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SDGsは会社の未来を創るためのツールとして使えばいいんじゃない?

※2019年6月10日初出の記事をnoteに引っ越ししたものです

昨年あたりから一気に一般的になった感のある「SDGs」(持続可能な開発目標)。

2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標で、地球上の誰一人として取り残さないことを誓っています。

目的が壮大で長大なだけに、その中身は多岐に渡りちょっと見ただけではなんのことやらと思う人も多く(筆者)、また「環境の話でしょ?」とか「途上国の問題の話ですよね?」といった一面だけ取り上げる見方をする人も多いのが実情。
筆者自身もいろいろと???な部分が多いので、詳しい人にぶっちゃけで色々聞いてみました。

 話し手:国連大学サステイナビリティ高等研究所
  いしかわ · かなざわオペレーティング · ユニット事務局長
  永井 三岐子さん
​  聞き手:サイボウズ 野水

先進国の消費を途上国がしたら地球は大変なことになる

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まず”SDGs”って物凄い一杯覚える事があるっていうか、よく分からない単語って言われません?

「また次の難しいの出てきた」みたいな。

それは国連がやってると難しくなるんですか?

(笑) ビジネスセクターはこれまでCSRとか、それが転じてもっと本業から社会貢献しようみたいなCSV、そしてESG投資の流れとかあったし、途上国の国際協力やってる人間はMDGsとか。援助関係者はそういったものをずっとやってきて、環境をやってる人なんかはまたそれで気候変動とか生物多様性条約があってみたいなのがあって。それを全部ガッチャンコしてSDGsだよねってなってますからね…。

※CSV:エクセルで使うアレ、ではなく、市場経済のメカニズムを生かし、ビジネスの力で社会問題や環境問題などにかかわる社会的課題に取り組み、社会価値と企業価値を両立させること
※ESG投資:環境(E)・社会(S)・企業統治(G)に配慮している企業を重視・選別して行なう投資のこと※MDGs(Millennium Developement Goals):2000年9月に採択された国連ミレニアム宣言と、1990年代に開催された主要な国際開発目標を統合し、一つの共通の枠組みとしてまとめられたもの、SDGsの前身に当たる

いっぱい出てきたやつ全部…「結局根っこは一緒じゃない?」みたいな話?

そう、「結局みんな下で繋がってるじゃん」みたいな話だと思うんですよね。なんとなく皆分かってたんだけど、やっと期が熟したって所なんじゃないかな。途上国だけじゃなくて、先進国の経済活動も持続可能性を思考しないと、これからの地球が持たないとか、社会の分断がもっと多くなるとか、そういった所が出てるんだと思います。

SDGsって17個でしたっけ?17の主要目標とその下に…いくつだったかな

169!​

169の具体的なターゲットでしたっけ?数すら私はうろ覚えなんですけど、ターゲットまで全部覚えてるんですか?

ないない、無理無理。しかもターゲットの下に250くらいの指標…。ターゲットが進捗してるか測る指標があるんですよ。
そんなの全部絶対に覚えられない。

普通、KPIとか指標を作る時って、できるだけ少なくしようとするんですけど、なんでこうなっちゃったんですかね?

SDGsって全世界で作ったものじゃないですか。良く言えば「包摂性があって誰も取り残さない」なんだけど、悪く言えば妥協の産物なので、そこで色んな国の色んな人の色んな社会の課題を汲み取った結果ですね。
やっぱり1~6ぐらいって途上国の問題がフォーカスされるじゃないですか。貧困とか飢餓とか。やっぱり一番に来るって事は優先順位が高いって事なんですけど、それは途上国の指標なんですね。

日本とかは相対的な貧困はあるにしても、飢餓の問題にしても、なかなか当てはまりにくいターゲットも出てきて、自分の国とか地域をそれに当てはめた時には、独自の指標とかターゲットを設定する事がむしろ強く推奨されてるんですよ、国連で。

自分の国や地域に合ったように抜き出して作ればいいって話なんですね。​

そう。会社としてそれをやるっていうのも一つだし、例えば途上国との貿易に関わるような会社であれば、それを通して途上国の当該ゴールに貢献するでもいいですし、そういう多様性って凄い認められてるんですよね。特に地域ごとの指標を作ろうっていうのが今一番求められているんです。

この169のターゲットを分かりやすく覚える方法っていうか、上手く捉える方法ってないですか?17でもいいんですけど。僕らにとっては17ですら難しい。

​デコレーションケーキで覚えるのが一番わかりやすいと思います。

デコレーションケーキ?

スウェーデンにあるストックホルムレジリエンスセンターが作ったんですけど、一番下に自然資本ですね。私達が生きてる地球の水・空気・生物・鉱物資源とか、その環境の上に平等で誰もが安全に生活するための社会の仕組みがあって初めて、その上に経済活動が成り立つみたいな。そういう考え方をすればわかりやすいですね。​

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デコレーションケーキの図。生態系が守られた上に私達の社会があり、その基盤の上に立って初めて経済活動ができる。考えてみたら当たり前の話ではあるけど、その当たり前が目先の利益で見えなくなる。

​17個全部どこかに入る?

