からだ
生薬のなんとも言えない独特の香りを嗅ぎながら思う。
やっぱり銭湯っていいな。
数日後に引っ越しをするため、最後にもう一回行っておこうと近所の銭湯に久しぶりに行った。昭和感漂う、古き良き銭湯で大好きなところだ。
昔は家にお風呂がなかったという話を聞いたことあるけれど、毎日銭湯に行けるのなら、それもありだなと体を洗いながら思った。
お母さんが子どもの頭を洗ってあげてるのを見ていいなと思ったり、サウナから真っ赤になって出てくるおばあさんを見て心配になったり。銭湯にはいろんな人が集まってくる。外国人もよく見かけるようになった。
生薬風呂で足を伸ばして、ネイル剥げてるな、塗り直さなきゃな、なんてことを思いつつ、自分のからだに意識を向けていく。
足が短い、太い。肩幅が広い。毛が濃い。くびれは微妙。おっぱいは自慢できるほど大きくはないし、離れている。肌は色黒。
コンプレックスを挙げればキリが無い。銭湯は好きだけれど、無意識のうちに自分のからだと他人のからだを比べてしまう。
あの人、綺麗な白い肌でいいなあ。
おっぱい、大きいなあ。
足、長いなあ。
いろんな人を見ながら思ったのは、女のからだと母のからだは違うなってこと。女のからだは言い方は悪いが男の期待に応えうるからだ、という感じ。母のからだはというと、包み込まれたいような安心感がある。
わたしは女のからだにすごく憧れる。峰不二子みたいな。でも、自分のからだを鏡で見ると、女というよりは少年のようなからだと言った方がしっくりくる。
スポーツやっていたこともあって、女の割に筋肉質でゴツゴツしている感じが否めない。犬に置き換えると、ビーグル犬みたいな感じ。からだは大きくないけれど、中にぎゅっと詰まってるイメージだ。
人それぞれ、価値観は違うし、男尊女卑的な考えかもしれないけれど。
わたしは男の期待に応えうるからだになりたい。自分のからだが好きにはなれない。
今更そんなことを言っても、おっぱいが格段に大きくなるわけでもないし、足がすらっと伸びるわけでもないし、仕方ないのは分かっているけれど、やっぱり寂しい。
悩んでもどうしようもないと、水風呂に入ってさっぱりしてからお風呂を出た。からだを拭きながら、銭湯で飲む牛乳はなんであんなに特別美味しいのだろう、早く買いに行こうとわくわくしていた。
しかし、牛乳くださいって番台のおばちゃんに言った後、財布をみたらお札も小銭も入っておらず、もちろんクレジットカードや電子マネーの類も使えず、結局買わずに帰ってきたのだった。
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