次々と生徒たちが登校してくる。
その左右に、大きな体躯のフットボーラーのような黒人2人が、パイプ椅子からお尻をはみ出させて座り、登校してくる生徒たちに笑顔で挨拶をしている。
いわゆる「警備員」だろう。

見ていると、何人かの生徒を指で「こっちへ来い」と呼び、顔を覗き込んでいる。
そして、別の方面(保健室)に行かせていた。
何をしているのかというと、「ドラッグ」をやっている生徒を確認していたのだ。
彼らは、毎日生徒の顔を見ている。
だから、ちょっとした顔色の違い、目つき、姿勢などの違いで、「異変」を察知することができるのだそうだ。

これが、三者協働リスクコミュニケーションの発想につながったふたつ目の体験だった。

三者協働のリスクコミュニケーションとは

現在の学校における登下校の実態は、集団登校の列や交差点で、シルバー世代の安全ボランティアが子どもたちの安全を見守っている。
「学校の働き方改革」答申では、登下校の業務は「学校外が担う」と明言された。
親は出勤の準備などで忙しく、学校まで付き添う親は少ないのが実態だろう。

それぞれが固有の事情をもち、独立(孤立)して存在しているように感じられる。


しかしぼくは思うには、前回の投稿で述べたように保護者も、子どもの安全に対して主体的な役割を担っていくべきだ。
これは「責任論」とかではなく、日本はもはや「安全な国ではない」ことを認識し、親の本来の姿、あるいは本能を取り戻していくことによって、子どもの幸せにつながっていくと思うからだ。
そして学校は、手放しでボランティアに頼っていればいいわけではない。

そこでぼくが提唱する三者協働のリスクコミュニケーションとは以下のようになる。

親は子どもが登校するとき、少しでいい、5分でいい、玄関から一緒に出て集合場所まで連れていく。
そこで、シルバーボランティアに我が子の安全を託し、「いつもありがとうございます。よろしくお願いします」と、挨拶と感謝の気持ちを伝える。
これが我が子の安全につながる。
シルバーボランティアは、悪い気がしない。
だから一生懸命に安全を守ろうとする。
そして、登校ではこんな様子ですよ、など、知らなかった我が子の様子を伝えてくれたりする。
無事に学校に到着すると、必ずそこに、校長でもいいし安全担当教員でもいい。
学校から出てきてシルバーボランティアと会話を交わす。
「今日もありがとうございました」
すると、毎日子どもたちの登校を見守っているボランティアは、教師には見えないものが見えていたりするかもしれない。

「今朝の〇〇ちゃん、ちょっと様子がいつもと違ったなー。元気がなかった気がする」

このシルバー世代から得た情報を、その子の担任と共有しておけばいい。
デンバーで見たドラッグの発見と同じだ。
いじめの防止や子どもの生活への気づきにつながるだろう。

これが、三者協働のリスクコミュニケーションだ。

昨日は大阪府の某市で教員研修の講演録画(今は対面で講演ができない状況のため、ほとんどの講演は録画して配信となっている)をした。
そこでもこの話をした。
子どもの安全のために、提唱していきたい。



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