見出し画像

「左ききのエレン」200万部突破しました。

漫画家のかっぴーです。ジャンプラで「左ききのエレン」、スピリッツで「15分の少女たち」原作者をやっています。

先日「左ききのエレン」が念願だった200万部を突破しました!

少年ジャンプ+の方で最終回(エピローグ編が今月末はじまるので正確には続きますが…!)を公開した日からの反響が凄まじく、集英社の編集さんからも「書店から単行本を送ってくれと殺到してる」と伺いました。本当に有難いです。

これまで描き続けてくれたnifuniさん、長い目で見守ってくれた編集部、そして当然ですが読んでくださった全ての人に感謝しています。

そして、私には支えてくれた人達が他にもいます。

それは私のマネジメントをしている会社「ナンバーナイン」の皆さんです。

漫画家のマネジメントって聞きなれない存在だと思いますが、それもそのはず、今でこそナンバーナインがマネジメントしている漫画家さんは大勢いらっしゃいますが、最初にマネジメントをお願いしたのは私でした。

まだジャンプラ版の連載が始まる前のこと、原作者としての大先輩・江藤さん(終極エンゲージ)たちとトークイベントをさせて頂いたのですが、その会場がナンバーナインが運営していたスペースで、初めて社長の小林さんに会いました。そこで「左ききのエレンの大ファンです!僕の人生を変えました!」と言ってきてくれたのが最初の会話。

ちょっと性格の悪い事を言いますが、当時は世に出て間もない頃で、そういって声をかけられる事に疲れ切っていたんです。なので「ありがとうございます、ありがとうございます…」と呪文の様に連呼するだけで、その場は立ち去りました。

また別の日、今度はコルクの佐渡島さん達とトークイベントをしていたら、客席に見覚えのある顔が…。そう、小林です。私の行く先々に小林がいるのです。私の話を聞きながら、満面の笑みをたたえて頷いたり、手を叩いたりしているのです。私は、こう思いました。「ちょっとタチの悪いファンなんじゃないか」と。

トークイベント後の懇親会で、案の定小林さんが近づいて来ました。私は、テーブルに置いてあったビール瓶をさり気なく手に取り、いつでも撃退できる準備をしました。そこで、小林さんから「漫画を描いて欲しい」と言われたんです。

これまた性格の悪い事を言いますが、集英社で二本連載していた頃だったので、どこの馬の骨か分からないナンバーナインで描くメリットが無いと思い「すごい作画の先生を呼んでくれるなら」と、断るつもりでふっかけたんです。

私がナンバーナインを信用した最初のきっかけが、その数日後に「東京トイボックス」のうめ先生を作画に連れて来たからです。

「東京トイボックス」は私も大好きな漫画でしたし「左ききのエレン」とも魂が合っています。そこを理解した上で、大物を連れてきた事に驚きました。小林さんは自分でも言っていますが、漫画の編集者ではありません。うめさんとご一緒した「アイとアイザワ」では、うめ・小沢さんが編集的な視点で見て下さいました。だけど、小林さんはとにかく「ビジネスマンとして優秀だ」と思ったんです。優秀なビジネスマンの条件は、約束を守ると言う事だと私は思います。

「アイとアイザワ」は当初から全2巻構成の短期連載でしたが、さいとう・たかを賞にノミネートするなど高い評価を頂けた思い入れのある作品です。でも、この時は、まだナンバーナインと長い付き合いになるとは思っていませんでした。

大きな節目は「原作版左ききのエレン・紙書籍化クラウドファンディング」でした。どうしたら話題になるか、どうしたら読者に喜んでもらえるか、徹底的にナンバーナインと相談しました。準備だけで半年くらいです。小林さんは「支援額1000万円は見えてる、絶対にいける」とずっと言っていました。私は半信半疑で、クラファンが始まる直前は眠れなくて毎晩吐きそうになるまでタバコを吸っていました。私にとってクラファンはビジネスではありませんでした。この作品に、本当にファンがいるのか信じられなくなっていたんです。あからさまに数字が出てしまうのが、本当に恐ろしかったです。

500万円を超えたら成功、1000万円なら大成功、1500万円なら伝説。その結果、このクラウドファンディングは日本の漫画系クラウドファンディングの歴史を塗り替える「5368万円」を調達しました。

この日本記録は、いまだに更新されていません。この時、改めて確信しました。ナンバーナイン小林社長は、出来もしない目標は言わない信頼できるビジネスマンだって。それから、事ある毎に色々な相談をする様になり「無償の作品愛で協力してくれる人」から「そろそろ、ちゃんと報酬を払う!」と、正式にマネジメント契約をする事になりました。

マネジメントと言っても、PR案件や企画立案は自分で考えたい人間なので、主な仕事はスケジュール管理や、打合せの日に迎えに来て起こす事、娘ちゃんと遊んでもらう事、財布を忘れて飛行機に乗ろうとした際に現金を持って駆けつける事、私が機嫌が悪い時に優しくしてくれる事、などなどです。「秘書」か「お母さん」と言った方がイメージが近いかも知れません。

現在小林さんは偉くなってしまったので(当時も社長だったはずだが)セカンドマネージャーである津持君が引き継いでくれています。津持君は、セカンドマネージャーの募集を見て会社を辞めて来た男です。またひとり人生を狂わせてしまった。ありがとうございます。

この少し前から「原作版・左ききのエレン」の配信はナンバーナインに委託していました。(ナンバーナインのメイン事業は漫画の配信です)それ以前は、正直なところ電子書籍は全くと言っていいほど売れていませんでした。「原作版の方の売り上げってどれくらいですか?」とnifuniさんに聞かれて答えたら明らかに「オーマイゴッド」って顔をしていたのを今でも覚えています。オーマイゴッドくらいの売れてなさでした。

ナンバーナインに委託してから、Kindleだけでなくほぼ全ての電子書籍ストアで配信する「全方位配信」など試みて、じわじわと着実に部数を伸ばしていきました。そして、ついに今月「左ききのエレン」はシリーズ累計200万部を突破しました。

その勢いは未だ衰えず、ついについに、ちょうど本日です。

原作版・単独の累計ダウンロード部数が、100万部を突破しました。

画像1

「左ききのエレン」は集英社でリメイクして頂き、TVドラマ化や舞台化などにも恵まれた作品ですので「インディーズ漫画」と呼ぶには相応しくないかも知れませんが、原作版に関してはいわゆる出版社を通していない作品です。その上で100万部を突破できた事は、本当に奇跡的だと感じています。

私は、会社員時代にコピー用紙とボールペンで漫画を描き始めました。今でこそ原作者として様々な出版社でやらせて頂いていますが、他でも無い「原作版エレン」は、当時から続く私の初期衝動です。なんの技術も無く、なんの確信も無く、ただただ熱量をコピー用紙にぶつけてつくった作品です。それを100万部に育ててくれたのは他でもないナンバーナインの皆さんです。

本当に才能があって、天才なら、最初からジャンプで描いてます。でも、私は「そうじゃない人」のために漫画を描いてるし、私自身が「そうじゃない漫画家」だと自覚しています。だからこそ、この熱量だけの未熟で青い作品を、多くの人に届けてくれたナンバーナインが、漫画業界を面白くしてくれると信じています。

ナンバーナインが、これからも多くの漫画家を応援し、ほおって置いたら埋もれてしまうかも知れない才能と作品を、世に発信し続けてくれる事を心から信じています。

ありがとう、ナンバーナイン 。

サポートも嬉しいですが、よかったら単行本を買ってください!