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ギリギリ生前葬

週刊台本 #13  コント

(老人がベッドの上で息子に語る最期の願いは)

息子:よかったね、おじいちゃん、孫もみんな来てくれたよ
老人:ああ…最後に一つだけ…
息子:うん、できることがあればなんでもするから言って
老人:せい……たい…
息子:ん?
老人:せ…ぜ…したい…
息子:したい?
老人:生前葬がしたい…
息子:…今から?
老人:…今から
息子:今から?
老人:うん
息子:ちょっとそれは…
老人:難しいのか?どうしてだ?
息子:あんまり言うことじゃないけど
老人:うん
息子:もうまもなく本番をやるから
老人:…でも……コン…
息子:なあに?
老人:でも元々そういうコンセプトでやるのが生前葬…
息子:うん、そう、もともとそういうコンセプトでやるのが生前葬なんだけど、もうちょっと前の段階で言っておいてくれないと。なに?なんで急にやりたくなったの?
老人:その、「感じ」を見たい…
息子:うん、見たくなったんだ。まあ…、普通だね。でもさ…、しこたま時間あったじゃない
老人:うん
息子:なんで今まで言わなかったの?
老人:…なんか、言い出せなくて
息子:虫歯になった子供じゃないんだから
老人:やりたい
息子:生前葬を始めたら、終わるまで生きなきゃいけないのよ
(老人、苦しむ)
老人:ううーううー!
息子:生きれる?もうちょっと余裕あるときにやるんだよ多分
老人:ダメなのか…
息子:そうだね…一応、死ぬ前に葬式の全工程が終わるくらいの最低限の時間的余裕はないと
老人:そうなのか?
息子:あと3分で出番の漫才師が5分ネタのネタ合わせやらないでしょ
老人:そうか…その時間的余裕はどのくらいだ?
息子:わかんないけど1週間くらいはかかるんじゃない?
老人:そうか、それくらいが生前葬のラストオーダーか
息子:わかんないけどね。その表現が適切なのかは
老人:生前葬が終わる前に死んだらどうなるんだ
息子:わかんないけど、もう、想定にないから処理がおかしくなるかもしれないから
老人:バグるか
息子:バグるかもしれないね
老人:バグるか
息子:貴重ね、今天寿をまっとうしようとしている人の「バグるか」
老人:システムエンジニアだったからな
息子:日本初のね
老人:…っダメか
息子:うん
老人:…っダメかあ!
息子:ガッツはすごいいいと思うよ。最後までそうやってバイタリティが溢れてるのは。うーん、でも生前葬は難しいかなあ。もうちょっと早く言ってくれないと…他にはない?
老人:あとタトゥー入れてスカイダイビングして世界遺産を回りたい
息子:やり残したことすごい多かったんだ

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