​​入るし、この3つの組み立てのストーリーを覚えておけば目配りは出来るんじゃないかと思うんですよね。ベターッて17押し並べて、「全部やらなきゃ」「あー、しんど」みたいなのじゃなくて、
「この地域だと環境で言えばこれが課題だから、その課題を解決できるようなビジネスで貢献しよう」みたいな事をずっと考えれば、その地域ごとに良い形って出てくると思うんですよね。

考え方として凄い自然ですよね。
環境があるから我々の生活があって。例えば水が無くなったらそもそも人類絶滅みたいな所に行くじゃないですか。
その上に社会が成り立ってるっていう所で、人が居て、子孫繁栄してるからこそ企業活動がまともにできるわけですね。環境を破壊しながら経済活動を頑張っていっても、結局どこかで歪が来て永続しないよねってなっちゃうっていう。そういう話なんですよね。

そうです。下の2つを棄損しないように、あるいはもっとこれを強固にするような形でビジネスが回っていけば地球の70億人は食べていけるって事なんでしょうね。

​70億になったんですね。小学校の時40億って習ったんですけど

2011年に世界人口が70億人に到達したと推計されています。ちなみに40億人を超えたのは37年前の1974年です。

増えましたよね。​

日本の人口変わってないんですけどね

むしろ減ってますね。

これはやっぱり世界という視点で見ると、SDGsが言われてきた背景として人口爆発って関係してますか?

人間の経済活動で全部の資源の使用量が急激に増えたのは産業革命からですよね。

石油も掘り尽くして、なんたらも掘り尽くして、みんな無くなっちゃうじゃんみたいな

人口爆発って今は途上国で起こっていますけど、その人達が排出してるCO2っていったら実は10%にも満たない訳ですよね。結局アメリカとか日本とか先進国がゴチャッと資源使ってる訳ですから、今は人口が多い、というより、ある程度開発された国々の使いすぎが原因になってます。

だから、その人口爆発中の国の人達が同じような生活し始めたらえらい事になる訳ですよね

なりますね。だから技術的なイノベーションも必要ですし、再生可能エネルギーとか物理的な循環を持続可能にしなくてはいけないだと思います。

人間の欲望をうまくすくって作られたのがSDGs?


僕の感覚で申し訳ないんですけど、SDGsの後にMDGs知った感じで、以前の活動については全然知らなかったんですよね。SDGsって言葉は相当広がってるって思うんですけど、この違いは何なんですか?

やっぱりビジネスセクターが入ってるかどうかの違いだと思いますよ。​

援助だけじゃなくてちゃんと経済活動の構造も変えましょうってことですか?

そこだと思う。やっぱり私達の関心の中心って経済活動じゃないですか。いくらJICAとか国連の人が、どこか途上国のアフリカに行って援助活動を行って…って言っても、それはそれでいいんだけど…。

僕らに出来る事って、駅前で小銭募金して赤い羽根をプチンッて貰ってくらいで

ですよね。「税金通して国際協力してるんだ」みたいな話になっていたのが、SDGsで「企業活動を通して地球や社会、世界を良くする」ってなった時に、一人一人消費者も入ってくるじゃないですか。

どんな会社でも関係してくるって事なんですよね

そうです。ゴールの中に「使う責任・作る責任」って12番にあるから。
例えばアフリカってコーヒーの輸出とかあるけど、もしアフリカの輸出額が1%増えたら、アフリカが援助で受け取ってる額の5年分なんですよ。

結局アフリカの人も援助を貰いたいんじゃないんですね。本当は自分達で商売をして子供を学校に行かせたいと思ってるんだけど、そこの部分が上手くいってない。

アフリカの人達が交渉できないような貿易の枠組みだったり、搾取されてるっていう部分があると思うんです。そうすると仕組みそのものを変える必要があるんですね。仕組みで儲けた先進国が援助を施すんじゃなくて、仕組み自体をフェアにしていくみたいな。

そういう所を考えると、やっぱり経済活動のあり方を変えていくって事が大事かなと。経済という名の「人間の欲望」が世の中を動かしてるじゃないですか。

世の中、やっぱりお金かあ

人間の欲望、それをちょっとずつでいいから変えていく。お金で買えない欲望をもっと追求したいですね(笑)

1%変わっただけで世界が変わりますからって話ですね。なんか面白くなってきた。

ただ、日本ではそんなに企業は…SDGsのマークをあしらったバッジ付けてる所はあるけど、「本当にやってるの?」みたいな所も多かったりするじゃないですか。バッジを付けていて「そのバッジ何ですか?」って言われても、会社に言われたから付けてるみたいな人も結構いますから。

