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「個性」を企業間でシェアする時代?

「個性を尊重しよう」「個性を発揮してもらおう」。教育業界でも人事・人材開発業界でも、こういった言葉が呪文のように唱えられています。

しかし、「個性」というものについてきちんと考察している業界人は多くないように思えます。果たして「もともと特別な Only one」を「ありのまま」を受け入れることが個性尊重なのでしょうか。そもそも個性って何なのでしょうか。個性はどのように形成されるのでしょうか。

この点に関連して、社会学者・哲学者であるゲオルグ・ジンメルの命題が興味深いので、紹介させていただきます。

ジンメルは、32歳当時に著した『社会分化論』において、「人格とは、もともとはたんに無数の社会的な糸の交錯する点にすぎない」と指摘しました。要するに、人格とは、文化の諸要素を結合させたものであって、それらの要素は集団に所属することによって個人に伝えられる。したがって、個人が所属する集団の数が増せば、それだけ、人格はより個性を発達させることになるということです。

さて、「さまざまな要素を結合させる」という発想は、実は組織のダイバーシティーの議論とも通底します。

経団連はかつて、ダイバーシティーを「多様な人材を活かす戦略」であるとし、「従来の企業内や社会におけるスタンダードにとらわれず、多様な属性(性別、年齢、国籍など)や価値・発想をとり入れることで、ビジネス環境の変化に迅速かつ柔軟に対応し、企業の成長と個人のしあわせにつなげようとする戦略」と定義づけました。

この定義によれば、「多様な……価値・発想」、すなわち「多様な個性」を取り入れることがダイバーシティーの基礎をなすことになります(「属性」は「価値・発想」の前提として求められるものであり、ダイバーシティーの本質ではないと思われます。)。

ここで、ジンメルの考え方と経団連の定義とを組み合わせると、ダイバーシティーのある組織には、個性的な人材が(たくさん)必要で、個性的な人材であるためには、その人材は多様な集団に所属している必要があるといえます。

そのため、真の意味でのダイバーシティーを実現するには、他の集団に所属することを許容しない「人材の囲い込み」は逆効果となる可能性があると考えられます。囲い込まれた人材は、その組織のみに所属することにより、その組織の文化に染まりきってしまうからです。極論ですが、ダイバーシティーを極めようとすると、人材の「多様な組織への所属」を許容する必要があるため、ダイバーシティーによる恩恵は1社で独占することはできないことになります。

「プロジェクトベースで人が集まる」という働き方も増えつつある中で、「組織」という概念について考えなおす時期がきているのかもしれません。

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