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愛着形成

5歳児が散歩に出ようとしていた。
担任の先生の大きな声が聴こえた。
「そんなこと言ったら○○君がかわいそうでしょう!
 そんなわがまま、聞く事出来ないよ。
 ほら、手を繋ぎなさい!」

保育園の門の前に友だちと手を繋いで
並ぼうとしている時、
ある男の子が〇君とじゃなく△君と手を繋ぎたい
と主張したが、既に△君は別の友だちと手を繋いでいたのだ。

「〇君なんて嫌だ!」そう主張する彼に
担任の先生が声を荒げている。

その剣幕に、彼は不服そうな顔をして不本意ながら
手を繋ごうとしていた

その時、私が声を掛けた。
「どうした?△君、あと3日で引越ししちゃうもんね。
 手、繋ぎたかった?」

私の声を聞くなり、彼は我に返ったように
繋ごうとしていた手を引っ込め、涙を浮かべ
その場に座り込んだ。

すると担任の先生が
「優しい言葉、掛けるとこうなるんですよ。
 散歩に行けなくなっちゃいます」といった。

私は「そうなのかも知れないけれど、
でも気持ちに寄り添う、をしてないのに
権力で押さえつけるのは良くない。
気持ちを拾ってあげないと。
先に散歩に行っていいので
彼と話します。」と言い、彼の横に座った。

彼は私を睨んでいる。
「あっちいけ!」という。

マイナスな言葉には反応せず、
独り言のように呟く。

「繋ぎたかったよね」

しばらく時間が過ぎた頃

「だってさ、〇君ってさ
 俺と親友って言ってるけど
 わかんないときあるし(行動が)
 手を目に入れたりするし(悪気はないと思う)
 〇君がふざけて何かして
俺もやると〇君は怒られるの少しなのに
俺はずっと怒られるし…だから嫌なんだよ!」

と言った。

私「へぇ そうなんだ。いつも二人で遊んでるから
 先生とっても仲良しだと思ってたよ」

「いい時もあるけど嫌なんだ」

私「そっか、じゃあ△君は?」

「いつでもやさしいんだ。」

私「優しいと嬉しいもんね」

「うん。…〇先生は何でもダメって言うんだ。
 わかってくれないんだ…だからキライナンダ!」

私「そっか。気持ち言えて偉いね。さっきもさ
  繋ぎたくないんだ!って言えたね。でも
  怒られちゃったね。言い方がさ、怖くて
〇君は嫌な気持ちになっちゃって、それを聞いた〇先生も
嫌な気持ちになったんだね。別の言い方あったかもね。
 △君と遊べるのあと少しだから!ってさ。」

あっちいけ!もう散歩いかない!〇先生や〇君に会いたくない!そう言っていた彼は
緩んだ表情を見せてくれて蟻や蚊、葉っぱの上を歩く虫に夢中になる。

私「ねぇねぇ葉っぱにさ、虫が食べた穴、あいてる!」

「こっちも!こっちもだ!!」

私「ほんとだね、あれ?上の方の葉っぱ、穴一杯だね。
  生まれたての葉っぱばっかり食べてるね。なんでだろうね」

(葉っぱを触りながら)
「あ!やわらかいよ!すごく!!下の方は固い!!」

私「ほ、ほんとだ!どの葉っぱもそうなのかな?
 散歩の公園にもあるかな。探索しに行こうよ」

「あるとおもうよ。いこう!先生、手を繋ごう!」

繋いだ手はとても小さく温かかった。

問題行動が多い彼。
周りの大人はついつい困っているのは自分、と思いがち。
でも、本当に「困っている」のは彼自身で
どうにかしたい、わかってもらいたい、
そう思って心を震わせている。

散歩の公園に着いた。
「誰も俺と遊んでくれないかも」

そういう彼に
〇先生が声を掛ける
「一緒に遊ぼう!」

彼は嬉しそうに
皆の元に戻っていった。

しばらくして保育園に戻ってきた彼は
上履きに履き替えるとすぐ
職員室に顔を出し大きな声で

「えんちょうせんせい!」といって笑った。

…一緒に部屋に来て! そう言いたかったに違いないが

私が満面の笑みで机の横に貼っておいた一緒に観察した葉っぱを指差して
「ほら、これ!★君との思い出!先生の宝物!」

そう言うと
安心したようなとっても可愛い笑顔を見せてくれて
皆とワイワイいいながら保育室に戻っていった。

保育で一番大切なことは
人生の土台となる愛着形成の構築であり、
心の安全基地を作ること。

今日の彼の笑顔を忘れないようにしたいと
思います。

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