【舞台版「アイとアイザワ」によせて】「私のために小説を書いてくれる?」

原作版「左ききのエレン」を描いている時に、一番良い所で長期休載をした事がありました。描く事がツラくなって、もう二度と漫画は描けないかも知れないと思ったからです。休載を発表して間もなく、noteで書き始めた小説が「アイとアイザワ」でした。エレン人気が絶頂の時だったので「遊んで無いでエレンを描け」と散々言われました。でも、あの時は必死にしがみつく様に「アイとアイザワ」を描いてた。

「アイとアイザワ」は、ど直球に「創作に伴う孤独」をテーマにした作品です。創作者のための創作です。そのため、劇中に登場するサブタイトルが全て演出技法から引用されてたり、のちの漫画版はサブタイトルが全て映画のタイトルになってたり。とにかく本編の台詞にも創作にまつわる用語が散りばめられています。味も蓋も無い事を言うと「つくる事は、こんなにもツラいんだぞ」という読者への怒りをぶつけた様な作品でした。それがバレない様にジャンルはSFにしました。

「左ききのエレン」は天才になれなかった全ての人への物語です。エレンを描いている限り、光一の視点でいる限り、この創作の孤独は誰にも伝えられないと思ったんです。不思議ですが「左ききのエレン」というタイトルなのに、エレンの孤独を本気で描こうとすると、それはもう「左ききのエレン」では描けないと思ったんです。

「左ききのエレン」の姉妹作に「アントレース」という同一世界線の漫画があるんですけど「アイとアイザワ」も微妙に繋がっていて同一世界線を匂わせておりますが、実際どういう位置付けで描いてるかと言うと、こっちに関してはパラレルワールドです。「アイとアイザワ」の第一話で「世界大戦が起こる二つの可能性」と語られるシーンがあるんですが「左ききのエレン」は「ファーストフラグ回収に成功して(本編では回収失敗)一旦はバッドエンドを回避した世界線」です。つまり世界大戦が2030年に起こるという「延命ルート」です。何を言ってるか分からないと思いますが、ぼくも分かりません。

漫画版は、ほんの2冊分なので、とにかく読んでもらえたら良いと思うんですが、最終的には「つくる事は、こんなにもツラいんだぞ」という恨み言から「つくる事は、こんなにも愛おしいんだぞ」という祝福の物語になったと思います。描いてるうちに、自分の中にあった一つの大きな黒い感情が、二つに分離してアイザワとアイザックになり、最終的に一つに戻ってくれた、そんな感じです。何を言ってるか分からないと思いますが、ぼくも分かりません。

今日、舞台版「アイとアイザワ」を観てきたんですが、そんな当時の事を思い出しながら楽しみました。それで、改めて思ったんですが「アイとアイザワ」の物語は本当にいいなと。我ながら思いました。本当にいいです、アイとアイザワを今でも愛してます。舞台でも、漫画でも、小説でもいいんですが、とにかく知って欲しいと思いました。これまたぼくの悪い癖なんですがタイトルで何の漫画か分からないし、第一話だけ読んでもまだジャンルも分からないという、分かってて断固として直そうとしない悪癖があるんですが「アイとアイザワ」は「創作賛美歌」です。全ての創作者を祝福した物語です。

舞台版が、その化学反応が凄まじかったんですけど、どうせいくら言葉を尽くして説明しても「原作者だから薦めるのは当然」と思われるでしょうな。いくら説明しても間に受けてもらえないというのは、もう作家生活も4年なので分かり切っております。どうせ信じないんでしょ、聞かないんでしょ。だったら、とにかく観て。黙って観てきて下さい、本当に良いから。

また、このタイミングでの公開というのが非常に感慨深い。演者さん達も舞台関係者の全ての人たちは、言わずもがな「最悪の春」を超えてやってきました。アイザワでも予測できなかった悪い冗談の様な数ヶ月でした。久しぶりの舞台に意気込むスタッフ達、まだ万全には戻らない歯痒い空気、それでも待ち望んでくれていたファン、この「創作賛美歌」を観るべき時、見せるべき時です。本当に、それら全てが相まってラストは涙が止まらなかった。こんな時だからこそ、全ての創作を愛する人達に幸あれと、思います。

一点だけ注意があります。原作通り「超絶長台詞」が連発するんですけど、漫画と違って舞台だと聞き逃すと不安になりますよね。その点ですが、安心して下さい。2、3行聞き逃しても、ストーリーの流れは理解できます。今のセリフはどういう意味なんだ?とか、深く考えるのは2回目以降の楽しみに。あるいは漫画を読み返す時とかね。舞台版は、とにかく大きな物語の激流に身を委ね、ノンストップで楽しんでもらえたらと思います。2時間15分、あっという間でした。

舞台版「アイとアイザワ」の成功を心からお祈りしております。

あ、「アイとアイザワ」全話を収録した完全版って紙の本があるんですが(クラウドファンディングのリターンで作って、今は手に入りにくいもの)舞台物販コーナーで売ってるので、ぜひぜひ。

まずはKindle unlimitedで読めるんでね。まずはそっちでいいです。


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