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笑いへの憧れ

小学校3年生の時の話。僕の学年は1クラス30名で、5クラスあった。
僕はどちらかというと明るくて、友達が多く、思ったことをすぐ口に出せる子どもだった。と同時に、とても傷つきやすくもあって、女の子に泣かされることもあった。今考えると、いじられキャラだったんだと思う。けど、当時は「いじられる」意味すらよくわかってなかった。家から学校までが2キロぐらいあったので、言われた傷ついたことをずっと反芻して帰ることもあった。

ある日席替えをすることになった。自分の前の席がTという男の子になった。すぐ友達になった。Tは僕とよく似ていた。明るくて、友達が多い。けど決定的に違う点が一つだけあった。それは、ユーモアのセンスだ。

当時僕の小学校は男女が必ず隣どうしになるように席が割り振りされていた。僕の隣に女の子がいて、僕の前はT、そしてもちろんTの隣にも女の子がいた。僕は正直、「女の子」という存在が怖かった。「ファイル入れの使い方が汚いから部屋も汚い」とか「家が自営業のこと」とかをすごいいじられていた。今思えば、『お前、人気ものじゃん。うらやましい〜』って一言かけてあげたいけど、当時は全くそう思えなかった。女の子たちを「よく分からない角度で喋ってくる、そして傷つけてくる生き物」として捉えてた。

ある日のこと。授業の休み時間、Tが鼻をかんだティッシュを机の上に置いていた。そしたらTの隣の女の子が眉毛をギュッとつりあげながら「汚い!」とTに言った。その時僕は「自分だったら死ぬほど傷つくなぁ。Tはなんて返すんだろう」と思った。そしたらTはヒョイとそのティッシュをつまんで女の子に手渡し、「はい、これさぁ。誕生日プレゼント。」と言った。

衝撃だった。

僕は、何なのか最初理解できなかった。Tは笑ってた。そして渡された女の子も笑ってた。そしてそれを見た後に、僕は笑った。汚いティッシュを、自分なら怯えてしまうこの状況を、Tは一言で変えてしまった。僕にとってその言葉は魔法みたいだった。Tみたいになりたいと思った。

その思いはどんどん育っていって、5年後の中学2年生のころにお笑い芸人という職業を知って、目指すようになる。本気で目指した時は目指したときの理由があるけど、今改めて文字で振り返ってみると、この経験が小さな種になっていたんだなと思う。

結局Tとは小学校の時がピークで、高校は別々になる。最近はフェイスブックのタイムラインが1年に1回だけ更新するのを見るだけ。それを見ても、どこにいるかも、何をしてるかも分からない。


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