見出し画像

2020年間ベストアルバムTOP10+今年をふりかえる

さあやって来ました。

年間ベストアルバム発表の時間です。

激動の2020年を彩った音楽、そしてアルバムたちをピックアップします。邦楽も洋楽も何でもありのランキング。

ストリーミングで1曲だけ聴くのはもう当たり前で、なんならYouTubeでもなんでも音楽は聴けます。その中で、未だに年間ベストアルバムだなんて古風な記事を好き好んで書く人が絶えない理由わかりますか?

音楽には、アーティストには、人にはストーリーがあり、アルバムを聞くことで、それを受け取ることが出来るからです。

どんな時代になっても、アーティストは全身全霊とストーリーを組み込んでアルバムを作ります。それに応える行為こそが、音楽の最大の楽しみだと…僕は学生時代から信じてます。

長々話すのはやめて、早速参りましょう。

TOP10

10.Khruangbin /Mordechai

画像1

まずジャケットがいい。この雰囲気って日本のバンドにはないかなって。

YouTube越しでもわかるほど強烈であったフジロック2019の名演も記憶に新しい、テキサス出身の3ピースバンド=Khruangbinの3rdアルバム。

外見からして三者三様の彼らが生み出すのは、タイファンクをベースにしたインストゥルメンタルであるが、比較的メロディアスで聞きやすいのが特徴。

個々のスキルがぶつかり合いながら、カオスティックに混ざり合いながら、確実にひとつの色として音楽がある。ただ、本作においては、ベースのローラがボーカルを初めて担当したことで、そこに新しい風が加わり、大きな進化を遂げている。

叙情的にじっくり聞かせるリズム隊が耳を包み込み、やがて音色とシンクロしていく。気づけば、そこにはスローなダンスホールが現れる。

見えるのはどこまでも続く一本の国道のような景色。時には車を当てもなく飛ばすような、自由に空を舞うような開放感をリスナーに与える。

しばらくすると見えてくるのは、異国の風景であるが、その中には日本的なものもある。3曲目『Connaissais de Face』などを聴いていると「いい湯だな♪」と自然と歌ってしまうほどの親近感がある。

まるで、「ボーカルも楽器の一部である」と言わんばかりに、声が溶け込んでいく。ボーカルが楽器であれば、やはりこれはインストゥルメンタルと解釈しても差し支えないかもしれない。

通して聞き終えた後に訪れるデトックス的な効果がたまらず、筋トレ時などに聴くと最適である。やはり、他とは替えの効かない何かがこのバンドにはある。

9.SHISHAMO/SHISHAMO6

画像4

バンドって生き物は急に化けたりするから怖い。いや、言うほどちゃんと追えていない。だからガチのファンの方は「前からすごいけど何?」と思うかもしれない。

以前は、何度聞いても、チャットモンチーのフォロワーにしか聞こえなかったし、「君と夏フェス」だなんて歌う神経も理解できなかった。自分には関係ない音楽だとずっと思ってた。

そのはずなのに、「なんだこのいい音は?」と言う第一印象のまま、最後まで駆け抜けてしまう作品。

乾燥した部屋に流れる、生暖かい人間の香りが、再生と同時に3ピースのバンドから漏れる。日常がどんなにペースを乱しても、阿吽の呼吸のようにしっかりと合わさる音が聞こえる。それは、技術よりもっと先の何か、第六感に近いもの。この雰囲気を手にできるバンドはごくわずかである。

その上で「女の子を大切にできない男なんて全員漏れなく死ねばいいのに」と吐いたり、私以外の君が大事にしてるものを全てベランダから投げ捨てるような…ソリッドに突き刺すロックを成立させるスリルに快感を覚える。これは、近年のロックバンドがどこかに捨て去ってしまったような、ぶち壊し、叫び散らす衝動を思い出させる。

そのフラストレーションを表に出さずとも、じっくりと確実にリスナーを音に没入させる『二酸化炭素』、『またね』、『曇り夜空は雨の予報』などを聞いていると、やはり目の前の空気を操るセンスに長けていると感じる。

一方で、コミカルに初デートを歌う『ひっちゃかめっちゃか』、小林武史を使いこなした上で大空に羽ばたく『君の隣にいたいから』(泣くほど良い)などがスパイス的に機能し、アルバムは好バランスを保つ。

