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烈空の人魚姫 第4章 策動のアトランティス大学 ⑥侵食する柱

小高い海丘と一体化するように城のようなアトランティス大学の城壁はそびえ立っている。
正門を潜ると、海底に沈没した文明の残骸のような柱や壁が迷路のように広がっていて、大学構内の様子は奥に進まないと見えなくなっているようだった。
フレイム1号に案内ナビゲート機能が付いていなかったから今頃ぐるぐる迷っていたに違いない。

校舎はいくつかの棟に分かれていて中央の広場をぐるりと囲むように建っている。
中央の広場は観客席がついた小さな闘技場のように見えるーーここで人魚や深海魚たちは日々のストレス発散のためにここでバトルをしたりしているのだろうか?
さっきのインフィニティの話だと人魚魔女間紛争を止めに行くために部隊を結成するくらいだから、この大学の生徒は相当血気盛んなのかもしれない。



そんなことを考えながら、カケルは大学のオープンキャンパスにでも来たような気分であたりを散策してみることにした。
校舎の窓を覗くとどうやら中では講義やゼミの真っ最中ーーー
でもダイオウイカ先生の姿は見当たらない。

カケルは中央の闘技場を挟んだ一番奥の棟の校舎までゆっくり進んでいくことにした。


「フレイム1号、もしかして充電が残り少ないんじゃない?」

『バッテリーザンリョウ、アトノコリ40%』

満堂君たちの声が聞こえてこない。
ーーーと言うことは向こうは夜なのかもしれない。
間違いなく満堂君は寝ているだろう。
もう少しだけ進んでみてゲームのようにセーブする、ことが出来たらどんなに良いだろう・・・とカケルは思った。
ゲームならセーブポイントからまたスタート出来るけど、一旦地上に戻ったらまた一からあの海底メトロリュウグウラインに乗り込んでここまで来る必要がある。

(充電残量が残り40パーセントなら満堂君が起床する朝まで持つはずだ。行けるところまで行ってみよう)


カケルは奥の校舎が他の校舎よりも静かだったこともあり、思い切って校舎内に入ってみることにした。
目の前に廊下と左側に廊下に沿う形で自習室や講義室が並んでいて、廊下の先には階段が見えた。
手前の教室は自習室のようで、何人かの学生たちが研究用と思わしきビーカーやフラスコを手に取って観察しながらレポートをまとめているようだった。
何人かの学生はシルバー色の鏡のような画面に向かって取り憑かれたようにキーボードで何かを打ち込んでいる。
他の棟よりも研究用の機材が多いように見えるーーーその時、カケルに気づいた学生の一人が教室の窓から顔を出した。

『オープンキャンパスの高校生?ここは大学院棟だよ。上の階のイロード研究室に用があるなら別だけど』

別の大学院生が顔を出した。

『イロード学長は今忙しいわよ。研究もあるけど、大学付近の街の治安悪化のこともあるし対策に追われているのよ』

「えっと、リトルエンケラドスの・・・」

『そうそう。あの事件は怖かったわ。中心となった深海の魔女はイロード学長で監視中だから大丈夫だと思うけどね。でも深海の魔女より正直あのバブルとか言う子・・・あの子が一番怖いわ。』

『突然巨大化して魔女を襲うんだもんな。怪物みたいって言うか。この大学にもういなくてよかったと思うよ』

カケルは眉を潜めて大学院生を睨む。
その時フレイム1号の両目のランプが赤く点滅し出した。

『キケンナエネルギーハンノウアリ!』

ここで?
また例のレッドアラートが発動するなんて・・・この場所の何が危険なんだろう。
どこからどう見ても普通の大学の校舎だ。
自習室で集中していた大学院生たちもぞろぞろ出てきてフレイム1号を見に来た。

『ええー、可愛い。なんなの、この子。』

大学院生の一人らしいユメナマコがふわふわやってきてフレイム1号の周りをくるくる泳ぐ。

(なんだか騒がしくなってきたな・・・)

カケルはぺこりと一礼するとそそくさと2階に逃げることにした。
人魚の大学院生が悦に浸ったかのような微笑を浮かべる。

『イロード研究室の前にある柱を見てびっくりしないでね。時間と共に形を変えてじわじわと侵食されていく美しい柱なの』



2階に上がるとすぐにイロード研究室・兼学長室はあった。
古びた大きな扉はどんな素材でできているのか分からなかったが、硬い岩石で出来ているように思われたーー所々に貝殻が堆積されきらきらと輝いている。
しかし、そんな重厚な扉の存在感も霞むくらいに目の前にある2つの柱は独特の存在感を放っていた。
ピンク色と緑色のコントラストを放つサンゴが天井から床まで1本の柱のように生息している。

「熱帯に生息しているはずのサンゴがどうして深海ここに?」

深海サンゴと呼ばれる深海に生息できるタイプのサンゴではない・・・このサンゴは間違いなく太陽光の届く浅い海域に生息している熱帯サンゴだ。
どうしてこんな1000m以下の光の届かない深海に生息しているんだろう。

2本の柱のサンゴは勢力域を伸ばそうと天井や床に徐々に広がり始めている。
カケルはもっと目の前に行ってサンゴを観察した。
よくよく見ると、その柱のサンゴは1種類では無いらしい。
天井に伸びるシェルピンク色のサンゴ、そして床に伸びるコバルトグリーン色のサンゴが互いに領域を争って侵食しあっているようだ。
どちらかというと柱上部に生息するシェルピンク色のサンゴの方が優勢で、柱下部のコバルトグリーン色のサンゴは逃げるように床に向かって広がっているみたいに見える。


(光を求めてサンゴは争うことがあるんだっけ・・・)

確か昔に見た図鑑か何かに書いてあったことをうろ覚えながらカケルはぼんやり思い出す。
でもここには太陽光はないのに何をエネルギーにして生息しているんだろう。
さっきの人魚はこの柱を美しいと表現したけど、この異様なくらいに生命エネルギーに満ち溢れたこのサンゴたちはカケルから見るとちょっと不気味に思えた。

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あらすじと登場人物

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