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卯月の献立|”らしくない”かもしれない新しい挑戦を楽しみたい

平年より12日も東京の桜の開花が早かったこともあって、桜並木はまぶしいほどの美しい新緑であふれかえっています。4月は新しい1年のスタートということもあり、気持ちも自然と前向きになりますよね。

卯月の献立でも、春の楽しみや驚きをしのばせた今までしなかったような構成のお料理や、あしらいやかいしき、器に遊び心をもたせたりと、自然と心躍るような献立になっていると思います。

新しい発見や体験が反映された献立

食材では、なんといっても筍です。今年は、京都市西京区大枝の塚原から白子の筍を直接送っていただける様になりました。塚原産は、京都でもっともおいしい筍が採れる場所として昔から知られていますが、なかなか東京では見かけないものです。今年からは乃木坂しんで、塚原の白子筍をコンスタントにお客様にお出しできるので、自分たちでも楽しみにしています。

千葉からも朝採れの筍が届く予定です。食べ比べも大変勉強になりますね。この時期に旬という盛りの時期を迎える、卯月ならではの食材を楽しみたいと思います。

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卯月の献立を見ていただくと、先附の蛍烏賊と筍の飯蒸しのような新しい仕立てもあれば、鯛のあら炊きのような和食の定番料理もあって、「乃木坂しんらしくない」と感じられる方もいらっしゃるかもしれません。

じつは、ここ最近、お店の定休日を利用して生産地に行ったり、様々なお店を食べ歩くことを今まで以上に積極的に行い、勉強してきました。そういった新しい発見や体験をさせてもらったことが、新しい料理に影響していると思います。

食材本来の味わいを楽しんでいただく」という”乃木坂しんらしさ”を変えずに、新しい食材の組み合わせや、より自分たちにあった食材の探究などを繰り返した意欲的ともいえる4月の献立は、私たちといたしましてもお出しするのが楽しみな献立です。

乃木坂しん 卯月のおまかせコース(18,000円)を紹介します

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先附|蛍烏賊と筍 飯蒸し

酒と塩で蒸しあげたもち米と炊いた筍を筍の皮に盛り込み、お出しする直前に蒸してから、富山県産の蒸した蛍烏賊と木の芽の葉を添えてお出しする温かいお料理です。

筍の皮をもう1枚かぶせてお出ししますので、最初は「筍の皮の料理かな」と思われるかもしれませんね。皮を外すと中から蛍烏賊と筍が現れるという仕立ても楽しんでいただけると思います。

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この日の筍は塚原の白子の筍でしたので、塩と昆布、水だけでシンプルに炊いています。
 最初に飯蒸しをご用意するのは乃木坂しんでは初めてです。懐石料理では、最初に少量のご飯をお出しするので、それほど奇をてらったことではないのですが、今回初めての試みです。
 飯蒸しは20gぐらいと少量を添えます。モチっとした食感が、シャキシャキとした筍とやわらかい蛍烏賊の食感を繋ぐような役割で良いと思っていますので、筍や蛍烏賊を召しあがりながら、時折、筍と、蛍烏賊と、または3つ一緒に食べていただけると、違う楽しみを味わっていただけると思います。

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前菜|蛤と春野菜

白扇(はくせん)揚げにした蛤と、タラの芽やコゴミ、うるい、黄ニラなどの山菜のお浸し、温かいものと冷たいものを合わせて食べていただくようなお料理です。

山菜のお浸しは、別々に二番出汁で炊いたあと、提供前の1、2時間前に蛤の出汁を軽く含ませています。白扇揚げは、出汁をとった蛤を使います。すでに火を入れる必要がありませんので、サクッとした食感が出るように表面だけを揚げるようにしています。

また、冷たい山菜のお浸しとの温度のコントラストも心地よいのではないかと思います。

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白扇揚げの蛤2つをお皿に盛り付けています。
 1つは3等分に切ったうち、2切れをお皿に盛り付け、もう1切れはお浸しとあわせて、2切れの蛤を隠すように盛り付けます。さらにその上に、もう1つの蛤をのせてからお出ししてあります。
 蛤は、白扇揚げのサクッとした食感。途中の1切れの蛤は、少しだけお出汁を含み、お皿の底に隠れた2切れはそれよりもしっかり浸っていて揚げだしのような食感になっていると思います。食べ進める度に、違った魅力に出会える蛤の白扇揚げと山菜のコントラストをお楽しみください。

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椀物|白魚と菜の花
長芋の玉子とじあん へぎ酢橘

この写真では、小鍋での仕立てになっていますが、今は、玉子の量を減らしてお椀に仕立て直してあります。うすい豆も菜の花に変更しています。

とはいえ、椀種に一番出汁をはったお椀をイメージして蓋をあけると、中にはかきたまのお出汁(菜の花が咲き乱れている様)がはってあるので、驚かれる方も多いかもしれません。

