マガジンのカバー画像

#雨の日の午前3時

30
古性のちと佐田真人のゆるい共同マガジン。 10日に1度、お互い交代でお題を出しあい同じテーマでショートショートを書いています。 24:02に更新。 やさしい時間をとどけます。
運営しているクリエイター

#交換日記

眠れない夜と、その同士たち

眠れない夜と、その同士たち

(今週のテーマ:眠れない夜)

「いまその商品は売り切れてまして...」

コンビニの店員さんが申し訳なさそうにそう伝える。なんとなくそうだと思っていたが、ここまで安眠グッズが売り切れてるとは思わなかった。どれだけ東京の人は眠れないのだろう。ちょっとした同士がすぐ近くにいると思うと、すこし嬉しくなった。



もう何日も眠れない日が続くと、眠れない自分がおかしいんじゃなくて、夜は眠らないといけな

もっとみる
とある夜の出来事

とある夜の出来事

(今週の共通テーマ:眠れぬ夜)

ふと、体に触れた温度が変わったような気がして、目が覚めた。
ここはどこなのか、自分が何をしていたのか。頭が混乱している。頭上に広がった薄っすらと見える天井には、少し、古めかしい傘の付いた電球が付いていて、ゆらゆらと揺れたかと思うと見知らぬ声がした。

「おや。起こしてしまった?」
声の主の、姿は見えない。

「大丈夫。何も心配しなくて良いよ」
かわりにもう1度だけ

もっとみる
ぼくができるまで

ぼくができるまで

(共通の書き出し:多分、トングのようなもので挟まれている)

今回は出だしを書き出し小説名作集「猫は挫折を経て丸くなった」から抜粋し、物語をつくっています。



多分、トングのようなもので挟まれている。

まったく身動きが取れない状態だったが、今日はとても目覚めがよかった。目覚めたのはほんの少しまえのことだが、随分と前から、この日を待ち望んでいたように感じる。

一刻も早くこの喜びをだれかと分

もっとみる
淡い先祖返り

淡い先祖返り

(共通の書き出し:多分、トングのようなもので挟まれている )

*今回は出だしを書き出し小説名作集「猫は挫折を経て丸くなった」から抜粋し、物語をつくっています。



多分、トングのようなもので挟まれている。
そんな感覚が走ったのは、授業が終わった後の事だった。
するどい、だけれど我慢できなくはないような、そんな違和感。
自分の体に集中し、その発症もとを手でたどっていると、「起立」と掛け声がかか

もっとみる
理想の朝ごはん

理想の朝ごはん

(今週のテーマ:朝ごはん)



会議のための資料を急ぎで作る。

「明日の朝一でも間に合うだろう」と昨夜帰ってしまった結果が、いまのこの状況だ。

「こうなることは想像できただろう!」と問われると、想像できたに決まってる。できたとしても帰りたくなることだってあるはずだ。

そんなことを頭の片隅で考えながら、ラップトップのキーボードを指先立てて叩いている。

マルチタスクと呼ばれるものが大の苦手

もっとみる
穴のあいたくつ下

穴のあいたくつ下

(今週のテーマ:くつ下)



今日のテーマは「くつ下」ときた。

だれかが出すテーマは、自分がかすりもしないものだから面白い、と同時にこう思う。

「難しい…!」

自分が思いもつかない方向から飛んでくるテーマは、あまり深く考えたことがないものばかりだ。

テーマをもらってからすこし考えてみる。そのときのイメージをメモして、時間を置いて再度考えてみる。

大抵はその段階で話が膨らみそうなきっか

もっとみる
映画、はじまり

映画、はじまり

(今週のテーマ:映画館)



特にやりたいことがあるわけでもなく、東京に出てきてからも、なんだかパッとしない毎日がつづく。

こんなにも人がいるはずの東京で、なぜだかわからないけど、とつぜん孤独に苛まれることがある。

深夜の自販機でさえもこんな自分に同情しているのか、足元を優しく照らしてくれているような気がした。

こうしてまた眠りに落ちて、明日の朝には綺麗さっぱり忘れてる。そう自分に言い聞

もっとみる
きっとそれは日常が色付く魔法のようなもの

きっとそれは日常が色付く魔法のようなもの

(今週のテーマ:手のひら)



