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クライアントワークを「チームワーク」と呼びかえたなら

メーカーとしてモノづくりをしていると、企業から様々な依頼を受けることがあります。

たとえば「商品に名入れをさせてほしい」というパターン。ノベルティーとして得意先に、あるいはイベント会場で配布したいというお声がけが少なくありません。

名入れに留まらず、商品の基本構造はそのままに、形を変えたオリジナルデザインを求められることもあります。著名なキャラクターを活かしてノベルティーにしたり、商品として別途販売させてほしいという依頼も。

ほかにも企画段階からお話をいただき、まったく新しい商品づくりに一緒になって取り組むこともあります。


相手が起点のクライアントワーク


いずれにしても起点がクライアント側にあり、先方の望みを叶えることが目的のお仕事。この種のものを、これまで「クライアントワーク」と呼んできました。


【クライアントワーク】
お客様からの依頼を受けて取り組む仕事。受託業務。


ただ、この言葉に最近、違和感を覚えるようになりました。

心のどこかで「意思決定者はクライアント自身であり、責任の所在も相手にある」という甘えが含まれている気がするからです。


譲れない一線が、そこにはある


たとえばこちらが提案するものと、クライアントの好みが異なる場面というのは往々にして発生します。

そうした場面に直面したとき、「(お金を出す側の)相手がそう言ってるんだから、それでいいや」と投げやりな態度で臨んでいては、決していいものには仕上がりません。

クライアントの意向は最大限に尊重しつつも、譲れない一線を越えないように話し合いを重ねる必要があると思ってます。

譲れない一線とは何か。たとえば次のようなものではないでしょうか。


・消費者の不利益や誤解を招くこと

・クライアントの信用を損ねること

・自分たちの看板をも傷つけること

・面白いと思えないものになること


世に放たれたものが誰かを騙すようなものではあってはいけません。クライアントの社会的な信用を落とすものにつながりそうなら、歯止めをかける勇気も必要です。

自分たちも看板を背負って受託する以上、クライアントの言いなりになるだけではだめで。せっかくなら予算や納期が限られる中でも最大限の「いいもの」や「面白いもの」を作っていきたいものです。

そうはいっても相手が面倒くさいクライアントだと、ついつい「これでいっか」と、安易な道に流れてしまいそうになるんですけどね。


チームワークと言い換える


そうした弱い自分と決別するため、「クライアントワーク」を「チームワーク」に言い換えてはどうかとひらめきました。

たとえ企画の起点が相手にあったとしても、クライアントと自分たちは同じ課題に取り組むチーム。双方にとっていい結果につながるよう、互いの力を惜しみなく注ぐには「チームワーク」という言葉でくくるのが適切だと思ったんです。

「お金を出す側」と「お金をいただく側」の関係性は変わらないまでも、少なくともお金をいただく側の取り組む姿勢が言葉ひとつで変われる気がします。「お金を出す側が偉い」という下請けの構造にとらわれすぎず、お互いに健全な関係が築けるようになるのではないかと。

思えば起点が自分たちにある自社案件なら全力を注ぐじゃないですか。それを「言い出しっぺは相手」というだけで手を抜いたり、熱量を下げるのは違う気がするんです。どちらに起点があろうとも、やることは同じですから。




最後に、これまでクライアント起点のお仕事を受けてきた中で、「これはチームワークだったなあ」と思える取り組みをいくつかピックアップします。


JAXA(宇宙航空研究開発機構)様との取り組み


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キーボードに立てる伝言メモ「Deng On(デングオン)」を、JAXAバージョンにしたもの。関係者に配布されるノベルティーとして制作したのですが、とても好評で第2弾、第3弾と続きました。

中でも印象的だったのは、H-II ロケットが発射する様子を再現したいという依頼。当初はロケットをまっすぐにすると紙がしなってうまく立たなかったのですが、斜めに飛び立つデザインを提案したところ、紙がうまく立ち、かえって躍動感も生まれました。

決して無茶な要求ではなく、信頼してくださった上での依頼だったため、こちらも期待に応えたい強い気持ちが芽生えました。お互いに心を通わせた、まさにチームワークでした。


ネスレ日本様との取り組み


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同じく「Deng On」を使った関係者向けノベルティー。先方からの希望は「ペリエのロゴと、ボトルの形を使うこと」のみ。その条件さえクリアしていれば、あとは自由に発想していいとのことでした。

そこで、ただボトルをキーボードの上に立てるデザインでは面白みが薄いと考えて、2本のボトルから炭酸が泡立つ躍動感を表現。

担当の方にすごく喜んでもらえ、偶然これを手にした人から「もらえてラッキーだった」と声をかけてもらったこともありました。

少ない条件のみで「あとは自由に」という信頼ベースの依頼と、できあがったものに対して細かく注文をつけない度量に支えられ、関わった人みんながうれしい案件になりました。


共生社様との取り組み


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クリーニング・タグの製造と販売を行うクライアントから「耐洗紙を使って商品を作れないか」という問い合わせをいただきました。

当初は「LIST-IT(リストイット)」という腕に巻けるメモの耐水版に「この紙を採用しないか」というお声がけだったのですが、耐洗紙が持つ「水に濡れても破れにくいタフさ」に感動。

こういう商品を作るのはどうですか、と逆提案して「TAGGED(タグド)」というブランドが生まれました。

メモパッドやギフトタグなど、いくつかの商品が生まれ、近々アウトドアに特化した商品もリリース予定。長年信頼してくださっていて、継続的にプロダクトを開発できている現在進行形のチームワークです。


ロジファクト様との取り組み


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既存の鉄道車両をリアルに再現したマスキングテープのシリーズ「TAPE STATION」

大の鉄道ファンである社長から「既存の鉄道マステは実際に列車が走る連結になってない」「我々のような鉄分多めの人間が納得できるリアルさがほしい」「ついてはデザイン協力してくれないか」という熱烈なラブコールを受け、商品化に尽力。

車両本体から東京駅を模したパッケージに至るまで緻密に「本物」を再現し、どこに出しても恥ずかしくない本格的なマスキングテープができました。(もちろん各鉄道会社の商品化許諾済み)

社長の野望は「日本全国の車両をマステ化すること」で、まだまだ道半ばですが、第1弾の東京駅シリーズに続いて第2弾「渋谷駅(京王井の頭線)」も完成。着々と順調路線です。

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新宿駅のパッケージが間に合わず、急きょ本体のみのリリースとなった「京王線」含め、下記ページで期間限定先行販売中です(6月7日まで)。


社長の熱意と、その期待を裏切れない私たちの決意がなければ、この「TAPE STATION」は実現しませんでした。まさにチームワークです。



最近、一社でモノづくりをするだけでは物足りなくなっているわが社。これからも他社とグッドチームが築けることを楽しみにしています。


【松岡厚志 PROFILE】

ハイモジモジ代表。書類収納の決定版「WORKERS'BOX」ほか、思わず膝を打つアイデア・プロダクトを発信している。フリーライター、ネーム・デザイナー(ネーミングの専門家)、モノづくりするラジオ局「Quest FM」のDJ Atsushi、御茶の水美術専門学校非常勤講師などの顔を持つ。

Web Site >>> https://www.atsushi-matsuoka.com/
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