いい意味で、既存のロキノン系を心の奥底で求めてしまう僕らの欲望に沿うような、あるいは気持ちよく裏切るような…とにかく僕は「こう言うバンドめちゃくちゃ好きなんだよな」と聴き終わった時に感じた。

調べていくと、ガールズバンドにはガールズバンドの苦悩があり、音楽を音楽として評価しない人も大勢いるらしいが、僕はこの作品については自信を持っておすすめできる。それは、ガールズバンドとして頑張ってるから評価したいのではなく、ちゃんとロックバンドとしてかっこいいから言えること。そう思える力強いロック。

8.恋猫ちろる/絶対にあなたを寝かしつける最強耳かき10時間

画像2


ASMR=Autonomous Sensory Meridian Response: 人が聴覚や嗅覚の刺激によって感じる、心地良い、脳がトリップする感覚…と僕は理解している。

おおよそ、現代において、それはイヤホンを通して与えられる快楽であり、その中のひとつに耳かき音声がある。耳かき音声とは、バイノーラル技術を用いて作り出された音によって、耳かきをされてる錯覚に陥ることができる音声、または、そう言った音声作品の総称でもある。

…ここまで読んで頂いた方のおそらく9割は笑うかドン引きだろう。そして「それは音楽とは違うんじゃない?」と考えるだろう。

いや、言いたいことはわかる。わかるのだが。僕は確かに聞いてしまった。その心地よい音の感動を。寝る前に聞いてしまったら目が冴えてしまった。ちょっと泣きそうなくらい良い音だった。

音楽とは、音を楽しむことである。この音は楽しかった。そして、2020年に聞いてきた音の中でも、指折りのいい音であった。素晴らしい音楽を聞いた時と全く同じ感動が僕の胸に広がり、それは心を掴んだ。結果、「これはもう音楽でいいんじゃないか?」と僕は思った。

耳かき音声を音楽として解釈したい理由にはもう一つある。それは、あるプレイヤーに限られるが、音を調整するという要素があるから。マイクさえ手に入れば、誰でも同じ音が出せるわけではない。言わば、楽器で言えばチューニングが必要であるし、ギター奏法が多岐に渡るのと同じくらい多種多様な音を奏でることができる。

僕も、バイノーラルマイクを持っていないし、詳しくはないが、彼女たちは確かに音を調整し、こだわりを持ち、音声を作っている。それは勿論、マイクや耳かきの使い方にもよるし、録音環境、音声処理のひとつひとつにも現れることだ。「それってもう音楽と同じ拘りが存在するんじゃない?」と言っても過言ではない。

また、所謂ロックやポップスが、年月をかけて、ある程度、その音の研究を終えていく中で、このジャンルはまさに“これから”なのである。おそらく1番の未開拓地、そこが楽しくて仕方ない。

さて、長い前置きをしてきたわけだが、そろそろ本題に入ろう。そんなASMR、耳かき音声の界隈で、今、まさにその第一線を走るのが、天才:恋猫ちろる氏である。

ちろる氏は、おそらく3年ほど前からYouTubeに耳かき音声を投稿してきた者である。ASMR界では、神と称えられる伊ヶ崎綾香氏に憧れ、この世界に足を踏み入れた1人の少女は、その技術を、磨き続けた。

エッチな表現には逃げず、常に高い理想を掲げ、耳かき一本に絞り、その幻想を現実に変えてきた。初期から聞いてきたからわかる。そして、その努力の末に、ある瞬間に覚醒する。以降、百万再生を何度も達成、一気にトップへと駆け上がった。

そんな彼女の最新作は、80分の超大作を発表したthe 1975さえも驚く10時間の耳かき音声である。

様々な音が収録され、寝る前に聞けば、気持ち良すぎてすぐに堕ちしてしまう代物ばかりが並ぶ。自身の長所である方言や、アドリブを活かしながら、あくまでいい音を聞かせることに徹する作りが僕は好きだ。

この心地よさ、没入感を音楽と呼ばずして何と呼べばいいだろう?

