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湾岸諸国がイスラエルと国交正常化する切実な理由


 UAEを皮切りに湾岸諸国のイスラエルとの国交正常化の波が起こっています。UAE、バーレーンは15日共同でイスラエルとの合意文書に調印しました。オマーンもUAEとバーレーンの動きを歓迎し次にイスラエルと国交正常化する湾岸国家と目されています。

イスラエルとアラブ諸国の国交正常化は軍事協力、観光客業活性化のための直通便運航等大義より実利を優先した結果と言えます。政治的にはイラン包囲網形成のためとも解説されています。より差し迫った共通の脅威がアラブ諸国にあります。それはトルコの拡張主義です。確かにイランはシリアにイラク人中心のシーア民兵を送り、レバノンのヒズボラやイエメンのザイド派勢力等を支援していますが、軍事顧問団の役割を果たす革命防衛隊の将校、小部隊を除けば自国軍を駐留させていません、一方のトルコはシリアに大規模な部隊を駐留させ同国北部を事実上併合しています。またイラクにも同国政府の許可なく進駐し多くの基地を建設し、その国土、国民へ空爆を続けています。今年始めからはリビアにも軍を送るとトルコ大統領エルドアンは発表し、数万のシリア人傭兵を送り対テロ作戦を担うリビア国民軍の前線を後退させています。リビア情勢はイスラム勢力に支えられる暫定政権をトルコが支援し、それを打倒しようとするリビア国民軍はエジプト、UAE等が支援する形になっています。トルコはサウジとカタールの対立激化の際、カタールを支援したことで同国を湾岸における橋頭保としています。サウジはこれを湾岸諸国政治へのトルコの介入とみなし、以来トルコを敵国とみなしています。サウジは昨年、オスマン帝国による湾岸統治に関する教科書の歴史記述を「トルコの占領」と変更しました。

それはこれまでのアラブ諸国の連合であるアラブ連盟の非難決議にも現れています。アラブ連盟はUAEとイスラエルとの国交正常化を非難する声明を決議できませんでした。一方トルコに関しては6月イラクにおけるトルコ軍の軍事作戦を非難したり、昨年10月のシリア侵攻についても非難しています。

トルコは2018年から東地中海の海底ガス田開発に着手し、周辺諸国との対立を深め軍事衝突の危機が高まっています。前述のトルコ軍のリビア進駐も東地中海におけるリビアの排他的経済水域の権利をトルコが自由に侵害できるようにすることが目的です。イスラエルはまた東地中海におけるトルコ包囲網の一角です。イスラエル、ギリシャ、キプロスは1月2日、東南地中海における海底パイプライン管理に関して合意する等、トルコの侵略に対抗すべくアラブ諸国含む地中海諸国と連携しています。直近の22日にはエジプトに拠点を置く東地中海諸国の協力機構の立ち上げ名を連ねています。イスラエルは不俱戴天の仇ではなく共通の脅威に立ち向かうための同志となりつつあります。

そもそも極論を言えばアラブ諸国にとってパレスチナなどどうでもいいのです。アラブ諸国は一度たりとも真剣にパレスチナのことを考えたことはなかったと言えます。アラブ諸国はその時々の国内外のアピール材料として消費してきただけでしょう。そもそもパレスチナ問題自体が1948年のアラブ諸国の侵攻によって引き起こされました。イスラエルがアラブ諸国軍を打ち破ったことでパレスチナを軍事的に占領することが可能になったわけです。

パレスチナ解放という虚構の大義はトルコの脅威という現実的な問題の前に一気に崩れされることになったのです。

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