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ファクシミリの何がそんなにすごいのか

GLOBIS CAPITAL PARTNERSの野本です。

 「DX」というワードを聞かない日はない、そんな昨今ですが、とりわけDXの話のときに注目の的となるのがファクシミリ、通称FAXです。良くも悪くも大きな存在感を放っているがゆえ、「紙」と一緒に攻撃されやすい立場にあるファクシミリですが、逆にここまで浸透しており、かつ、今もなおしっかり活用されるファクシミリは、実はすごい存在なのではないか。根強い人気を誇る理由があるのではないか。と思い、ファクシミリのスゴさについて徒然なるままに考えてみました。

ファクシミリの沿革

 当初は、社内でのクローズドな情報伝達手段だったファクシミリですが、電話回線の解放により、不特定多数に対応できるようになり、ネットワーク性を帯びて発展していったそうです。
 また、出力される紙については、当初は感熱記録だけだと保存性が悪いため、別途コピーをとったりしていたが、普通紙対応が進み、その利便性も改善されていき、最終的にはファクシミリ・スキャナ・プリンターが複合機として一体化されたことで、その普及をさらに後押しされたと言われています。

ファクシミリの優れたUX

 では、ファクシミリが今もなお重宝されている理由はどこにあるのでしょうか。以下は、「ファクシミリの系統化」による指摘です。

ファクシミリの良さは送られた情報を取り出すためのパソコン操作などの必要がなく、即時性に優れていることである。こうしたメリットと、受発注の伝票などに見られる情報の信用性、証拠性などのニーズにはまだファクシミリに取って代われる代替手段がない。こうしたニーズは代替手段の出現までは継続するであろう。

 ポイントは、①即時性と、②信用性・証拠性の2点にあります。
 ここでいう①即時性とは、パソコンの起動・ログイン・アプリケーションの起動などの作業なく、「目に入れなければいけない情報が印字された紙がそこにある」という状態を指すのだと思われます。確かに、「パソコンの起動・ログイン・アプリケーションの起動」って書くだけでも面倒ですし、実際のところ、僕もPC起動中でない限り情報受信・閲覧はiPadが中心です。
 また、②信用性・証拠性については、おそらく、「手書きによる筆跡が残るため、誰が記入したのかが追跡可能である」ということを指しているのではないかと思われます。(この点については、電子化されたほうがタイムスタンプ等による証拠性が高まるという考えもあろうかと思います。)
 しかし、よく考えてみると、これらの特徴はファクシミリの特徴ではなく、「紙」というデバイスの特徴なのではないでしょうか。ファクシミリの機能とかそのネットワーク性も強力だが、根本的には最強デバイス「紙」に最適化されているからファクシミリが根強い人気を誇っている可能性があります。

スゴイのは「紙」というデバイス

 紙は、パピルス以来、情報伝達デバイスとして圧倒的な歴史を誇ります。世界史の授業でも教わったとおりです。
 紙の利便性として、「モバイル性の高さ」「一覧性の高さ」「ペンで書き込める手軽さ」「電源投入なく確認できる即時性」といった特徴を挙げる記事もあります。
 また、「街頭やイベントで、何も準備していない相手に対して多くの情報を伝えることができます。利用の日時場所が限定されるイベントや広告において、紙による手早く簡単な情報伝達の優位性は、当面ゆらぎそうにありません。」と指摘する記事もあります。社内報をあえてメールではなく印刷して配る会社もあると聞きます。
 よりシンプルに表現するとしたら、「人間が、直接的に、情報を出入力するデバイスとして最強なのが紙」となるでしょうか。「直接的に」というのは、電源起動とかアプリ起動が不要という趣旨です。実際、紙媒体で確認しないと原稿の誤植などを発見できなかったりする経験、ありませんでしょうか。フリック入力するよりペンで殴り書きのほうが早かったりすることありませんでしょうか。

「紙」も無敵ではない

 もちろん、「紙が最強」という結論に落ち着きたいわけではありません。コロナ感染者の集計がファクシミリで回っているのは、やはり健全ではありません。
 「紙」の弱点としては、以下が挙げられます。

・物理的な保管コスト
・インタラクティブ性がない/情報処理がしにくい
・リアルタイム性がない
・履歴管理性/検索性が低い

 先ほどの表現と平仄をとると、「コンピュータが、情報を出入力するデバイスとして弱いのが紙」ということになるでしょうか。
 ファクシミリ、ひいては紙がDXの文脈において問題視される傾向があるのは、人間が直接的に信号を出入力するにあたって楽だというメリットのみに囚われて、こういったデメリット/弱点に苦しみ続けているからではないでしょうか。

では、いわゆる業務改善系DXはどうするのか

 以上を踏まえれば、アプローチとしては、

① 人間優先アプローチ
 紙以上に便利で人間の目や手にフィットした、クラウド直結で情報検索性やリアルタイム性が担保された電子ペーパー的なものを発明する
② なるべくコンピュータで完結アプローチ
 人間の判断が必要のない/少ない業務フローを構築する
③ 折衷アプローチ
 「人間が直接的に信号を出入力するのに楽」というメリットを一定は犠牲にしつつ、インタラクティブ性・リアルタイム性・情報管理性を強く追求する

というアプローチが考えられます。
 業務改善系DXプレイヤーとしては、当然、②や③のアプローチに取り組むのだろうと思います。
 つまり、人間という情報処理機構を経由するのが問題なので、業務フローから人間の判断を除外、あるいは可能なかぎり減らしてしまうのです。広告業界において、ファックス等を活用した人力での入稿調整などを経て、RTBに辿り着いたのが一つの成功例なのではないかと思います。
 仮に人間の判断を挟むとしても、インタラクティブ性・リアルタイム性・情報管理性を強く追求するべく、情報を可能なかぎり紙以外で処理してもらうようにします。

本質は業務フローの再構築

 このように、DX文脈における「ペーパレス」や「脱ファックス」の本質は、①人間の判断を介在させない/減らす業務フロー・情報処理システムを作り上げ紙を不要にする、あるいは、②紙の利便性を上回るメリットを実現するために意志をもってコンピュータに権限移譲することが本質なのではないでしょうか(よく考えたら当たり前の結論ですが。)。コロナ感染者集計の問題は、「その集計を人間が手書き/目視で進めなければならないシステム」にあります。
 いままで介在していた「人間」という情報処理機構を業務フローから外す/減らし、コンピュータに権限移譲するには、暗黙知の形式知化、それに基づく条件分岐などのアルゴリズム構築、出入力データの定型化などが必要となります。人間の介在を外すのが「性急にすぎる」のであれば、紙のメリットには理解を示しつつ、折衷アプローチを取る。
 決して簡単ではありませんが、これが実現された暁には、業務フローにおいて伝達されていた情報がデジタル化され、もう一段深いDXに取り組む土台が形成されることになります。発展的にはブロックチェーンなどを活用することになるでしょう。

まとめ

・人間にとって、いまのところ紙が最強の情報出入力デバイス
・ファクシミリは紙に対する出入力に最適化されているからこそ根強い
・一方で、紙はデータ管理/処理、もっと言えば、コンピュータには不向き
・業務フローから人間の判断/出入力を減らすことで、紙が減り、ファクシミリが減る
・業務が効率化されると同時に、データ管理/処理性が高まり、もう一段深いDXに取り組むことも可能になる

というのが本稿の骨子でした。
 ファクシミリよりもむしろ紙の話になってしまいましたが、「人間の判断の介在が少ない業務フロー・情報処理システム」を作り上げているスタートアップの皆さんを応援しておりますので、ぜひ壁打ちさせてください。

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