いつも、新しい世界への扉は開かれていて、必要なのはリスナーの勇気と覚悟だけである。今、この素晴らしくて新しい音楽を、僕はあなたに聞いてほしい。

7.石原夏織/Water Drop

画像9

今一番ファンに愛され、スタッフに愛され、音楽に愛され、今一番幸せな女の子の物語。さあ、みんなで幸せになろう。

そして2021年2月20日、パシフィコ横浜に、新しい伝説が刻まれる。僕は待ってる。


6.水樹奈々/NANA ACOUSTIC ONLINE

画像3

【脳内妄想】
寂しい。冬は寂しい。
独身を切り裂くような冷たい風に僕は耐えきれず、アルコールを流し込んだ。何杯目だろう?わからない。全部忘れてしまいたい。最後の一軒を出て、情けない足取りで家を目指す。夢のようにフワフワしている。このままどこかへ飛んで、消えてしまうのもいいかもしれない。
突然、どこからか美しい旋律が聞こえる。飲み屋街から2本先の路地裏を行く。そのまた奥へ進む。こんな所にお店があったのか?記憶にない。
“JAZZ bar NANA”
「洒落た名前じゃないか」…独り言と白い息を吐いて、ドアノブに手をかける。
僕「すいません1人なんで…!?み、み、水樹奈々さん!?」
奈々さん「いらっしゃいませ。“JAZZ bar NANA”へようこそ」
僕「夢でも見ているのだろうか…どうしてこんな所に?」
奈々さん「今日は、貴方の為だけに歌を歌おうと思って。好きでしょ?私の歌。時間をちょうだい。少しだけ、ね?」
僕「い、いけませんよ奈々さん。僕を誘惑しないでください。貴方には大切な人がいるじゃないですか(ご結婚おめでとうございます)…貴方の時間を、僕なんかの為に使」
奈々さん「いいから座って。耳を澄まして…そう。最高の贈り物をあげるから」
拒絶する僕の手を優しく握り、奈々は微笑む。ダメだ、今すごく良くないことをしている。そんな気持ちとは裏腹に、僕の耳は、その音を求めて止まない。支配されていく。奈々の声が僕を包み込む。ああ、どうして僕たちはこんな所で出会ってしまったのだろうか?今、君の胸に僕は堕ー

出来の悪い小説は置いておいて、結論から言おう。水樹奈々を初めて聞くなら、本作が1番いい。彼女の声の素晴らしさ、その全てを感じ取ることができる。全て。

先日開催されたオンラインライブの模様を音源化した配信リリースの本作。映像も素晴らしかったが、やはり音だけになると圧倒される。必要最低限の静かな楽器と、それにより一層際立つ歌声だけで構成されているから。故に、冒頭に書いたように、歌声を独り占めできるジャズバーのような距離を感じられる。

そう、本作の水樹奈々は聴きやすい。曲数も限られているし、史上最高に落ち着いている。THEアニソン的な展開は、その旨味だけを残し、最低限に留められている。だから、一般人に勧めたい。無論、色んな音楽にうるさい人にも、彼女の美声と極上のアコースティックサウンドが必ず届くと信じられる。

幼い頃から演歌を仕込まれ、その技術を大切に抱えたまま飛び込んだアニメの世界で活躍してきた彼女。様々な新しい才能が声優アーティストやアニソン、その外から生まれては淘汰されていく中で、彼女がオンリーワンの歌手として君臨し、全ての音楽を受け止める懐の深さを持ち続けられる理由…そのひとつが、ここには詰まっている。

近年最高傑作と名高い『エデン』から始まり、惚気も飛び出しそうなほどのウエディングムードを撒き散らし、最高のアルパ奏者=上松美香と交わるシーンに心が暖かくなる。懐かしい曲も聴こえてくる。ほぐれてきた身体をさらにヒートアップさせる中盤の『COSMIC LOVE』は、最善のアレンジを纏って提供される。心地よい時間の連続にため息を漏らしている間にステージには虹がかかり、最後の「ありがとう!」が余韻のように響く。

やはり水樹奈々は最高である…と言う結論を強固なものにする最高傑作に、僕は惜しみない拍手を送る。そりゃあ色んな人に聞いてもらいたいよ…って欲も出る。

今後、彼女は母になり、どんな歌を歌うだろうか?少なくとも77歳まで続くであろう物語に、透き通るような青の付箋を添えて、何度も何度もこの音楽を聴きたい。

5.Tame Impara/The Slow Rush

画像5

時はただ流れ、砂のように積み重なる。掴んだと思ったその時、この手からサラサラとこぼれ落ちる。やがてそれは、明日の砂埃に変わるだろう。

極上の肌触りの後に、聞くものにアシッドな浮遊感を与えるサウンドは、まさにオンリーワンの響きを持つ。オーディオドラッグとでも名付けた方が納得のいく所であろう。

あるライターは「海外ではロックがヒップホップに負けていると言われるが、それは一面的な見方で、むしろ優れたロックバンドがヒップホップを含めた先鋭的なアーティストに刺激を与えている」と話していたが、まさにそれを象徴する作品だと断言できる仕上がりになっている。

