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私を表す物

数年前、事務所のレッスンで「自分を表す物を持ってきて、それを使って自分について説明しなさい」という課題を出された。
周りは皆割と口を揃えて「自己PRの類は苦手だ」とモニョモニョしていたのだが、声優になるまでの間に様々な種類のオーディションを受けてきた私は、もっとぶっ飛んだ課題は割り方かいくぐってきた。心の中で「こういうのは得意なんだ任せとけ!」と意気込んだのだ。

そうしてわたしが課題の発表時に持っていったのは、この本型の箱だ。

架空の本を模した、インテリア用の収納箱。この中には、キラキラしたアクセサリーやホラーにちなんだ物、変わったデザインのサイコロなどを詰めていったはずだ。

なぜ私が箱(しかも本型の)なのかといえば、十代からずっと私が目指してきたものが“びっくり箱”だったから。
「開ける度に違うものが飛び出す、
そんな存在で在りたい」
そう言った説明も当時から変わっていない。
外観は、私が幼少期からたくさん読んできた本そのもの。本は私を形作るものの一つだ。
けれど開けばただの本ではなく、中には色んな一面が詰まっている。飽きない、驚きのある、いつも違うものを見せられる、そんな存在を目指している途中なのだ。だからまだまだ箱に他のものが入るスペースもあるのだと。
なんて的確に表現出来たのだ!100点満点ではないか!というアピールが出来たと今でも自負しているが、レッスンでは特に手応えはなかった(私が別段どうとかではなく、それを考え発表することに意義があり、その結果には皆さほど触れられていなかった。)。
ひどく拍子抜けしたあの気持ちは今でも忘れられない。

話は少し逸れるが、“自己PR”は苦手だという人をよく見る。実際に特別レッスンなどに立たせてもらうと、自己PRをしているはずが“自己紹介”になってしまう生徒さんもよく見かける。
「北海道出身、血液型はA型、好きな食べ物はピータンといかフライです。」
これはまさに自己紹介だ。けれどどうしてもここからスタートしてしまう人が多いのは、遠慮と謙遜の美学が讃えられる日本人“らしさ”なのか。

「自己PRなんて、自分のいいところだけ言えばいいんだよ!わざわざ短所をばらしてマイナスアピールする必要は無い。」と言った講師の方がいる。その通りだと私は心内で頷いていた。そのあたりは前述したように数々のオーディションを受ける中で学んできた。
だからたとえば、我々声優としての自己PRでは「私はこんな声の特徴を持っていて、こういう役柄が得意です。」なんて言葉を出せばいいはずだ。
けれどそこで難しいのが、“正しく自分を客観視出来ているのか”というポイントなのだろう。
「○○が得意です!」と言ったところで、自分では自信があっても、歴戦の先輩方から見たらサッパリ……なんてこともある。なんて恐ろしい。

おそらくだがこのレッスンでの課題は、“客観視”をさせるために出されたものだったのではないだろうかと今は思う。ならば尚更、この箱は私を表すのに的確だったのか?その答えを知るべきだった。
あちゃー。拍子抜けして終わっている場合ではなかったのだ。かと言って今やその講師の方に訊く術は無いし、そんな日常のカケラみたいなことは忘れているだろう。
だから私はこの例えが合っていたのだと、自分で実感出来るように生きなくてはいけない。

おもしろき こともなき自分を おもしろく   すみなしものは  心なりけり

自分を面白くするかどうかは自分の心次第ってぇことで。これからも、何が飛び出すかわからない自分、極めます。

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