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Bless to You from the Saint Ⅲ


━━プリフィカトリ本部

バチカンの中心に位置するサン・ピエトロ大聖堂。

その隣にあるシスティーナ礼拝堂の地下にあるのが、エクソシスト達が集まるーー対悪魔組織〝プリフィカトリ〟の本部。

先程、朝食を食べ終えた○○達が来ていたところでもある。

そこをエクソシスト達が慌ただしく行き交いしており、そこの中心で腕組みをしながらモニターを見ている〝プリフィカトリ〟の長官ーーアダム・ダイナム。

アダム:観測班、状況は?

"アリス様が向かった美術館周辺は、すでに終結に向かっています"

"バチカン庭園も顕現した悪魔の八割方の殲滅完了。こちらも終結に向かっています"

モニターで戦況を確認している観測班が淡々と報告していく。

アダム:サン・ピエトロ広場はどうなった?

"絵梨花様がご到着し、残りの悪魔達との戦いが始まりました"

"○○様達につきましては、未だに見つかりません。魔力の反応も感知できないことから、おそらくは別の世界に転移させられたかと....."

アダム:別の世界.....となると、やはり悪魔達が住む〝冥界〟か

"おそらくは...."

アダム:すぐに連れ戻す案を考えろ!

"はい!"





━━バチカン庭園

久保:これで一通り倒せたかな?

額の汗を手の甲で拭いながら辺りを見渡す久保。

倒された悪魔達が体から黒い瘴気を噴き出しながら次々と消滅していた。

エクソシスト達は、負傷者を出しながらも死亡者はいないようだった。

久保:すみません、本部に報告お願いします

近くにいた連絡要員である女のエクソシストに声をかける久保。

"はい、お任せくだーー"

すると、返答していた女のエクソシストの首が飛んだ。

久保:えっ....!?

突如起きた事に呆けた顔になる久保。

"史緒里様! 避けてください!!"

久保:....っ!!

自分の名前を呼ぶ声と自身の危機感知能力によって、久保は即座に意識を回復させてその場から飛び退く。

直後、久保が立っていた場所に轟音と眩い光が落ちた。

久保:今のは、雷....?

"あ、あぁ.....そんな......"

飛び退いた先で座り込んでいたエクソシストの一人が空を見上げながら怯えた声を出す。

久保もそれにつられて視線を上に向けると、その理由が分かった。

視線の先には、圧倒的強者。

黒銀の鎧を纏って二本の大きな角が特徴的な兜を被り、右手に大剣を握っている。その大剣がスパークしていることから、先程の稲妻の攻撃はその剣でされたものだろう。

さらに、西洋のドラゴンのような生物に騎乗し、上から久保達を見下ろしていた。

久保:何、あれ....?

視線の先にいる存在が放つ圧倒的なオーラを肌で感じて血の気が引くような感覚に襲われる。

冷や汗が止まらず、手も震えてきた。

"さ、最上級悪魔にして、ソロモン72柱の序列一位、バアル。実質的な悪魔達の王です"

怯えるエクソシストからの説明に、言葉を失う久保。

久保:(圧倒的な霊力......ここだと魔力か。特級霊魔と同じ、いや、それ以上。そんなのどうやって.....)

バアル:震えているな、ニンゲンよ。それは、我の恐怖からか

久保:あ、あなた達の目的は何?

恐怖に駆られる自分を抑えながら、冷静を装ってバアルに問いかける。

バアル:我の目的はただ一つ。ニンゲンを滅ぼし、現世を蹂躙することのみ

単純明快の目的を聞かせれて、目を見開く久保は震える声で口を開く。

久保:そんなこと....絶対にさせない

バアル:ならば、貴様が我を阻むか? 矮小なニンゲン如きが

上空から不敵な笑みを浮かべて、言い放つ。

その言葉には、敵意などは一切感じられない。

しかしそれは、目の前にいる者達を敵とすら認識していないということだった。

久保:あなたは....私が倒す!

そう宣言した久保の霊力が一気に膨れ上がる。

そして、再び術式の言霊が響く。


久保:術式展開〝白風ノ戦姫しらかぜのいくさひめ〟ッ!!!


膨れ上がった霊力が形を成していき、薄緑色に風の刺繍が美しい和装に。左手には身の丈ほどの大きさの弓を握る。

バアル:ほぉ....ニンゲンの中にも少しはやる者もいるようだな

風で創り出した矢を番えて、弓の弦を目一杯引き絞る。

そして、バアルに決意を固めた力強い宣言。

久保:絶対に、あなたを倒す!

