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新刊案内『フラクタル』

今回の執筆者は、数学教授にして多言語でミステリを読む服部久美子さん。そして、翻訳もされるのです! 教授の最新邦訳書は……。

岩波科学ライブラリー『フラクタル』
ケネス・ファルコナー著 服部久美子訳

ときたまスーパーで見かけるロマネスコ。これってまるでコンピュータ・グラフィクスそのもので食べるのがなんだか怖い。(実は硬めにゆでてマヨネーズをかけるとおいしい。)房のひとつひとつが、ロマネスコ全体の縮小コピーになっていて、それぞれの房にはさらに小さい縮小コピーがついています。(下はひとつの房の拡大図ですが、もとのロマネスコ全体とそっくりです。)

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ロマネスコのように「自分自身の縮小コピーが集まってできている」ものは、実は身の回りにたくさんあります。例えば、樹木(枝が木全体の縮小コピー)、川とその支流、シダの葉、海岸線、雲の境界、山脈の稜線などです。こうした図形はフラクタルとよばれます。フラクタルは私たちの体の中にも組み込まれています。

気管は2つの気管支に分かれて肺につながっています。気管支はさらに細かい管に分かれ,枝分かれを繰り返し(木や川の枝分かれのように),11回ほど枝分かれをすると非常に多くの微細な細気管支とよばれる管になり,その終端には肺胞とよばれる薄い壁の袋がついています。肺を広げると面積は約80平方メートルに達します。フラクタル構造をしているからこそ,こうした大きい面積のものが限られた体の一部に収まり,体全体に十分な量の酸素を供給することができるのです。(『フラクタル』第6章)

フラクタルは自然が作った効率いい形です。

この本では、まず自然界にあるものを理想化した「数学的な」フラクタルをご紹介します。図形自体は複雑な形をしていますが、作り方はたった1~2行で書き表せます。(このことは、きっと肺や血管網などがフラクタル構造をもつように自ずと進化したことと関わりがあるのでしょう。)まずいくつかの例を。下は、「雪片」と「うずまき」。なんだか北欧風のモチーフを思い起こさせませんか。

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下の図はコッホ曲線とよばれるフラクタルの作り方です。1904年にスウェーデンの数学者(ホントに北欧!)ヘリエ・フォン・コッホが発表したものです。本のページには収まるけれど無限の長さをもつ曲線です。

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↑コッホ曲線

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↑ マンデルブロ集合の一部

著者は、読者が高校の数学を全部忘れていても読めるように、またわからないところがあれば飛ばして先に進んでも大丈夫なように工夫して書いています。上の図はマンデルブロ集合という複雑怪奇という言葉がぴったりくる図形の一部の拡大図ですが、2乗の公式 (a+b)2=a2+2ab+b2 と、1より大きい数を何度も掛けていくといくらでも大きくなること(5, 5×5=25, 5×5×5=125, … )と1より小さい数を掛け続けると0に近づくこと(0.1, 0.01, 0.001, …)、それに2乗して-1になる数i(虚数)(これがミソ)、これだけの材料で作れます。(これらの材料についてもていねいに一から説明しています。)マンデルブロ集合も、形は複雑だけど作り方は単純です。もしもコンピュータと直結した自動編み機ができたなら、だれでも短い指示をあたえるだけで、マンデルブロ・セーターやマンデルブロ・ストールが作れそうです。

こうした図形を紹介したあとで、自然界や人間の営み(株価の変動のグラフ)などにみられる現実のフラクタル、そしてフラクタルの医学(がん診断など)、工学をはじめとする様々な分野への応用を紹介します。

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2020年1月22日刊行予定です。きれいな図がたくさん載っていますのでお手に取っていただければ幸いです。

(文責:服部久美子)







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