付けてる集団とかいますよね。
業界で「行くぞ」みたいに言われて。そもそも経団連が「7年ぶりにSDGsに貢献する」みたいな所で憲章を変えてるから、やらなきゃいけないって合意があって。
それで大企業とかだと色々やってる企業さんも出てきていますよね。​

ただ、それが「やったらすぐ利益が出るから」とか、そういった事にはなかなかなり難い。SDGsを志向して企業のあり方とか戦略から根本的に変えるとするとやっぱり時間も掛かるし、そもそも経営層が理解をして、中間層が理解をして、現場がそういう風に理解をしてっていう事に凄い時間も掛かるし、それでもって利益が出るような企業の戦略を練る、あるいはビジネスモデルを作るってなったら凄い大変な事なので、「皆でちょっとずつ良い事をしていこう」というアプローチも必要かなとは思います。

さっきの1%の話じゃないですけど、身近な所からちょこちょこやっていくだけでも全員がやったら変わるぞっていう

「ちょこちょこってやったらいい」だけじゃダメなんだけど、最初の一歩はやっぱりそうなんだと思う。​

働き方改革も、結構SDGsに繋がるものがあるんじゃないかって思ったりするんですけど

思います。ゴール8は「働きがいも経済成長も」ってあるし当然なんですけど、働き方改革って要は企業のあり方を根本から問わないと変わらないと思うんですよね。労使関係とか…

「使う・使われる」とか、そういう話じゃなくてみたいな事ですよね

そうすると、何のために仕事してるのかとか、何のためにその企業が存在するのかとか考えざるを得ないと思うんですね、経営層は。

今までだったら金儲けって言われて、儲かった金を少し頂くのが社員っていう、純粋に資本主義だとそうなりますよね。「誰も取り残さない持続可能な社会」だとそうではない?

そうではない。やっぱり社員の働きやすい会社が持続可能だろうし、社員が幸せだと次のアイディアも出るし、社員が幸せじゃないとクライアントにそういうサービスも提供できないでしょうし、っていう所だと思いますね。

そもそも一人の社員が一つ会社に属するっていう働き方さえもこれから変わると思うし、物理的な距離も問わないっていう事になると、本当に労働そのものをこれからの日本社会は考え直すのかも。

企業としてSDGsをどう実践すればいいのか?


例えば従業員100人ぐらいの会社の社長だとしたら、どう動けばいいと思いますか?

​まず世の中の変化をキャッチアップしないといけないですね。世の中が今どれだけ変わってるかっていう。地域だけで見たものと世の中全体って違うし、色んな技術とか違う世代の人の考え方とか、いろんな数値で客観視するのもいいと思います。

人口が変わらない日本だけをみてもわかりませんよね。40年間で40億から70億になった世界の大きな動きは
そこからみると、自分の事業を大きな視点でちゃんと見直してみるっていうか、例えば誰かを犠牲にしてないか、出してる製品がちゃんと世の中の役に立ってるかとか、迷惑を掛けてないかとかとか、働き方もそうですけど
今までの延長線上じゃない所を考えることに繋がるんですね

​​と思います。それがまた大変なんですけどね。
でもそうやって変わっていく事は凄い楽しいと思うんですよ。そういう変われる企業って若い人とか優秀な人が来ますよね。やっぱり変われない企業って「あーあ、まだあんなこと言ってる」みたいになるので。

若い人の方が先がありますから、ちゃんと先見てますからね。そういう所に関心を持たなかったら人来ないっていう事になっちゃいますよね。

​そう思いますね。

「なんかいいこと書いてあるけど、実際のところ説明しろと言われるとよー言わんわ」というのがSDGsに対する筆者の最初の感想でして、どうやったら簡単に説明できて、より多くの人に共感してもらえるようになるんだろうというのがそもそも取材のきっかけでした。

地球の人口が40年足らずの間に30億人も増えているのを知識として知ってはいても、二酸化炭素排出量などまでは想像したことがありません。
アメリカの人口は世界人口の5%もありませんが、二酸化炭素排出量は15%もあり、もし世界中の人たちが同じような消費をしたら地球は大変なことになってしまいます。(人口あたりでは日本も結構出してます)
人口が減りつつある日本にいたら気づきませんが、世界はすごい勢いで変わってきており、子や孫の世代ではその影響を避けることはできないでしょう。
SDGsが採択された背景には、そんな切羽詰まった危機感があるんだと思います。

「誰も取り残さない社会」は素敵な言葉ですが、「じゃあ何するの?」となるとなかなか動けない。でも「誰もが子や孫が幸せに暮らせる社会」を意識するとそれは割と早く達成可能だったりします。
「誰もが入りたいと思う会社」「いきいきと働ける社会」を目指すと地球環境をよくすることに繋がってゆくことが、よく腹落ちしたインタビューでした。​

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