風の矢を放ち、悪魔の王と風の術師の戦いが始まった。





━━冥界

悪魔達の住む冥界にいるレイは、目の前で繰り広げられている光景に目を疑っていた。他のエクソシスト達もレイと同様の表情だった。

レイ達の視線の先には、日本から来た最強の術師である○○とソロモン72柱の悪魔であるアガレスの戦いが繰り広げられていた。

両者は互いに一歩も引かず、戦いは激しさを増していき、周囲の地形を変えていく程だった。

ただ、それは戦いの序盤までのこと。

戦いが進むに連れて形勢は傾いていき、現在はほぼ一方的な戦いとなっていた。

レイ:嘘っ.....こんな事が起きるなんて

聖水によって、負傷は完治したレイがとある一点を見つめながら結界の中でボソッと呟いた。

そこには、地面に這いつくばっているアガレスとそれを見下ろす○○がいた。

アガレスは、左肩が抉られるなど、全身に無数の傷を負っていた。○○も衣服はボロボロではあるが、目立った傷は見受けられなかった。

○○:もう諦めろ、お前の負けだ。気持ち悪ぃペットも死んだしな

そう言いながら、少し離れた場所に視線を向ける。

そこには、胴体のちょうど中心の辺りで水平に真っ二つに裂かれた巨大なワニーーアガレスが騎乗していた生物が倒れていた。

アガレス:くっ....この我がニンゲン如きに......

○○を睨みつけながら吐き捨てるように言うアガレス。

○○:おい、レイ! こいつはどうすればいい!?

突然、話を振られたレイは一瞬、驚きながらも口を開く。

レイ:せ、世界の均衡を保つために、上位悪魔以上は封印するのが決まりとなってます!

○○:じゃあ、こいつも封印か。なら、あとは頼むぞ?

レイ:はい、任せください!

レイは他のエクソシストに指示をしながらアガレスを取り囲む。

レイ:拘束するよ!?

「「「「「はい!」」」」」


「「「「「光り輝く神秘の鎖よ! 仇なす神敵をここに捕らえよ! ーー〝白縛鎖はくばくさ〟ッ!!!」」」」」


エクソシスト達が詠唱を始めると淡い光を纏い、術名を唱えると同時に白く輝く鎖が飛び出した。

いくつかの方向から放たれた白い光の鎖は、アガレスの腕や足、体を縛り上げて動きを完全に封じる。

"レイさん、拘束完了しました!"

レイ:OK! このまま封印に行くよ!

レイの掛け声と共に、エクソシスト達は休むこと無く、次のステップに進む。


「「「「「「神の御心よ! 聖なる光のもと、悪しき魂を浄め、封じ込めよ! 全ては我らの女神の名の許に! ーー〝煌封陣こうふうじん〟ッ!!!」」」」」」


すると、黄金と純白の光がアガレスを包み込み、アガレスが発しているオーラを弱めていく。

アガレス:あ゙....あ゙ぁぁぁ......

アガレスから苦しみの呻き声が漏れる。

○○:おい、これが封印ってやつか?

レイ:はい! まあ、正確には封印とは少し違いますけどね

○○:あぁ? どういうことだ?

レイ:封印ができるのは、上位悪魔までです。最上位悪魔はどう頑張っても封印することは不可能なんです。そこで、封印という名の力を削ぐことで悪魔を鎮めているんです

○○:へぇ....霊魔とは違うんだな

レイから新事実を聞いた○○。

そこにエクソシストの一人が声をかける。

"レイさん、封印完了しました"

○○:なんだ、結構早かったな

レイ:○○様が戦いでギリギリまでアガレスを消耗させたおかけですよ!

○○:てか、これからどうやって戻んだよ?

レイ:○○様の力では無理なんですか?

○○:ああ、試してみたけど距離が遠すぎて無理だった。多分だけど、別の世界なんだろうな

レイ:そんなぁ.....

○○の言葉にレイ達、エクソシストが何とも言えない表情になるっていると、

「なら、我が戻してやろうか?」

○○:....っ!!?

レイ:えっ....!?

不意に聞こえてきた声にその場にいた全員の動きが止まり、レイ達の顔に戦慄が走る。

あの○○の顔にも普段は見せない焦りと緊張の色が浮かんでいる。

○○:なんだ、てめぇは....?

○○達の目の前には、声の主である形容し難い存在。

五メートルを超える巨体と二対四枚の漆黒の翼に、二本の長い角。そして、漂白剤につけたような真っ白い顔に不気味な笑みを浮かべている。

それだけでも、恐怖に震えるほどではあるが、あの○○が反応したのは別の理由。

それは、目の前の存在から発せられてるこの世の存在とは思えない程の圧倒的な霊力もとい魔力とオーラからだった。

十年前に深川に拾われてから、これまで感じたことの無い程の霊力。

「ハッハッハッ! 我が名は、ベルゼブブ。貴様らニンゲンの言葉を借りるなら〝魔王〟と呼ばれる存在だ」

○○:ベルゼ....ブブ.....? なんか聞いた事あるぞ

レイ:すべての悪魔達の頂点である、七人の王のうちの一人です

○○:さっきの奴よりも上ってことだな?

レイ:はい。アガレスとは比べ物にならない程の力です

○○:チッ、今回は流石にヤベェな.....

