第二部HYPEの裏の意味

先日インタビューを受けながら「左ききのエレンHYPE」のタイトルの意味を改めて言語化したんですが、やっと短くまとめられたのでnoteにも書いておきます。(短くと言いつつ、前置きがたっぷり…)良かったら読んでください。

「左ききのエレン」は、第一部を既読の方はお分かりだと思いますが、働き方に対してかなり熱血です。あれは、あくまで「2010年までのリアル」を描いたつもりで、劇中で表現している様に「時代劇」だと思って描きました。ただ、ぼくも経験した世界の話なので、あれには嘘がなく、当時思っていた事をありのまま、本心で描いていました。

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そして、これは心から有難い事ですが「エレンを読んでコピーライターになりました」とか「広告代理店を受けようと思います」とか「美大を目指します」とか、進路にまで影響を受けてくれた方々からご連絡を頂く事も増えました。

世の中的には、今も広告業界が嫌いな人も居るとは思いますが、ビジネスモデルやら働き方やら嫌われかねない要素が多い事を認めた上で、あそこで働いている人達は魅力的な人が多いと、今でも思います。当たり前ですが、魅力的じゃ無い人も居ますが、ぼくの作品には「こいつ最低」みたいなキャラは出てきません。理由は、ぼくが描きたいと思わないから。でも、それはどんな領域だって同じだと思います。例えば、ある競技を題材にしたスポーツ漫画があって、そのスポーツやってる人にも最低な人はいるでしょう。でも、それをわざわざ描かなくていいじゃないですか。ぼくは、最低な人がいるだろう事は念頭にありつつも、それを好んで描く事はしません。描くモチベが無い。

そして時代劇と言った様に、当時の働き方や価値観が現在と異なる事も自覚して描いていました。ぼくは、それを今描くべきだと思って描きました。あの時代は何だったのか、という自戒も込めて。ぼくは現在、育児のために働き方を見直している最中です。今も、そろそろ娘がミルクで泣く時間なので待機中です。だから、あの頃の働き方を、今やろうとは思いません。ただ、あの時代の燃えるような想いは本心でした。これは、時代だけでは無く、子供がいるというライフステージの変化も関係ある話です。

加えて、美大卒からアートディレクターに、というステップアップも今の時代っぽくは無いですよね。若き光一が奮闘した時代は「美大卒クリエイター黄金時代の終盤」だったと思っています。その辺の変化は、今後のHYPEでも折に触れて取り上げるつもりです。

そういった事を考えた時に、エレンを読んで夢と希望を見つけてくれた人達に対して、あの第一部で終わらせてしまうのは本当に誠実なのか?と思う様になりました。時代劇だと作者は言うけど、現在にかなり近い時代であります。あそこまで描いたのなら、ちゃんと現在に到達するまでを描く責任があるんじゃないかと思いました。

このまま第一部で完結しっ放しにしてしまったら「左ききのエレンは、誇大広告になってしまう。」と思ったんです。

図らずとも「お仕事バトル漫画」と呼ばれる第一部の、誤解を恐れずに言うなら「時代に削ぐわない部分」を、更に過剰に演出したのが第二部前半です。「まるでバトル漫画」から「ほとんどバトル漫画」にまで、思い切り意地悪な演出をつけ、読者を執拗に焚き付け、あるいは冷めさせ、それでも第二部前半は勝手にどんどんヒートアップしていきました。数話前のタイトルが再び反転して出るシーンから、HYPE後半が始まる形です。

もちろん、HYPEの過剰な演出を良いと思ってくださる人も多かったので、梯子を外すつもりは毛頭無く、ぼくはああいうの大好きなのでノリノリで描いてたし、漫画として個人的には好きです。なので、ああいう「HYPE的な流れ」と、光一がこれから立ち向かわなくてはいけない「NOT HYPE的な流れ」の戦いだと思ってください。どっちの流れが勝るのか、正直まだ分かりません。

なので逆説的ですが、HYPEというタイトルは「左ききのエレンを、誇大広告にしないための続編」という思いを込めてます。


>引用したリメイク版の回(全ページ読めます)



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