浮気のアリバイ

週刊台本 #6　コント

（スーツ姿の男性2人が居酒屋にいる。片方の男に恋人から浮気を疑う連絡があり……）

B:いやー、やっぱさ、社会人になっても、こうやって学生時代の付き合いで飲むのが気い使わなくていいからほんと楽しいわ
A:そうだね。もう、ほぼ毎週くらいのペースで会ってるな
B:あ、ちょっとごめん
（A、スマホを開きLINEメッセージを確認する）
B:ん？なに？何見てるの？
A:あー、ごめん、彼女だわ
B:どうしたの？
A:いや、最近さ、お前とばっかり居すぎてさ、なんか別の女といるんじゃないかって
B:あー、なに？疑われてんの？
A:そうそう。ちょっとさ、「そういうんじゃない」っていう証拠、送るの…手伝ってもらっていい？
B:ああ、いいよいいよ、全然。2人で写ってる写真とか送れば良いんでしょ？
A:うん。写真で
（A、スマホで写真を撮ろうとする）
A:…ピースかな？
B:なんだっていいだろ。どんなポーズかは
A:いや…ピース以外のほうがいいか
B:変わんないだろ。…えー？ピース以外？えーっと……
A:これ…とか
（A、指ハートの形）
B:指ハート？指ハートがいいの？
A:うん
B:めっずらしいぞ、男のこれ
A:一応これで，お願い
（A、写真を撮る）
B:送った？
A:うん。大丈夫。……あ。
B:どうしたの？
A:いや、いま返信きたんだけどさ、日付がわかるものを入れて、動画で送って欲しいって
B:うわー、何？信じてない？
A:いい？ごめんねほんとに
B:いいよいいよ。やろうやろう。まあ、向こうも心配してくれてるんだしさ
（A、スマホをいじる）
B:こっちもさあ、嘘ついてるんじゃないからねえ。それにしても、彼女とも大学時代からだから長いよなあ…。動画撮る？
A:もう撮ってる
B:もう撮ってんのかよ。なんか言えよ
（B、カメラに向かって）
B:はーい、Aと飲んでまーす。今日は、12月10日でーす
A:…
B:…またおうち呼んでね〜
A:…
B:…バイバイ〜
（A、カメラをゆっくりBの顔に近づける）
B:……いつまで撮ってんだよ
（A、小声で）
A:歌舞伎みたいに
B:え？
A:歌舞伎みたいに
B:「歌舞伎みたいに」？なんだよそれ
（B、見得を切る感じで）
B:…また、おうち呼んでねえ〜
A:はい、オッケー
（A、カメラを止める）
B:なんだよこれ
A:オッケー
B:いいのか？これは
A:オッケー…最後のやつだけ切っておいたから
B:なんで切るんだよ、やらせといて。最初切れよ。グジャグジャ喋ってたところ。……どう？信じてくれた？
A:あー
（A、スマホの画面を見せる）
A:「お前が合成なんじゃないか」って
B:合成？え、合成？合成を疑われてるの？俺がCGってこと？
A:うん
B:そりゃねえだろ
A:いや、でももう、時代はそういうところまで来てるから
B:すげえなお前の彼女。っていうかお前の彼女とお前
A:だから、ちょっと、ごめんなんだけどさ…。お前が合成じゃないことを証明できる？
B:ん？ん？何言ってんだ？
A:その、お前が合成じゃないってことがわかる映像じゃないと、彼女納得してくれないからさ
B:合成？…合成かあ
A:いや、なんか。「CGじゃあ、ここまで出来ねえぞ。」みたいな
B:CGじゃできねえぞ？えー？
A:じゃあ、撮るね
B:え？待って待って
（A、動画を撮る）
B:えー、どうも、おせわになってまーす。えー、今日は、12月10日です。見てくださーい。手の甲の、毛穴でーす。どうでしょうか。宜しくお願いしまーす
（A、動画を止める）
A:うん。大丈夫
B:なんだこれ。大丈夫なのか？なんだよ「手の甲の毛穴でーす」って。なんかとっさに出たけど。なんのアピールだよ。合ってんのか？
（A、動画を送信）
A:ダメだって
B:まだダメなの！？
A:「イマ　オクッタ　メッセージヲ　動画内デ　読ミ上ゲロ」
B:なんだよその言い方。俺たちはなんだ、誘拐犯からの指示を受けてるのか？
A:オマエ　デキルカ？
B:なんでずっとその喋り方になっちまったんだよ。え？送ったメッセージを、読み上げたら、絶対に今撮った動画になると
A:これ
（A、画面を見せる）
B:これ？うん。うん…、うん…。オッケー。了解
（A、動画を撮る）
（2人、無感情な感じで）
2人：アライグマ　コップ　大黒天　白装束　新しい文明　壊れた時計　浄化物質
（A、動画を止める）
A:オッケー
B:こええよ。恐怖映像じゃねえかよ。ランダムな単語の無機質な感じ
A:これで安心してくれるから
B:めちゃくちゃ不安になるよ。わかんないけど、めちゃくちゃやばい実験で見せられる映像だよ
（A、動画を送信）
B:これでいいだろ。なあ、これでもう大丈夫だろ！
A:…「わかんない」
B:好きじゃねえんだよ。じゃあ！もう、こんな疑うんだったら、好きじゃねえんだよ。好きなやつこんな疑わねえよ！普通！なあ！
（A、泣き出す）
A:…なんでえ〜
B:えーなに？なになになに？ごめんごめんごめん
A:…なんでそういうこと言うのお〜
B:ごーめん、ごーめん
A:好ーきーなーだーけーじゃん
B:ごーめん、なに？どうした？彼女が乗り移ったのか？
A:好きなだけなのになんでそういうこと言うの〜？
B:もう完全に乗り移ってんじゃん
A:ねえ、好きって言って
B:それはおかしいだろ。なんで俺がお前にそれ言わなきゃいけねえんだよ
A:帰って会いたいから早く帰らせてよ〜
B:なんなんだよ！いいよ別に！いいよ！帰れよ！
A:なんで止めてくれないの〜！
B:めんどくせえな！どっちなんだよ！
A:わかったわかった。じゃあ、行こうお前ん家。いまから2人で一緒に謝りに行こう
B:…やさしいね
A:お前も彼女もどっちも馬鹿だな！