実際、彼は、ロックのフィールドを飛び越えた様々なアーティストとコラボし、プロデュースも行なっている。その影響は、夢見心地な音を追求した結果、現実の輪郭が浮き彫りになるような今作の感覚に直結していく。しかし、注目すべきは、それよりも、“時間軸”と言うコンセプトを丁寧に扱った歌詞やストーリーにあると感じた。

特に、亡くなった父への想いを綴った『Posthumous fosgiveness』には胸を打たれる。ケヴィンは、自らのパーソナルな部分をさらけ出すことで、僕の心をそっと慰める。

繰り返される愛しき日々のループから抜け出すことは難しくて、僕らは、そこにあったはずの昨日に想いを馳せる。だけど、そんなものに縛られても、傷つくだけで何も変わらない。

成功と失敗、過去と未来、そして今…無数の砂の中に埋もれてしまった中から、彼はそれらを掬い上げて僕に見せてくれる。その行為自体が、人の一生を彩るサウンドトラックになる…と言う点ではミスチルの最新作と通じる部分も多いのかもしれない。

朝起きたら顔を洗うように、繰り返し聞いてきた。Spotifyが言うには、僕が今年最も再生したのは上記の曲らしい。

後一年、あと一年すれば、こんな状況は変わるだろうか?今となっては、明日世界がどうなるかも僕らには掴めない。

だけど、この音楽を聴いてる時、根拠のない光が差してくる。それは、やるべきことを続ければ手が届きそうな気がする。あと一年、きっと今よりは良くなる。

4.Iittlegirlhiace/TELEWORK

画像7

「良い歳して〜」と人は事あるごとに言う。本当は、夢を追ったり、好きなことを選んだり、何か始めるに遅いも早いもないのに。

Twitterを見ていて、なんとなくフォロワーがやってるバンドを聞いてみた。すごくよかった。

フォロワーだろうが、知り合いだろうが、親族だろうが、良いものはいいし悪いものは悪い。だから贔屓目とか多分ない。

好きだ。この作品が僕は好きだ。そして、どうしようもなく聴いてると嬉しくなる。

不器用だけど、ハートだけは熱く燃えていることがわかる。ガラスのブルースが聞こえる。10代みたいな初期衝動を鳴らしていく。

バンプ、syrup16g、グレイプバインなどへのオマージュとリスペクトを貫く音楽性に、潔さを感じる。あの頃の音に憧れ、今もギターをかき鳴らす少年が見える。

時代は進み、ボーカルはロボットみたいに処理されて、シンセサイザーの音に埋もれ、軽薄なラブソングを歌ったとしても、僕がやっぱり帰るべきはここだと思える。

おそらく同世代の人間が、あの頃と今を繋げながら、こんなにもエバーグリーンな音楽を鳴らしてることが僕は嬉しい。

ツイッターではいつもえっちな絵しかRTしてないのに、かっこよすぎるだろ。ずるい。

「人に興味を抱けない なるべくなら会話したくない」から始まる歌も、わざとローファイ気味に録音した質感も、それでいてオシャレに決め込んでない所も、リトルガールハイエースとか言うギリギリのバンド名も、身内妄想ネタ全開曲を差し込んでくるのも、ただ女子高生を眺めるだけで終わる日常が幕引きになる構成も…ああ全部好きだ。それを何気なく37分にまとめるセンスも、すべでがちょうどいい。

彼はどう思うか知らないけど、僕はこんなアルバムが1番生活に馴染んでいて好きだな。何年も何年も大切に履き続けている革靴みたいにしっくり来る。音楽ってきっと、こんな感じでいい。そんな些細な幸せのアルバム。

