見出し画像

2019年度の新日本プロレスが見せた"進化"

今年も東京ドーム大会が終わり新日本プロレスの"2019年度"が終了した。
新日本プロレスにおいては一年と締め括りとして東京ドーム大会が開催されるため、その暦においてはドーム大会終了と同時に年明けを迎えると、少なくとも私は考えている。

今年のドーム大会は史上初の1.4,5の2days開催となった。
2日間の興行をそれぞれ一言で表すとこうなるだろう。
1.4: 1つの時代の終わり
1.5:  新日本プロレスが踏み出した新たな一歩

令和となって初めての東京ドーム大会。ということで今年のドーム大会は新日本プロレスにとって次の数十年を左右する一歩目となる。つまり新日本プロレスが新たな時代を切り開くきっかけとなるべき大会であった。私は新日本プロレスが見事にこれをやってのけたと感じている。特に史上初開催となった1.5大会において。

1.4は平成プロレスの振り返り

1.4は今までも開催されてきた。いわば、毎年恒例の大会である。ここまではまだ新日本プロレスも平成である。そんな興行だった。
平成プロレスの象徴とも言える獣神サンダー・ライガーの引退試合に始まり、ユニット抗争の形を持ったタッグマッチ、そして各王座戦と、これまでのやり方を踏襲した、平成を振り返るかのようなどちらかというと保守的なマッチメイクであった。
第一試合のライガー引退試合ではライガーの歴史を彩ったレスラーが集結し、最後は最も年代の若いレスラーである田口隆祐がライガーから3カウントを奪い、その歴史に1つ目の終わりを示した。
そこからは軍団抗争。これも今までの新日本、というよりプロレスの典型的なマッチメイクである。それが終わるとそこからはタイトルマッチに移る。
IWGPヘビーのタッグやUSヘビーのタイトルマッチが行われた。
ジュニアヘビーのタイトルマッチではハイレベルな空中合戦が行われた。このようなジュニアの戦いはまさに平成になってさらに進化したものであり、それがゆえに昭和プロレスの代表選手の一人であるビッグバンベイダーがtwitter上でその攻防を否定したこともあった。しかし新日本プロレスはその「平成ジュニア」をこの1.4大会でもやってのけた。
次はインターコンチネンタル王座戦。これは平成に入ってからその輝きを増してきたタイトルである。そのためもちろんこのベルトは平成の新日本を支えてきたベルトである。そこで平成後期の新日本を支えた内藤哲也が勝利した。
最後はIWGPヘビー王座戦。これは紛れもなく新日本プロレスを象徴する戦いであり、平成にも数々の名勝負が繰り広げられた。そこで平成後期の新日本を支えたオカダカズチカが勝利した。
このように1.4大会はライガーの引退試合による1つの時代の終了、それに加えて平成新日本プロレスの振り返りとも言えるような大会が開催された。

ではそんな大会になぜ棚橋がいないんだ!と多くの方は思うだろう。
しかし、いわゆる暗黒時代にプロレスファンとなり、棚橋弘至ファンである私にとって、この日のタイトルマッチに棚橋の名前がなかったことは私にとっては非常に喜ばしいことである。仮に棚橋がオカダカズチカや内藤哲也の対戦相手として試合を組まれていたらそれは何を意味するだろう。
それどころか棚橋は翌日1.5にセミファイナルでクリスジェリコとの試合が組まれている。これは棚橋がまだまだ令和の新日本の中心に立ち続けるということを意味しているのではないだろうか。

