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ふうわり漂い癒す、君はくらげ(トルコ・カッパドキア)

気球はくらげに似てるなあ。
気づけば、ポツリ言葉になった独り言が空気に溶けていった。

カッパドキアの街を我が物顔で支配していた夜が、段々と寝床に戻り、眠い目をこすりながら朝がやってくる。あとはよろしく、とお互いにハイタッチでもするように、深いブルーとピンクが混ざり合う。少し肌寒い空気が半袖のまま出てきてしまった私の肌に当たり、それが何だか嬉しくなって笑ってしまった。

町の中に次々と、ぷくぷくした不思議な生き物たちが生まれていく。
それはゆらゆらと心臓部分が光り、揺れていて、地球を侵略にきた生命体のようだった。

それを人々は、静かに見守りながら、空へジャンプする瞬間を、今か今かと待っている。大人も子供も、目をキラキラさせながら、街に魔法がかかる瞬間を、今か今かと待っているのだ。

1日目は丘の上へ走った。
絶対に山登りには向いていない安物のサンダルに何度も足を滑らせながら、夢中で歩く。誰よりもあの魔法を近くで見ようと、決して見逃すまいと、みんな足早に丘を小走りに駆けていく。
朝5時にこんな丘の上で、名前も知らない誰かと無言で競っている。滑稽だなあ、と思いながらも、目は真っ直ぐと、前だけを見つめていた。

運が良かったのか、その魔法はわたしが滞在中、毎日とびきり、スコブル調子よくかかった。
それはぷくっと息を思い切り吸い込み、一瞬ぼっと大きな音を立てたかと思うと、空へとそれが当たり前の事であるかのように、飛び立ってゆく。
ひとつ、またひとつ。決して仲間に置いて行かれぬように。

生まれて初めてみた沢山の気球は、本当に生き物のようで、ぷっくりしていて、愛らしくて。くらげに似ているなあなんて、ぼんやり下らない事を考えながら、ただただ目の前に繰り広げられる奇跡みたいな瞬間を見つめていた。


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朝が完全に目を覚ますと、途端世界の色を塗り変える。巨大なキャンパスにべたりと、まるでオレンジを悪戯に、塗りたくったように。
世界が表情を変える。

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重力が眠りにつく1000年に一度の今日
太陽の死角に立ち 僕らこの星を出よう怖くないわけない 
でも止まんない
ピンチの先回りしたって 僕らじゃしょうがない
僕らの恋が言う 声が言う
「行け」と言う

耳から流れ込んでくる某映画の曲に、頭と体が酸欠になったかのようにクラクラした。あまりにも美しい景色と言葉のマリアージュに、心がまるっと持ってかれてしまった。

” 美しい景色を見ると、涙が出るらしい ”

昔、アイスランドを旅した時に頭を占領していた言葉が久々に舞い降りてきた。こんな朝にまだ、出会えるなんて。

私は誰もいなくなってしまった丘の上で、
いつまでもいつまでも、舞い上がる気球を見つめていた。

それはまるで、海を自由きままに泳ぐクラゲのようで。
トルコ・カッパドキア。
私の中に、またひとつ大切にしたい場所が、この地球に増えたのだ。


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