3.Mr.Children/SOUNDTRACKS

画像6

中学生の時からずっと僕のHEROであり、夢や希望に気づかせてくれる存在。ロンドンレコーディングと、挑み続ける姿勢が可能にしたーその進化論の、ひとつの到達点を、是非最高の環境で聴いて欲しい。これは、詰まるところ「音楽を聴くとは何か?」を提示した歴史的傑作である。


2.降幡愛/Moonrise

画像8

待ってくれよ。僕は、こんな文章を熱心に読んでいるあなたと同じ、どこにでもいる音楽好きの1人だと思う。あなた方と何も変わらない。

だから、お願いだから声優アーティストを聞いてみてくれないか?今なんだよ、今聞いて欲しいんだ。

J-POPをたくさん聴いてきたし、その後バンドミュージックに没頭した。そこから派生した様々な可能性を追求した。中でも、声優アーティストと言うジャンルは楽しくて、刺激的で、常に目が離せない。

水樹奈々さんが手招いてくれたその世界が、僕の音楽史をずっと更新している。その2020年最新系が、80年台のコーティングを経て、ここにある。

それは、降幡愛×本間昭光だからこそ成せる領域の音楽。確かな知識と情熱、実績に裏打ちされ、シティポップブームをさらに加速させる一枚である。きっと振り返った時に、重要なレコードとして扱われるだろう。

ずっとずっと降幡愛のことを考えてる。僕は、恋、恋をしている。この魔法は、簡単には解けない。


1.The 1975/Notes on a Conditional form

画像10

(以下は2020年夏ごろの情勢時のメモ書きに加筆したもの)

ある少女の「ルールに従っていたら、世界を救うことなんてできない。」と言う演説の後に、ノイズまみれの音が現れる。ボーカルのマシューは「目を覚ませ」と何度も僕に訴えかける。

彼には、未来が見えていたのだろうか?未だ気軽に外には出れず、人々が互いを尊重し合えない世界の中で、それは強く響いた。

一番最初に通して聞いた時の感情は、とにかく「美しい」の一言であった。それと、生活に根差した音楽だと感じた。

ところで、皆さんは音楽を今どんな環境と姿勢で聞くだろうか?僕は家でSpotifyから流れる音をBluetoothから聞く…と言うスタイルがメインになりつつある。

特に、今年はイベントがなくなった為、外でイヤホンで音楽を聴く時間も少なかった。家で、掃除とか洗い物をしながらBGM的に聞くことが、以前にも増して多くなった。

派手なことはなく、最近では朝起きてまず味噌汁を作ることに幸せを感じている。料理はいい。何を作るかイメージして、食材を買いに行き、分量を調べて、自分の手で作り上げると言う意味では、とても有意義な創作のひとつである。自分で作ると楽しいし美味しい。

そういえば、小沢健二はMステに出た時、マスク問題を取り上げ、「自作こそが最強である」と僕らに論じた。その気持ちが、今鍋から香りたつ湯気によって、大きな説得力を持って、僕の生活を彩る。

そんな変わり始めた日常に、寄り添える、似合う…と言う観点で考えた時、僕はこのアルバムが、今年1番良い創作だと感じた。


僕は日本人であり、確かに高校時代は中堅私大レベルの長文の英語なら読んで、おおよその内容は理解できた。しかし、その英語力も今となっては、地の底に落ちた。故にGoogle翻訳を使ったり、多くの同志が書いた感想を読みながら、この作品が発信してるメッセージをなんとか噛み砕いた。つもりだったが、噛み砕くことはできなかった。

言うなれば、もっとスマートに、するっとした感触で喉元を通り過ぎ、心の奥底に溜まるような質感があった。調べれば調べるほど、最初に聞いた時の感動が薄れていく錯覚にも陥った。言葉などを超越して確かに伝わってくることがあった。

また、優れた芸術作品にはキャンバスとしての余白、余裕が必要で、その為に本作は意図的とも思えるアンビエントなインタールードを複数回挟んでる。それが結果として80分という長尺になる。

1枚のアルバムを聞くのに80分はあまりに長すぎる。だけど人によってはそれは長くない。映画だって、君と話す時間だって、長いだなんて感じたことはない。我々は長い人生を生きる中で、その余白、余裕をどれだけ大切にできるかを今問われている。