ベルゼブブ:フッ、そう身構えるな。我はまだ、貴様と戦うつもりは無い

○○:あ? そんな話信じるとでも思ってんのか?

ベルゼブブ:それは貴様の勝手だが、今の貴様が我に勝てると思っているのか?

○○:…..っ!!

ベルゼブブの言葉を受け、抵抗の意志を捨てた○○。

それを見て、ベルゼブブは不敵な笑みを浮かべる。

ベルゼブブ:ハッハッハッ! そう怖い顔をするな、面白きニンゲンよ。思わず殺してしまいそうになるだろ

○○:んだと!?

ベルゼブブ:そう焦るな、ニンゲンよ。我とは、また会うことになるのだから

ベルゼブブの言葉に○○の眉がピクっと反応する。

○○:あ? どういうことだ?

ベルゼブブ:何だ、貴様は何も知らされていないのか? そこの悪魔祓い達は〝予言〟をもとに動いてるのではなかったのか?

○○:お前、何言ってやがる?

ベルゼブブ:フッ、まあ、いいだろう.....

すると、○○達の後方に○○のゲートとは比べ物にならない程の強大な霊力で作られた黒いゲートが現れた。

ベルゼブブ:面白きニンゲンよ、また会おう

○○:おい、待て!

叫ぶ○○を余所に、ベルゼブブが創り出したゲートは○○達を吸い込んでいった。





━━サン・ピエトロ広場

○○:うおっ!!

先程までいたサン・ピエトロ広場の上空に出現した黒いゲートから放り出されたように出てきた○○達は、そのまま地面に落ちていった。

○○:痛たたた.....くそっ、あの野郎

「○○っ!?」

自分の名前を呼ぶ声に反応した○○は、声の主の方へと視線を向けると大量の悪魔と戦いながら、○○達を見て驚きの表情を浮かべている生田がいた。

○○:あっ、絵梨花ーーって、お前すごいことになってんな

生田:戻って来たところ悪いんだけど、手伝って!!

○○:チッ、やってやるか!





━━バチカン庭園

○○達が冥界から戻って来る数十分前

顕現した悪魔達を倒し、戦況も治まってきたところに、ソロモン72柱の序列一位にして悪魔達の王ーーバアルが出現したことで戦況は一気に傾いた。

圧倒的な魔力と力の前に、エクソシスト達は全滅。

久保も霊力が尽きかけ、術式が解除されていた。

久保:はぁ...はぁ...はぁ...ここまで力の差があるなんて......

バアルの雷と飛竜の炎の息吹による火傷を負い、膝をついている久保。

幸か不幸か、痛みのおかげで意識は失わずにすんでいるが、すでに体は限界を迎えており、立ち上がることも困難。

文字通り、満身創痍だった。

バアル:フッ、所詮ニンゲンはこの程度か.....暇潰しにもなりはしない

飛竜に乗るバアルは上空から久保達を虫を見るような眼で見下ろしながら、つまらなそうに吐き捨てる。

久保:くっ.....まだ...まだ......

久保は限界で動けない体にムチを打ち、バアルを睨みながら何とか立ち上がる。

その眼は、まだ戦うことを諦めてはいなかった。

ーーアンタ、まだ戦うの?

不意に、凛とした声が久保の脳内に響く。

久保:だったら、何だっていうの?

ーー相手との力の差は分かりきってるでしょ? 諦めて 逃げなさい。そして、○○の力でも借りなさいよ

久保:たしかに、○○さんなら勝てると思うよ.....でも、それじゃダメなの。私がここに来た意味が無くなる

辛うじて意識が残っていたエクソシストが久保を不思議そうな目で見ていた。

傍から見れば、今の久保はただその場に立ち尽くして一人でブツブツと何かを呟いているだけ。

それでも、魔力を感じることのできるエクソシストは久保の中で何かが起こっていることを察していた。

久保:私は、強くなるためにここに来たの。もう二度と....大切な存在を失わないために。この手で、大切なものを護れるようになるために!!!

二年前のあの日。一人の大切な家族、大切な存在を目の前で失った。自分の実力が足りず、なにも出来なかった。

ーーそれがアンタが戦う意味、か......

久保の頭の中に響く、凛とした少女の声が何かを確かめるように静かに響く。

ーーアンタ....いや、久保史緒里。その覚悟、これからもずっと貫き通せるの?

先程までとは違う、自分を試す言葉に、久保は確固たる決意が籠った言葉で返す。

久保:もちろん。それが私が戦う....覚悟だから!

ーーそっか.....なら、私が力を貸してあげる

久保:えっ....?

突然の言葉に驚き、思わずキョトンとした気の抜けた顔になる久保。

ーー何驚いてんのよ? アンタ一人の力で勝てるわけないでしょ!

そして、頭で響いていた少女の声が今度はしっかりと耳に届く。

シルフ:私はアンタと契約した精霊! このシルフ様がアンタに力を貸してあげるのよ!



……To be continued

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