いまだに役に立つ「広告業界の風習」

漫画家のかっぴーです。ぼくは新卒で広告代理店に入り、6年くらい広告業界のサラリーマンをしていました。そこで色々な事を教わったのですが、中には「広告業界ならではのローカルルールかも知れない」というものもありました。今日は、いまだに習慣になってる「広告業界で使えた、暗黙の了解」を一つご紹介します。(もしかしたら異業種でもあるのかも知れません、もし一般的な話だったらすみません!)

それは「お土産を持っていく」「手ぶらじゃ何なので」という言い方をします。もちろん、物質的な虎屋の羊羹とかではありません。「叩き台」とか「フラッシュアイデア」とか色々な呼び方をしてましたが、要は「話のネタになるアイデア」です。

企画の仕事は、お客さんが解決したい悩みを解消する仕事なので、まずはお客さんの話を聞く事から始まります。(第一線で働くクリエイターの方は、そうじゃない事も多いですが。)ただ、お客さんは自分達の事なのに全てを客観的に把握できてる訳ではありません。医者と患者をイメージすると分かりやすいですが、問診の様に「どんな症状ですか?」「それはいつからですか?」「どの程度ですか?」みたいなやりとりを経て、核心に近くのですが、その時に「話のネタになるアイデア」を持っていくと、その話がとても弾みます。「どんな症状ですか?ちなみに、こういうアイデアがあるんですけど、どんな印象ですかね?」「これとこれだったら、どっちが好きですか?」みたいな。繰り返しになりますが、第一線で働くクリエイターの方は、例えるなら天才脳外科みたいな感じなので、こんな回りくどい事はしないかも知れません。「なるほど、分かりました。ズバンッ!」みたいに、あっと言う間にオペを終わらせるかも知れない。知らないけど。

あと、こういう効果効能もあります。自分がどういうアイデアを持っているのか知ってもらえる事です。つまり自己紹介の効果です。ただ、これは注意した方が良い点もあります。アイデアの良し悪しを判断したりコメントしたりする事って、そのアイデアが良くても悪くても非常にカロリーがかかる事です。アイデアの仕事を受注した関係なら関係構築に役立つと思うのですが、たまたま会えた著名人とか、初めて連絡する優秀なビジネスパーソン相手に「挨拶がわりだ!」みたいにお土産を持っていく事は失礼にあたる可能性もあります。見るの疲れるので。

いま、漫画家という仕事をしているので、前半に言った様な「誰かの悩みを解決する」は当てはまりませんけど、自己紹介って言うのは結構必要だと思っています。「左ききのエレン」のお陰で、有難い事に漫画雑誌の編集者さんからたくさんご連絡を頂きます。余談ですが、インディーズ漫画でも名刺替わりの作品が作れると、一通りの漫画雑誌から連絡を頂けます。すでに自分の名刺は受け取ってもらえてるイメージからスタートするので、最初から話も早いです。「左ききのエレンの良かった部分を伸ばして」とか「エレンで言うさゆりの様なキャラクターを」とか、そういう話ができます。

その代わり、よく言う「持ち込み」と違って、新作を持たずに「とにかくうちの雑誌で新作を」という所からスタートするので、どうしても「左ききのエレン」から大きく離れられない気もしています。出版社の編集さんと最初に会う時は、いわゆる接待みたいな感じが多いのですが、ぼくはそれを止めてもらって喫茶店でお会いする様にしてます。ただちょっと良い気分になって帰るだけなので、生産的じゃありません。あと、ぼくに関して言うと「ちょっと良い気分」になってる時、マジでクソつまんない発想になるので。甘やかさないで欲しい。

先日、連載でバタバタしてた&コロナの影響でずーっと進められなかった新連載の打ち合わせをしてきましたが、打ち合わせの2時間前に集中して、久しぶりに「お土産」を持って行きました。正確には「電車の中で読んでください」とメールしました。その方が、打ち合わせが始まった瞬間に、その話から入れるので。

もちろん、2時間で書いた構想なので、そのまま使えるものではありません。でも、話は弾みました。やっぱり編集さんは成功事例も失敗事例も豊富にご存知なので「かっぴーさん、この方法だとこういうデメリットがあります。」とか、具体的なエピソードを聞けるチャンスにもなる。お土産を持っていくのは、謙虚な姿勢にもなれるし、いい風習だったなと思いました。

月額マガジン向けに、いくつか同時に準備してる新連載の話から、すげぇ悔しかった話を書きます。

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