社会は混沌としていて、それはまるでサブスクサービスから流れる音楽のように、多種多様な在り方を主張し、歪みあってくる。そんな空気を反映したように、the 1975の新作は、たった1枚の中に色んな音楽を詰め込んだ。そして、軽口で語るには畏れ多い社会問題を極めてソフトに、ある意味ではハードに、雑多な音楽ジャンルのように我々に提示する。

我々は、まだその音楽が、社会が指し示す答えを到底見つけることはできない。一人一人がそれぞれの正しさを肯定する必要があるから。

ただ、皆の感情がごった煮されるような感覚ではなく、そのひとつひとつが皿の上で独立する料理だとしたら、我々はそれぞれに目を向けて、向き合い、アクションを起こす時が来たのではないか?と感じる。

でも、それはきっと、そんなに難しい話でもない。バンドのフロントマン、マシューは最後の曲『Guys』で、シンプルな思いを語る。

You guys are the best thing that ever happened to me
みんなとの出会いこそが僕の人生で最高の出来事だったんだ

僕はバンドなんてやってないけど同じ気持ちである。そして、僕は彼らに出会えて良かったと心の底から思ってる。

2年前、初めてこのバンドの音を聞いた時、今までに感じたことないくらいワクワクしたのを覚えてる。それは、僕の中にずっとあった…長年の洋楽コンプレックスを解消するほどの出来事だった。

翌年、僕はサマーソニックのステージで初めて彼らに会うことができた。スタジアムロックを鳴らすのに最適化されたZOZOマリンに集まった無数の人が生み出す笑顔と幸福、それを誰よりも楽しそうに受け止めるthe 1975の音楽を今でも思い出す。

ライブに行くことが、非日常になってから…あの幸せな光景を思い出しながら、僕は「初めてthe 1975を見た時、それが最高の瞬間だった」と何度も思った。

The first time we went to Japan
初めて僕らが日本に来たとき
Was the best thing that ever happened
それが最高の瞬間だった

ファンサービスかもしれないなと少し思った。でも嬉しかった。世界的なバンドのボーカルが、大勢から注目される新作の中で、わざわざ日本のことを取り上げるのは、それだけ忘れられない思い出があるからに他ならない。僕らは、もしかすると同じ気持ちだったのかな?嬉しくて嬉しくてたまらない。

「あいつらと出会えたことが1番の幸せ」、そう思えることが生きるたびに増えていく。目の前の大切な人の手を取っていく、それを忘れない限りは、ひとまず2020年はきっと最高のフィナーレを飾れる。

その先は、また音楽と、新しい価値観、変わらない価値観と仲間と手を結びながら歩いていく。今そんな気持ちが、じんわりと心に広がっていく。

the 1975、以前にも増して、僕はこのバンドのことが大好きになった。


次点作品

Thunder Cat/It Is What It Is
テイラースウィフト/folklore
ストレイテナー /Applause
Mouses Sumney/grae
Jason Mraz/Look For The Good
May'n/15colors-unplugged-
ROTH BART BARON/極彩色の祝祭
Reol/金字塔
ヨルシカ/盗作
米津玄師/STRAY SHEEP
釘宮理恵/せめて空を
Bibio/Sleep On The Wing
THE NOVEMBERS/At the Beginning
尾崎裕哉/Golden Hour
伊藤美来/Rhythmic flavor
Ocean Alley/Lonely Diamond
ORAL CIGARETTES/SUCK MY WORLD
Shohei Takagi Parallela Botanica/Triptych
Yves Tumor/Heaven To A Tortured Mind
SYRUP/CIY
Yonawo/明日は当然来ないでしょ
Yumi Zouma/Trurh or consequences
鬼頭明里/STYLE
など


今年の音楽と僕の生活をふりかえって

あまりデリケートなことは書きたくなかったが、そこに触れずに今年の音楽を語るのは難しくて、まあこれだけ生活が変わってしまえば求める音楽も変わるし、その結果本当に必要なものが何だったのか?…を考える機会が何度もあった。

画像15

上は、自分で作った肉じゃが。美味しそうでしょ?2019年の僕は、2020年の僕が肉じゃがを作ることを多分予想できなかったと思う。まあそれくらい、劇的に色んなことが変わった。いつだって、予想しうる未来のほとんどは、想像できない場所へ向かってしまう。