日中の日差しが恋しくなる少し肌寒い日のこと。今日もいつもと変わらず1日アポ続きで、本日最後、4件目の打ち合わせだった。

夕方になる頃にはやや疲れが出てきたが、ジャケット一枚羽織って歩ける、心地よい気温が唯一の救いだった。

最後のアポイントは、とある大手企業との打ち合わせで、今回が2回目の訪問だった。このための準備はしっかりとしてきたし、何事もうまくいくような

もっとみる
雨の空港

雨の空港

(今週のテーマ:空港)



夜中の空港は昼間の活気とまではいかないけれど、これから始まるであろう大なり小なりの心踊る”なにか”を感じることができる。

友達同士で旅行の最終計画を練っている人たちやカフェでPCとにらめっこするビジネスマン、ベンチで肩を寄せ合うカップル。

ここをはなれるまでのほんの数時間、みな思いおもいのひとときを過ごす。夜中の空港は昼間のそれとは違い、一人ひとりの旅路を鮮明に

もっとみる
真夜中のさんぽ

真夜中のさんぽ

(今週の共通テーマ:真夜中の散歩)



またどこからか、何度目かわからぬ夜がやってきた。

右、左、右、左、右。
自分の足が地面をとらえていることに、それを頭がきちんと自覚できていることに、とたん、嬉しくなる。
静かなまち。誰もいない道。ドクン、ドクン、と一定のリズムを刻む自分の心臓の音だけに、耳がかたむいていく。

どうやら今日もちゃんと「わたし」が帰ってきた。
おかえりなさい。
ただいま。

もっとみる
真夜中散歩

真夜中散歩

(今週のテーマ:真夜中の散歩)



スマホとサイフ、家の鍵をポケットに入れ、まだ冷めきらぬ身体を外に出す。まだ乾ききらない髪の湿気を振るいながら、歩き始める。

白いTシャツに肌触りのよい短パンの寝間着姿だったが、日中の暑さからは一転し、すこし肌寒いぐらいだった。

自宅から徒歩9分歩いたところに、ひっそりと住宅街に溶け込むコンビニがある。そこでまずは食べたいアイスを買って散歩するのが、毎週休

もっとみる
大人になったなあって思う瞬間

大人になったなあって思う瞬間

(今週のテーマ:喫茶店)



軽快なジャズピアノが流れる店内。久しぶりに友人と話す場所としては、我ながらナイスな選択だった。

「大人になったなあって思う瞬間、ある?」

唐突に友人が、そう尋ねてきた。彼のブラックコーヒーを眺めながら、初めて喫茶店に訪れたときのことを思い出す。

とある男性が、質素なブレックファーストにホットのブラックを飲んでいる最中、ある女性と出会う。映画冒頭のワンシーンの

もっとみる
喫茶「ねこのひたい」

喫茶「ねこのひたい」

(今週の共通テーマ:喫茶店)



カラコロと小気味よいベルの音が、乾いた大地に響きわたる。細くあけたドアの間からは、パラパラと細かなオレンジの砂が舞い込んできた。
今月は、まだ雨が降っていないからだろう。ぽつり、ぽつりとわずかに生えた緑たちも首をうなだれている。

オレンジの砂の山の向こうに見える空が夜のベールを脱ぎ、薄紫色の化粧をはじめている。こういう日は特別に暑く、雲ひとつなくなること

もっとみる
共同マガジン「雨の日の午前3時」はじめます

共同マガジン「雨の日の午前3時」はじめます

一方通行の手紙のような、だけどどこかリレー小説のような。
共同マガジンをはじめます。

「あ、これからなに書こうかな」と迷ってる時間がいちばん好きだ。
あてのない旅と、あてのない文章はよく似てる。とおもう。

ここ最近、ブログだったり、クライアントワークだったり。そんな ”書かなければ” に追われていた日々。ひさびさに開いた、2年前のnoteに綴られていたことばは、
「誰かに正確に何かを届ける

もっとみる