しかし、白魚の玉子とじがあるように、白魚と玉子の相性はとてもいいので、お召し上がりいただくと、これまでの乃木坂しんでお出ししてきたお椀と大きく変わっていないことに気付いていただけると思います。

料理の構成としては、出汁で火入れした白魚と、菜の花のお浸しと塩だけで蒸した長芋を椀盛してから、一番出汁を葛粉で薄くとろみをつけてから、玉子を溶き入れたかきたまをはって、折(へ)いだ酢橘の皮をのせています。
 フワッとしたやわらかい白魚の触感と香りを味わっていただいたあとに、菜の花の独特な香りと食感を楽しんでいただきたいです。
 今シーズンずっと使わせてもらっている岩手県の大久保農園さんの長芋は、このお椀でも食感のアクセントとして大活躍しています。今回は、出汁で炊かず塩蒸しにしてありますが、食べ応えがしっかり残ってくれるので、満足感の高いお椀に仕上がっていると思います。

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お造り|鯛の滋味造り
細魚に酢でといた地辛子 針独活

こちらも撮影してから、もう少し調整を加えたひと皿です。

鯛の骨からとったお出しにお造り醤油を加えた滋味醤油に浸した鯛と、軽く塩締めにした細魚(サヨリ)を別々に食べていただこうと考えていたのですが、細魚を滋味醤油で食べていただいてもおいしかったので、今は、ひと皿に合わせて盛り付けています。

へぎ造りにした鯛を器に並べ、その上に細魚をのせます。細魚には、福井県の地辛子と純米酢を合わせた、酸味のあるマスタードのような味わいの地辛子を添えてあります。

盛り込んだ鯛と細魚の外側から滋味醤油を回しかけて、最後に針独活(はりうど、針のように細く刻んだ独活)をあしらいます。

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鯛は春からと秋口からにかけて二度脂がのってくるので、桜鯛や紅葉鯛などと呼ばれ、楽しみになる時期です。
 ちなみに、関西の方では、鯛は淡路島でも明石(兵庫県)側の方で、1.5㎏くらいの鯛が良いなどと言われる方もいますが、乃木坂しんでは、春の鯛は、千葉の内房の竹岡漁港(富津市)や外房の大原漁港(いすみ市)に揚がった2.5㎏から3㎏のものを使っています。時期や産地によりそれぞれ良いものや時期が違います。
 今回はなぜこのサイズの鯛なのかというと、この時期はこちらの大きい鯛の方が、脂がとてものっていて、鯛自体の味わいもしっかりしているので、脂のうま味だけではないおいしさがあると思っています。とくに今月の献立のように滋味造りで食べていただくには、鯛自体の旨味をしっかり噛み締めてもえるような、魚体の強さがあった方があっていると思います。

鯛の滋味造りは、以前Youtube「乃木坂しんチャンネル」でも紹介させていただきました。

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焼物|平貝と唐墨、卵黄の磯部焼き

正式には「タイラギ」と呼ばれる平貝は、殻の長さが30㎝にもなる大型の二枚貝です。平貝は大きい方がおいしいと思いますので、その大きさごと食べていただけるようなひと皿にしました。

半分にした平貝に切り込みを入れて、そこに削った自家製の唐墨と卵黄の醤油漬けを練ったものを挟みます。醤油をふって炭火で炙ったら、焼海苔で平貝を巻いてお出しして、手で包んで召し上がっていただくというような仕立てです。

カジュアルに手で持ってそのまま頬張っていただくという仕立ては、乃木坂しんとしては初めてです。
 撮影後に、新しいお料理として差し替えたものですので、写真が間に合いませんでした。実際の仕立てやお味は、ぜひお店にいらして見ていただけるとうれしいです。

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八寸

乃木坂しんの味をいろいろ楽しんでほしい」という思いを込めて作っている八寸。今月もいろいろな食材をとり揃えました。

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お魚は、鮎魚女(あいなめ)の木の芽味噌焼きです。炭火焼にした皮目に木の芽味噌を塗って、焦げ目をつけてあります。
 福井県産の高糖度サツマイモ「とみつ金時」はふかしてから裏漉しし、茶巾絞りにしました。茶巾の底に鹿児島県喜界島の「樋口のお宿」さんのゴマをあしらってあります。
 左上の小さな器には、4月から初夏にかけて 暖かい地方の浅い海に分布するモズクを三杯酢であえたもずく酢が入っています。
 白和えは、おもしろい仕立てで、オーブンでトロトロになるまで火を入れた新玉ねぎにたっぷりと毛ガニのせた上から、酸味を利かせた白和えをかけてあります。
 写真では、この4品を盛り付けていますが、もうひと品、存在感のあるお料理がほしいと感じたので、今は、牛蒡(ごぼう)に穴子を巻いた八幡巻きを追加してあります。どんな仕立てになったかは、食べにいらしてからのお楽しみです。

