女たちの中東-ロジャヴァの革命

多数の民族が共存し、信仰の自由、女性の権利が保障され、あらゆる街、村に生まれた政府から干渉を受けないコミュニティの「民主主義的自治」が行われ、国民国家を否定する「自治行政体」を実現するエリアが存在する。中東シリア北西部。クルド人、アラブ人、アッシリア人、カルディア人、アラム人、トルクメン人、チェチェン人といった多民族が暮らす、「ロジャヴァ」と呼ばれる地域。そこがいかに成り立ち、どんな営みがなされているのかの詳細をまとめた、現時点ではおそらく唯一のレポート。

彼らが定めたロジャヴァの社会契約においては「あらゆるエスニック集団、社会集団、文化集団、民族集団が、それらの連合を通じて、その建設的な理解、民主主義、多元主義において参加できる」とされる。大きな思想的影響を及ぼしているのが、現在トルコに捕らわれの身であるアブドゥッラー=オジャラン氏。長くそのトルコに対する武装闘争を繰り返してきた人物であるが、近年武装闘争の放棄を宣言し、マルクス・レーニン主義国家も超えた、リバタリアン社会主義に影響を受けた「民主主義的行政体」の樹立、そして「国家なき社会を建設しようとするならば、家父長制を克服しなければならない」、「(男性に対し)事故の内なる家父長的男性を変えろ」と唱え、ジェンダーの平等もその支柱にも置いている。それは宗教や民族、職業、性別、年齢などに関わらず、あらゆる社会単位が自己確立のための自衛組織を持つべきである、という考えの中から生まれてきたものであり、「解放された生活は、女性の革命により男性の精神構造と生活が変わらなければ不可能である。それは階級社会に立脚する5000年の文明の革命であり、男性の開放も意味している」と呼びかける。

本書は2014年と2016年に現地を訪れた文化人類学者、歴史学者らがまとめたものであるが、一方で2019年末にはトルコがロジャヴァへ本格的な侵攻を開始し、アメリカ、ロシア、シリアなどの様々な勢力のバランスの中で、危うい状況にある。すべての生物がそうであるように、存在の保護のみを目的とした自衛のメカニズムを備えているように、自らを守るための棘のみを持つという「薔薇の論理」を掲げるロジャヴァがこの先どうなるかは分からないけれど、今後も注目すべき場所であることは間違いない。

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いやー、すごい本でした。コンサルティングファームのレポートのよう、というか一つ一つの内容は理解できるのだけれど、なかなか大きなイメージが抱けず、読み終わってからもどうまとめたものか悩ましかった。日本語Wikiもしっかりしてるので、近代中東史をざっくり頭に入れて、この辺読んでから挑むとイメージがわきやすいかもしれない。

映画・「ラジオ・コバニ」のコバニもまさにロジャヴァの中の都市だし、印象が変わってきちゃうな。「バハールの涙」もなにがしかの影響を受けてそう。




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