いつもと変わらない日々が続くと思っていたし、今年もたくさんライブに行こうと思った。しかし、振り返れば、リアルライブに行けたのは2回だけになってしまった。

画像16

外出は必要最低限になり、人と会うこともほとんどなくなった。音楽やリモート通話だけが頼りになり、部屋で1人で聴くことが増えた。その時間が増えるたび、リアルライブが恋しくなった。

しかし、その代わりにたくさんのオンラインライブが開催されたのも、今年を象徴する出来事だったと思う。それは、リアルライブの代替えではなく、新しい楽しみ方を提供してくれた。

有料オンラインライブのシステムが確立されるまでに、B'zやMr.ChildrenなどたくさんのアーティストがYouTubeに過去ライブ映像を無料放出してくれたことも忘れられない出来事であった。あれのおかげで、僕らはステイホームを続けられたのである。

ゴスペラーズ 、ストレイテナー 、内田真礼さん、水瀬いのりさんのオンラインライブ、降幡愛さんの初ライブ中継も特に記憶に残っている。それぞれがそれぞれの生き様を見せつけてくれた。

離れていても、ライブを見ることはできるし、友達と話すこともできる。技術の進歩が僕らを支えるし、音楽は強いから負けないのである。

また、自分のルーツ的な所を見直す作業も、今年は発生した。昔好きだったアニメも見返したし、やはり00年代ロキノン系に、良くも悪くも自分の心が捉えられていることを自覚した。

いつまでも昔のことに捕らわれているのが、ここ数年は嫌で仕方なかったが、今なら、それが自分のルーツであり、誇りであると強く言えるようになった。僕は、僕が通ってきたものが、今も大好きらしい。

そもそも、今年ってやつが始まった時、僕はSpotifyの水曜金曜新譜プレイリストを全て聞く…と言う無謀な挑戦を始めた。

それは、今を生きるなら今の音楽を聞かないと意味がない…と思っていたから。もうひとつは、自分の教養や、好きな音楽の幅を広げるためであった。

「全て聞く」と言うのは実際にはそうでなくて、イントロだけ聴いて飛ばすものもあったし、全てにちゃんと向き合うのはさすがに無理があったけど(当たり前)。

結果として、この挑戦を継続できたのは、おそらく9月までであった。好きな音楽は増えたが、いつしか仕事をこなすように音楽を聴くようになり、本末転倒の状態に陥った。

yamaやYOASOBI、ヨルシカなど、新しい流れにも目を向けつつ、現行の声優アーティストやバンドを聴き、古い洋楽や80年代ポップスの履修、寝る前のASMRタイム、それ以外の色んな音楽と筋トレと生活…この全てを働きながら並行するのは困難を極めた。

しかも、音楽以外の好きなものも増えていくから、手がつけられなくなった。

それこそ、いいアルバムに出会った時は、繰り返し聴いてしまうし、そのおかげで他の作品に目を向けられないことも多々あったが、それこそが1番楽しい出来事であった。

特に、トップ3にランクインした作品たちは、愛聴するだけではなく、その作品自体が、リスナーの音楽に向かう意識や生活様式、価値観を大きく変える影響力を持っていた為、「全て聞く」というスタンスが自然に崩れていった。

例えば、2位にランクインした降幡愛さんの作品は、2020現在に鳴らす80年代の音が新鮮で、僕はすっかり魅了され、一時期はその当時の音源しか聴かないようになった。

80年代と一括りにされているが、実際の音楽性は勿論多岐に渡り、当時の時代背景なども読み解けばその考察はキリがないだろう。興味はあったものの、そこにハマるのが怖かった…と言うのが正直な所である。全く、とんでもない沼に突き落とされたものだなと思いながら笑った。

中でも忘れがたいのは、サブスクには存在しない竹内まりやさん(今は一部追加されました)と山下達郎さん(永遠に出さないだろうな)のアルバムをレンタルしたことである。

画像11

ツタヤに行くのはおそらく半年ぶりの出来事で、その行為自体が新鮮だったように思えた。

やはりリアル店舗というのは、いくつものリアルがそこに点在していて、サブスクでは得られない刺激がある。しかも、何を思ったのか、ダイエットのために歩いて1時間以上かかる店に行ったのである。もはや何かの旅をしている気分にわくわくした。

「あのアルバムはサブスクにあるけどツタヤにはないのか…えっ逆にこれはあるの!?誰が借りんだよwww」、「お気に入りのアーティストのアルバムが全部借りられてる!?この近くにオタクいるのか!?」などとついつい騒いでしまった。