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強肴|冷しゃぶと花山椒、筍

先月は温しゃぶでお出しした神戸の「ゆさか精肉店」さんの和牛のクリ(ウデ)という部位を、少し暖かくなってきた春という季節を意識して、冷たいすき焼きの様なイメージで、花山椒と筍と一緒にお召し上がりいただきます。

クリの肉は筍を炊いた時のお出汁でサッと火入れをして、冷たい割り下で冷やしながら10分ほど漬け込んでいます。軽くお肉のまわりに割り下の味をまとわすてイメージです。

お肉と筍を盛り合わせてから、二番出汁に塩と薄口で作ったお浸しの出汁で作ったゼリーをかけて、花山椒をたっぷりと添えています。

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花山椒は、文字通り山椒の花のことで、雌株が春になると花を咲かせて、後に果実をつけます。この果実が薬味としてよく知られているピリリと痺れる実山椒です。
 花山椒には山椒の実のような刺激は少なく、香りと食感が良いのが特徴なのですが、市場ではあまり流通されていないため、一般のお店ではなかなか目にする機会はないのではないでしょうか。料理屋ならではの春の食材をお楽しみいただきたいです。

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温菜|鯛のあら炊き
新ジャガイモ 木の芽 蕗

濃口醤油と砂糖でシンプルに味付けした鯛のあら(頭部の半分)炊きです。新ジャガイモは蒸してから素揚げにして盛り付けているほか、写真にはありませんがお出汁で炊いた蕗を加えてあります。

鯛の頭は口や目の周りなどのゼラチン質の部分にうま味を多く含んでいておいしいですよね。
 あら炊きは、弱火でゆっくりと炊いてしまうと、鯛の味が抜けてしまうんです。そのため中火から強火で一気に炊くのがポイントです。鯛の中に味を入れるのではなくて、一気に煮詰めてまとわすように炊き上げることで、身もフワッとやわらかく炊き上がるのです。良いお味のタレに甘い新じゃが芋をたっぷりと絡めてご一緒にお召し上がりください。

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食事|桜海老とうすい豆のご飯

お出汁に薄口醤油と濃口醤油、塩、駿河湾産の生の桜えびを加えて炊いたご飯に、あらかじめ蒸して火入れしたうすい豆、さらに素揚げした桜海老を混ぜ込んで、お出ししています。

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春の桜海老漁の時期に毎年している仕立てで、ここ数年、禁漁などで手に入りにくくなった駿河湾の桜海老のご飯を今年もご用意することができました。

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水菓子|あんみつ

最後までなかなか決まらず撮影に間に合わなかった食後の水菓子は、あんみつにすることにしました。

みつはシンプルに白玉と小豆と、阿波晩茶の寒天と、糖蜜にラム酒を加えた2種類の寒天を盛り込んで黒蜜かけて、上にバニラアイスを添えてあります。さらに「軽井沢ガーデンファーム」さんの黒いちご「真紅の美鈴」と季節の柑橘(ブラッドオレンジやマンダリン)を添えた仕立てになっています。

ラム酒の寒天は、あんみつにお酒の風味を足したいと思って、最初はバニラアイスの上に足していました。それでも十分においしかったんですけど、ラム酒の味がわずかに強いように感じたので、それなら寒天にラム酒を入れてみたらどうだろうと考えて試してみたところ、全体のバランスがすごく良くなりました。

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食材の良さを充分に味わっていただけるように日々試行錯誤を続けております。その日その時の最善と思えるお料理を支度して、みなさまのご来店を心よりお待ち申し上げております。

乃木坂しん」店主 石田伸二

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乃木坂しん
東京都港区赤坂8-11-19 エクレール乃木坂1F
☎03-6721-0086
ランチ(水〜土) 12:00〜15:00(13:00LO、*前日までの予約制)
  おまかせ10,000円、15,000円、18,000円
ディナー(月〜土) 17:30〜23:00(21:30LO)
 おまかせ 15,000円、18,000円、28,000円
※消費税、サービス料10%別
※緊急事態宣言中は、夜の営業時間を変更して営業しておりますので、店舗までお問い合わせください。

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次回のnote更新では支配人の飛田の連載エッセイ「ひと・もの・ことで命を吹き込む」の第3回目をお送りします。アカウントのフォローもしていただけるとうれしいです!

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構成・文・撮影=江六前一郎

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