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ゾーンから出られなくなった野球選手

週刊台本 #28 ひとりコント

(効果音:スローに引き伸ばされた歓声)

(スローに引き伸ばされたインタビュアーの声:放送席、放送席。今日は見事な活躍を見せてくれました片山選手にお話伺いたいと思います。片山選手、ホームランを打った瞬間の率直な気持ちはどうでしたか?)

あのー、そうですね。ホームランの瞬間は、今までにないくらい集中できて、ピッチャーの投げた球が、大きく、縫い目がわかるくらいゆっくりと飛んできて。ある種、ゾーンに入ったというか。それで、ヒーローインタビュー中の今も、ゾーンから出れてないです。助けてください!ゾーンから出たいです!

(インタビュアーの声:はい、では片山選手、今日の試合全体、振り返ってみて……)

あー、長いなー。長い長い長い。集中力が研ぎ澄まされてるからすごい話が入ってくる。もう、このハンドマイクが大きく、網目まではっきり見えます

(インタビュアーの声:…感想をお聞きしたいんですけど、序盤はひやっとする場面もありましたが、いかがでしたか?)

はい、試合の感想ですね。あのー、そうですね。もう、試合が終わってからのゾーンの時間が長すぎて、もう、序盤のことは、あんまり覚えてないですね。もう。体感だと、もう帰って、寝てないとおかしいくらいの時間を過ごしているんで。もう本当に、今すぐ、今すぐゾーンから出たいです。

(インタビュアーの声:今日のこの勝利の喜び、誰に……)

母親です!母親母親!あそこにいます!こんなにたくさんの人が球場に来ていますが!ゾーンに入っているんですぐ見つけられます!
母親と、あと、「今ゾーンに入っているよ」という方。いらっしゃいましたらぜひ、ゾーンの出方、教えてください。初めてなんで。今のゾーンを次の試合に取って置く方法とかも、教えてください!

(インタビュアーの声:最後にテレビの……)

あー、「テレビのファンの皆さんに一言ね」。遅いわー。遅いわインタビュアー。インタビューに本気で取り組んでねえんだよ。お前も本気で取り組んで早くインタビューのゾーンに入ってこいよ!お互い高度なやり合いしようぜ!なあ
……あのー、テレビで見てる人、多分、聞こえなくて、キュルキュル言ってるだけだったと思うので、録画をスローで見てください!ありがとうございました!

祈りましょう