スコアブックではなくノートを使う理由

野球経験者でもスコアブックの書き方を知らない、意外とそんな人は多いのではないでしょうか。かく言う私もそうでした。

スコアを書けるようになったのは大学時代。高校野球の地方大会でNHKから野球部に毎年スコアをつけるアルバイトを依頼されていたことがきっかけでした。このアルバイト、涼しい本部席でスコアを書いて、試合後にFAXを送るという単純なもの。公式スコアも一緒に送っていたので正直わざわざアルバイトがスコアを書く必要はあるのか?と思っていたのですが、野球を見るのが苦では無ければ非常にありがたいものでした。たしか1試合5000円くらいだったと思います。

ただこのアルバイトをやるには当然スコアを書けるようになる必要があるため、野球部女子マネージャーに教えてもらいました。地方大会の決勝戦はテレビ中継もあるため、ブースに入ってスコアをつけながら実況しているアナウンサーの方に「次で100球目」や「この試合初めての長打」などとメモを書いて渡すこともやっていました。こういう節目となるプレーを伝えるのも野球経験がないと難しいため、野球部が頼まれていたのだと思います。

しかし、今現場で野球の試合を見る時はスコアブックを使っていません。理由は単純で、自分が残しておきたい情報がスコアブックでは足りないからです。そのため大学4年で選手を引退して、本格的に記録をつけながら野球を見るようになってからは、写真のようなノートを使うようにしています。

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ノートにもこだわりがありまして、A5サイズのC罫(5mm×34行)を使っています。A4だと少しかさばり、またB罫(6㎜×28行)だと行数が少ないということでこのタイプに落ち着きました。下の写真のようなカバーに入れて使っています(汚くてすみません…)。

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まずは選手の基本的な情報として学年(社会人や独立リーグの場合は年齢)、ポジション、背番号、身長、体重、投打を全選手書き込みます。投手については腕の位置(オーバー・スリークォーター・サイド・アンダー)についてもメモします。練習試合やパンフレットの情報が少ない公式戦などは当然情報が足りないケースもありますから、女子マネージャーや父兄の方に最低でも学年は聞くようにしています。身長、体重にしては分からないことが大半ですので、まずは目測で記録しておきます。後で正式なデータが分かった段階で上書きするのですが、目測とそれほど大きくはずれていないことが多いです。いつかドラゴンボールのスカウターのように装着すると身長、体重が表示されるような機械ができるといいなとひそかに思っています(誰か開発してください!)。

試合が始まると、スコアブックに記載される結果以外にもプレーから得られる数字を全選手について記録していきます。投手であれば球速、球種、クイックのタイム、牽制のタイム、加えて球種ごとの球速帯(ストレート:135~142みたいな感じです)を記録します。野手は各塁への走塁タイムと捕手はセカンド送球のタイム。これらは全選手記録するようにしています。また全選手ではありませんが、狙い撃ちで盗塁のタイムや外野からの返球(捕球してからサード、ホームまでのタイム)なども記録することがあります。ストップウォッチは当然フル稼働となり、年に何度かは壊れるので基本的に予備も鞄に入れるようにしています。ちなみにプロのスカウトの方も当然スピードガンやストップウォッチを使っていますが、データを取っているのは注目選手だけということがほとんどです。そういう意味では誰を注目しているというのは近くで見ていれば非常に分かりやすいです。

ここまでは基本的なデータで、試合前から注目している選手やその試合で目に付いた選手についてはそのプレーについての詳細を文章でメモしていきます。投手、野手それぞれフォームについてはチェックポイントがあるのですが、最初から細かく全て見ていくのではなく、まずは全体の印象を大事にしているようにしています。そして「おっ!」と思った選手についてより細かく見ていくという流れになります。良い選手ほどその文量は当然多くなり、かなりの行数になります。それだけ大変になるのですが、書くべきことがある選手が多い方が見ていても当然楽しいです(※このノートはあくまで試合の記録をつけるもので、選手にインタビュー取材をする時のは別のものを使っています)。

今はこんな形で記録をつけていますが、最初からそうしていたわけではありません。必要だと感じた情報、項目が増える度にアップデートしています。近い将来、回転数や打球速度などを手持ちのスピードガンのように遠くから簡単に計測できるようなツールができてきたら、当然それらの情報も付け加えていくことになると思います。また7年前からは詳細をメモした注目選手についてはExcelでリスト管理し、定期的に更新するようになりました。こちらのリストには既にプロ入りした選手、勇退した選手を含めて2500人以上データが溜まってきています。こちらもいつか専用のシステム作りたいななどと思っています。

18年分の200冊近いノートと2500人以上のリストは自分にとってはかけがえのない資料になっています。古畑任三郎の第2シーズンの『動機の鑑定』という会(骨董商が壺で殺人を犯すお話しです)の冒頭で「今日は私の宝物をご紹介しましょう。将棋の駒。何の変哲もないように見えますけど実はここに血痕が付いてるんです。それから数式の書かれたメモ用紙。ファルコンの定理といってまだ誰も解いた人のいない大変難しい数式なんです。まだまだあります。エキサイト君のキーホルダー、壊れたカスタネット、そして古くなったリンゴ。どれも私が扱った事件の証拠品です。そう、宝物なんて物は本人にとっては大事でも他の人から見れば何の価値もなかったりするんです。こんながらくたでも私には大変大事な思い出が詰まってるんです。10万積まれたって人には渡せません。100万だって…100万ならちょっと考えます」というセリフがありますが、自分にとってはノートとリストがそれに当たります。

100万積まれてもお断りします。1000万なら…、ちょっと考えます(笑)

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