1.5で新日本は確実に進化とその覚悟を見せた

さあ、1.5は今まで平成のプロレスにはなかった、新時代令和の新日本の始まりである。その象徴とも言えるのが物議を醸しているあの「終わり方」であろう。
新日本はあの終わり方で確実にその進化への覚悟を見せしめた。
平成の新日本プロレスといえばやはり、暗黒時代からの復活である。その復活を支えたのがやはり棚橋弘至・オカダカズチカ・内藤哲也である。この3人に共通すること。それはしっかりと予定調和を保てることである。新日本が暗黒時代からの復活を遂げるきっかけを作り出した棚橋弘至は今までのプロレスでは考えられない「愛してます」という一言での締めをやり通し、積極的なファンサービスによって、「ショー」への期待をするファンを増やし、そのファンの期待・予想をしっかりと成し遂げることによって確実にファンを増やしてきた。そこから新日本プロレス完全復活の立役者となったオカダカズチカ・内藤哲也もそうである。彼らがメインイベントで勝利をし、お決まりの展開を楽しむ。それが復活を遂げた新日本プロレスの「楽しみ方」であった。そこから次々に新日本プロレスはお決まりの展開を生み出し、それにさえ従っておけばファンが付いてくるという状態を見事に作り出した。これはまさにゲーム会社が母体になったからこその功績であろう。ゲームも予定調和を楽しむものではないだろうか。当然、プログラムされたものが発売されているのだから、誰も予想できないことが起ころう筈がない、皆があるべきゴールに向かっていく、そしてそのあるべきゴールを目指す。平成プロレスはあるべきゴールに向かって進んできたのである。

だがしかし、このような予想通りのプロレスはもうそろそろ頭打ちだろう。というのは多くのプロレスファンがどこかで感じていたものではないだろうか。市場が発達すれば顧客の目も肥える。現に先ほど例に出したゲームも、ソフトタイプのものからダウンロードタイプのものへと変化しつつある、これによって発売後も新たなプログラムを付け加え続けることが可能になるのである。予想できないことが起こるようになる。プロレス界も新たな時代のスタートを遂げるタイミングに来ていたのである。

それを見事に成し遂げたのが2019年度の新日本プロレスであった。
東京ドーム大会のメインイベントは内藤哲也が勝利した。オカダと内藤ではおそらく内藤の方がファンが多いのが現状で、さらに内藤の方が会場皆で合唱できる締め方がある。オカダも締め方がなくはないが、一体感でいえば内藤の締め方の方が強いであろう。それをさせるのが今までの新日本プロレスであった。がしかし、今年は違った。KENTAが止めに入った。私はバレットクラブ、KENTAのファンではないがこの光景を見たとき思わずにやけてしまった。興奮した。ついに新日本が動き出したと感じた。だが、実はこのような予想外の「締め」は初めてのことではない。新日本プロレス上半期の総決算と言われている大阪城ホール大会でも同じことが起こっていた。私は運よくこれを現地観戦していた。メインイベントでオカダが勝利するのだが、試合ではレインメーカーを出さず、オカダのマイクもなく退場。2019年度の上半期を締めくくる大イベントは音を立てずに終わった。ここで新日本は新たな時代に向けて片足を踏み出していた。そしてもう1つ重要なことがある。その時に遺恨が生まれた、棚橋vsジェリコである。しかしその後特に展開もなく一年が過ぎ、東京ドーム大会を迎えた。それが1.5のセミファイナルである。つまり1.5は新たな変化の片鱗を見せた大阪城ホール大会の続きだったのである。そしてそこで新日本は大きな転換を見せしめた。素晴らし過ぎる。
そしてあの終わり方である。昭和プロレスのような、WWEのような展開だった。だが今は会場に火がつけられたりしない。リングアナが土下座する必要もない。なぜなら観客にも会社にもTwitterがある。これは新日本がV字回復を遂げた際に注力していたSNS戦略の恩恵である。ファンはその場で暴れなくてもTwitterで嘆けばいい、会社は平和な環境でファンのリアルな反応をチェックできる。

とにかく新日本は今回のドーム大会で新たな一歩のもう片足を踏み出した。
これから新日本は「予想外」の展開を数々見せてくれることになるだろう。
WWEのようになるのか、進化した日本の昭和プロレスのようになるのか。
メイ社長は幼少期、昭和プロレスのファンだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?