オタク…と言えば、僕は声優のオタクをやっているが、今の声優アーティストとその音楽は本当にいい。あの頃、失われたポップスの再建と新しい風が吹き続けている。これらを、自称音楽好きや有識者たちがスルーし続ける理由が、到底理解できない。どうか平等な目線を持ってほしい限りである。

その中でも、やはり7位にランクインした石原夏織さんのアルバムには涙を禁じ得なかった。今一番推している。初見の人が聞いても、ある程度曲の良さやストーリー、彼女の人間性には気づくと思うが、とことんファンに向けた作りを徹底している。

画像13

普段から、情報解禁のタイミングや量もちょうどいいし、何よりこの"会えない状況下"において、ファンに寄り添い続けてくれたことが僕は嬉しかった。それは、最近ファンになった人にも、ユニット時代から彼女を見て来た人にも、わかることである。

好きな人を応援することは楽しくて素敵だ…と言う当たり前を、愛を、十分に証明してくれた。そのプロモーションや、スタッフの裁量は、そろそろ情熱大陸あたりで取り上げても良いと思う。

また、3位にランクインしたMr.Childrenの新作が、直近でありながら、僕の音楽の聴き方そのものを変えてしまうほど革命的な出来事となったのは、何度も語ってきた所である。サブスクから簡易的なスピーカーで聴くことに慣れていたところを、桜井和寿にいきなり殴られたような感覚があった。

それは、学生時代、わずかなお小遣いをやりくりしてアルバムを買いに行ったあの日のような…大切に大切にそれを抱えて、帰ってじっくり歌詞カードを見ながら安いコンポで聞いてた時の記憶を呼び覚ましてくれた。

あの頃は、決してたくさんのアーティストを聞いていなかったけど、自然と手が届く範囲にある音楽をひとつひとつ楽しめた。それは大人になってSpotifyにあるたくさんの音楽を雑に聴いたって、叶わないくらいに、ひとつひとつを大切にできていた。

画像13

だとすれば、「全て聞く」だなんて…僕はなんて馬鹿なことを考えてたんだろうなと思った。確かに、色んな音楽の良さを理解するためには教養も必要になるし、その為には楽しかった。それに、ある程度の母数を聞かないとベスト10なんて選べないけど。僕は何かもっと大切なことを、理解しながら、気づかないふりをしてたんだなと思い知らされた。

逆に、1位に挙げたthe 1975の歴史的傑作は、サブスク時代を全肯定するような姿勢を見せて来たし、僕もその波に乗らせてもらった。曲が変わるたびに、違うアーティストに出会えるような…これを全て同じバンドが歌っているとは思えないほど幅広く、まさにプレイリストの中で複数のアーティストをスキップするのが当たり前になった現代だからこそ一際響く作りになっていた。

どちらの感覚も大事だと思うが、この記事を書く前に改めて聞き直した時点では、その姿勢も含めて、彼らが今年最も優れていたと言える。

来年にむけて

さて、収拾のつかない話になってきたが、上に挙げた名盤たちを踏まえて、今後自分がどんなスタンスを貫き、どんな音楽を聴きたいのかが、少しだけクリアになったのが、今年の収穫だったように思える。

それは、「全て聞く」と言う馬鹿げた挑戦をしたからこそ得られたことであるし、そこから全て運命のように流れて、今日にたどり着いた気がする。年々、音楽のことが好きになっていくし、そんな自分を誇らしく思う。年始の資格も取ったし、料理できるようになったし、色んな大切な人のことをもっと好きになれたし、ダイエットもできたから上出来である。

未知の脅威に潰されてしまった色んなイベント、機会の代わりになるくらいの収穫を僕は得たのである。だから、2020年のことが大好きになった。今があって本当に良かったと思う。

画像14

なんでも聴けるし、音楽は自由である。そして音楽はひとりひとりの人生に寄り添い、生活を変える。来年はどんな時間を過ごし、どんな音楽を聴くだろう?君は、僕は、何を選び、どんな風に生きる?

また、来年、答えあわせしましょう。楽しみにしています。

とりあえずフェス行きたいし、オタク50人くらい集めて密の中でカラオケしたいですね。そんな未来もきっとあると信じてます。


みなさんよいお年を🥱🌃




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?