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【ショートショート】「自然の中で」/タンバリン湿原

「ママ、私の机の上にあったのがないんだけど」
小学生の娘が不満顔で尋ねてきた。

ああ、あれか。

机の上に昔100均で買ったおもちゃのタンバリンがあった。
ボロボロだし何か汚い泥のようなものが入っていて気持ち悪かったから、外のゴミ箱に捨てたところだった。

「汚いから捨てたよ」
「私の湿原を何で捨てたの?緑が生まれてやっと生態系ができ始めていたのに!」

緑?
生態系?
あのコケが?

思わず笑いそうになった。
いや、笑ってはいけない。子供なりに考えたのだ。むしろ湿原や生態系に興味を持ったことを褒めるべきだ。

でも、あの汚いのを褒めるのも……。

「消毒された水道水で生態系ができるわけないでしょ?自然の水で育てないと」
私の言葉に娘は愕然としたようだ。
「そうなの?」
「そうだと思うよ」
娘は引き下がった。

可哀想な気もしたがこれも勉強。
家の中で湿原は作れないと知ってもらえればいい。

次の日。

娘の部屋にはまたタンバリン湿原があった。
『富士山の天然水』のペットボトルと共に。



(418字)

こちらの裏お題に参加させていただきました。
「今回は裏お題はいいかな」
と思いつつ、楽しそうに思えて仕方なく、結局ストーリーを考えている自分がいました😅
よろしくお願いします🙇

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