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100 POSTCARDS―月日は流れ わたしは送る 100通の絵葉書― (四方田犬彦)

 著者の四方田犬彦氏は比較文学者です。映画にも造詣の深い著者が、著者自身が選んだ絵や写真を添えた絵葉書のスタイルで、100人の友人知人に宛てにメッセージを送ります。とても変わった体裁の本です。

 100の宛先のほとんどは私の知らない方々ですが、著者からの葉書の文面から、それぞれの人となりについていろいろなイメージが浮かんできます。

 そのうちのいくつかをご紹介します。

 まずは、草月流家元であり映画監督でもある勅使河原宏さんにあてた葉書から。

(p47より引用) 僕が出会った芸術家のなかで
あなたはもっとも難解な孤独を抱えこんだ人だった。・・・

 また、こんな言葉もありました。フランスの美術史家ジョルジュ・ディディ=ユベルマンさんへの言葉から。

(p65より引用) 僕がアウシュヴィッツで戦慄を感じたのは
洗濯場の壁に 天使や少女や子猫の絵が描かれてあったこと。
あれはいったい誰が 誰のために描いたのか。
ドイツ人が描いたのか? ユダヤ人に描かせたのか?
まさかユダヤ人がみずからを慰めるために 率先して描いたのか?

 絵葉書の写真は、若橋一三氏による「アウシュヴィッツ強制収容所の洗面室」です。

 そして、最後にご紹介するのは、著者の祖母、四方田美恵さんに送る絵葉書です。

(p99より引用) 旅行に出たらかならず音信をしなさいといってましたね。
あなたの引出しには何十枚という絵葉書が、
昔の一円銀貨といっしょに仕舞ってあった。
それはわたしが十歳のときから機会あるたびに送っていたものだった。
別府。大島。十和田湖。ソウル。ローマ。コロンボ・・・
絵葉書というのはどちらが表で、どちらが裏か、わかりますか。これはわたしが出す最後の絵葉書です。

 この祖母の言いつけが、本書の構想のきっかけになったということです。

 ちなみに、本書ですが、巻末にすべての葉書のメッセージの英訳が載せられています。100のメッセージのうちひとつがハングルで書かれていたので、それだけは英訳のお世話になりました。



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