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God Only Knows

 The Beach Boys 、とりわけ Brian Wilson が好きな人は多いと思う。

Beach Boys を初めて "ちゃんと" 聴いたのは、18歳の頃、当時バンドをやっていた友人の家に遊びに行ったとき「これ、彼らにしてはポップだから聴いてみて」と言われ『Pet Sounds』を部屋で流されたことがきっかけだった。

非常に色彩豊かで、それまで何となく頭の中で流れていた『Surfin' U.S.A.』などのロック色めいたイメージを壊されたような気分だった。プレビュー程度に聴かされた時は『素敵じゃないか』『Sloop John B』などがキャッチーな印象だった。

ただ、「ママ、これ、僕の好きな音楽だよ!(Four Freshmen を初めて聴かされた時の Brian の言葉)」というインスピレーションが降りて来たことは間違いなかった。

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 友人と別れ自宅へ帰り、その日に TSUTAYA で購入した CD を再生する。

改めて聴くと、ポップというよりシンフォニックなオーケストラのような荘厳さの印象が強くなり、コーラスの美しさに圧倒された。

中でも『God Only Knows』が流れた時、この世でいちばん美しい音楽だと思った。ただただ鳥肌がたった。

今まで聴いたことのない旋律と構成、そして楽曲を包み込む「聖なる力」のようなものに、呆然と聴き入り、気がつけば涙していた。

アルバム全体に感じる気高さと危うさ、そして繊細さの理由が、この一曲ですべて昇華されるような体験だった。こんなのは初めてだった。

その後文献を漁り、Brian Wilson のパーソナリティを知るごとに、彼がどのような思いでこのアルバムを作るに至ったかの輪郭が徐々に見え、ただごとではない紆余曲折の末に作られた孤高のアルバムであることを知る。

サーフィン&ホットロッド路線を捨て、名声にしがみつくメンバーとの確執を経ながらも、ひたすら自己の内面と向き合うことに全てを集中し、名うてのセッションミュージシャンたちとともに作られた、それまでのイメージを完全に打ち砕くアルバム。名義こそ 「The Beach Boys」だが、実質はほぼ Brian Wilson のソロアルバムと言って過言ではない。

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 彼らの音楽、特に Brian の作る楽曲群に本格的に傾倒するようになった。むしろ " Brian になりたい" とばかり思っていた。

メイキングが収録された4枚組CD『Pet Sounds Sessions』を聴いていると、各パートごとの旋律が本当に複雑怪奇で、ミュージシャンたちが「このフレーズが本当に一つの楽曲になるのか?」とこぼしていた、という話も良く分かる。

当時の自分の耳では、コピーしたくても到底追いきれない、不思議なコード展開ばかりの楽曲だった。ジャズ理論からくるオンベースの多用や、なかなか終止に至らない進行、テンションコードの連続で、それらが独特の浮遊感を生み出し、なおかつ冒頭の友人の印象どおりちゃんと「ポップ」に仕上がっているということが、本当に神業としか思えなかった。

このアルバムが、当時若干23歳の若者によって作られたということが信じられない。

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 '99年、「Imagination Tour」で Brian が来日した際、大阪のフェスティバルホールに足を運んだ。

Carl ではなく Brian が歌う『God Only Knows』。生で聴ける喜びとともに、自分なりに知った彼のバイオグラフィと重ね合わせ、ただ無言で涙するしかなかった。幸せなひとときだった。

今も自分の中で何かを取り戻したいときは、『Pet Sounds』を引っ張り出して聴いている。そして、『God Only Knows』が流れるたびに特別な気持ちになる。

数多くの名盤はあれど、僕にとってはその後の生き方を変えてくれた、一生聴き続けるであろうマスターピースなアルバムである。

今日はこんなところで。


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