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古代への情熱(シュリーマン)

 シュリーマン(Heinrich Schliemann 1822~90)ドイツの考古学者で トロイアの遺跡を発見したことで有名です。

 彼は父親の影響で、少年のころからホメーロス(Homeros)の物語を愛読し、トロイアが実在することを信じていました。そしていつかそれを発掘したいという夢を抱いていました。

(p14より引用) 私の父は文献学者でも考古学者でもなかったが、古代の歴史に熱烈な興味をいだいていた。父はヘルクラネウムとポンペイの悲劇的な壊滅の話をしばしば夢中になって私に物語ってくれたものだが、その発掘現場を訪れるお金やひまのある人をこのうえなくしあわせな人間と思っているらしかった。また父は、ホメーロスの歌う英雄たちの功業やトロイア戦争における数々のできごとについても、感嘆をまじえながら語ってくれたが、私はきまって、トロイア側の熱心な味方になった。トロイアが破壊されて跡かたもなく地上から消えてしまったことを父から聞かされて、私は悲しい思いをした。・・・結局二人は、私がいつかはトロイアを発掘することになるんだということで合意に達したのである。

 シュリーマンは、ホメーロスの古代ギリシャの叙事詩「イーリアス」に描かれたことがらが真実であるとの前提で行動しました。

(p50より引用) シュリーマンはピナルバシに着いたときのことをこう書いている。「正直なところ、ごく小さな子どものころから夢にまで見たトロイアの広大な平野を眼前に眺めたとき、私はほとんど感動をおさえることができなかった。ただ、・・・ひとめ見たとき、・・・ここを訪れた考古学者のほとんどすべてが主張するように、もしピルナバシがほんとうにこの古代の都の区域内に建設されているとすれば、トロイアが海からへだたりすぎているように思われた」この疑問は、ホメーロスに関する彼の詳細な知識に基づいていた。・・・彼にとってはホメーロスの言葉は福音書であり、彼は堅くそれを信仰していたから、『イリーアス』の詩句にぼんやりと示される地形は、自由に創作する詩人の空想の産物にすぎないのではないかという学者たちの疑念など、てんから問題にしなかった。

 彼は、「イーリアス」の記述に基づき、トロイアの遺跡はトルコのヒサルリクの丘にあると確信しました。そして、1871年発掘を始め、紆余曲折を経て遂にトロイアの遺跡を発見しました。
 その後、彼は、ギリシャ本土でもミュケナイ・ティリュンス・オルコメノスなどの遺跡を次々に発掘、大きな成果をあげたのでした。彼の発掘活動により、トロイアのみならずホメーロスがその叙事詩で描いた文明の多くの部分が虚構ではないということが判明したのです。

 少年のころ抱いた想いを果たすべくトロイアの発掘に取り組んだシュリーマンの情熱は、怒涛のごとく邁進する巨大な土木機械を思わせるものでした。




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