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Cornelius&坂本慎太郎ライブの思い出

 2023年8月17日、Corneliusと坂本慎太郎の対バンライブに行った。

 両者ともほぼ全作品聴いている大好きなミュージシャンというだけでなく、坂本慎太郎作詞×小山田圭吾作曲というコラボワークで作られた楽曲群もまとめてプレイリスト(下のリンク)にして日常的に聴いているくらいこの組合わせ自体が好きなので、発表されたときは自分が行けるかどうかに関係なく胸が躍った。

 発表時点で倍率のかなり高いことが予想され、ダメ元で申し込んだところ、幸運にも当選した上に、何と整理番号も1桁台だった。
 今自分の生活は全くうまく行っていない中で、その一転突破なツキ方がアンバランスで、人生って不思議だと思った。

 地元の福岡から飛行機で東京に行き、当日1泊して帰ることにした。お盆シーズンで飛行機代がLCCでもかなり高いのが痛かったが、宿泊費を極限まで安い宿を探して節約した。

 細かい旅の思い出は割愛する。恵比寿リキッドルームで開場時刻を迎えた。当然最前列の位置に陣取った。
 実は二組ともライブを生で観るのはこれが初めてだ。観て自分がどんな気持ちになるのか、想像もつかなかった。
 ライブは定刻きっかりにCorneliusの出番から始まった。開演後最初に覚えた感情は、意外にも“恐怖“だった。

 Corneliusの1曲目「MIC CHECK」はスクリーンの映像とシルエットで始まるいつもの演出だったのだが、とにかくドラムの音が大きくてびっくりした。その瞬間、今日の二組の演者がどちらも、親しみやすいMCなどが一切ない、ストイックに芸術を見せるタイプのアーティストであることを思い出し、これから突きつけられる物の色んな意味での大きさに恐れおののいてしまった。これから異界に入るような気分だった。ホラー映画の主人公のような気持ちだと思った。
 その後、「火花」のかっこいいギターリフで小山田の指さばきを堪能したり、「Too Pure」は音源と違ってリズムが変則的すぎて合ってるのかズレてるのかわからないなと思ったり、「変わる消える」のサビもリズムが急に変わって面食らったけど身体を揺らしてみたらちょっとリズムが掴めた気がしたり、「Another View Point」ではノリノリになって楽しくなったりした。あらきゆうこのドラムがちょうど目の前にあり、迫力が凄まじかった。急な大きい音で一瞬意識が飛ぶ瞬間が何度があった。今自分は”彼岸“に近い場所にいるなと思った。
 最後の曲は「続きを」で、今日のレパートリーの中では一番ポップで親しみやすい曲だった。坂本慎太郎が書いた歌詞も心に沁みた。堀江さんが間奏で鍵盤ハーモニカを弾いていることに2番から気づき、微笑ましかった。

 坂本慎太郎は、あまり聴き馴染みのない「小舟」から始まった。2曲目も知らない曲だと思っていたら歌い出しでCorneliusへの作詞提供曲「未来の人へ」であることがわかり、知らない曲どころかついさっき聴いた曲だったので笑ってしまった。コーネリアスとは全然違うアレンジで、アダルトなムードが良かった。
 客席後方からステージに照射されるピンポイントのレーザーがゆっくり動く演出が多く、演者の顔に被さる瞬間もあって眩しくないのかなと思った。自分の顔の近くに来ることもあり、レーザーを真横から見ることもなかなか無いのでつい目で追ってしまった。虹色で綺麗だった。目で追ってしまうといえば、ライブ映像を撮っているカメラマンが自分とステージの間に来るときがあり、そのときに撮っている画面が仰角の逆光でいちいち綺麗な画だったので、眼の前で演奏しているのについその画面を覗き込んでしまった。
 それにしても、カメラマンが来るとき以外は、自分と坂本慎太郎やコーネリアスとの間に何も隔てるものがないというのはなかなかの異常事態だと何度か意識せざるを得なかった。もうこんな機会は二度とないだろう。
 「君には時間がある」「悲しい用事」「ディスコって」など、ノリが良くて踊りやすくまた楽曲としても好きなナンバーが多くて良かった。特に「ディスコって」は歌詞の内容が今この状況の楽しさと重なり、多幸感で身体の動きも大きくなった。

 アンコールの拍手が起こったけど、案の定再登場は二人とも無かった。

 ――なんだか非現実的な時間だった。世の中にある手続きや規律や法則や理屈などが、あの時間には全く関係のないように思えた。
 ライブというのは客観的に見れば日程が決まっていてチケットを買う手続きがあって、まごうことなき経済活動の一つなんだけど、その場にどっぷり入った自分の感覚としては、そんな世界のルールから遥か遠く彼方にある場所に居た感覚だった。最初に感じたホラー映画の主人公みたいな感覚もそういうことなんだろう。極端な話、あの場所で死んだりとか何か超常的なことが起こったりしても全く不思議じゃないと思った。それくらい現世からの隔絶感があった。

 あまりにも質の高い体験というのは、僕にとって世界の仕組みの頂点にいるような感覚ではなく、世界とは全く別次元のどこかに放り出されたような感覚になるということがわかった。

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