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フェイクニュース倉庫

フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話
2018年10月、NHK土曜ドラマにて放送したオリジナル作品で前後編。SNSに投稿された『青虫うどん』は本物か偽物か。ネットメディアの女性記者が辿りついた真相とは。第56回ギャラクシー奨励賞。
Wiki(非公式)

2023年3月20日追記:シナリオブック(Kindle)を出しました。

こんなドラマでした。

配信とDVDの発売、共に停止中です。見たかったのに!という声をたくさんいただきますが、こればっかりは仕方ありません。出演者の一人が起訴されたことにより、自粛が続いています。公式サイトも閉鎖の状態です。判決がまだ出ていない事件なのでこれ以上は差し控えますが、性加害は到底許せるものではありません。同時に、被告の出自に対する差別発言がSNSで多数見られたことにも苦しくなりました。性加害も、出自に基づいた偏見も、どちらも人権の侵害です。このドラマは、SNSで日夜起こる差別や叩き合いによる分断、「感情」というバイアスで真偽を見失う怖さを描いた作品でした。主演の北川景子さん、裏の主役・光石研さんをはじめとする出演者の皆々様は本当に素晴らしいお芝居をしてくださり、クオリティの高い画をつくってくれた堀切園監督率いるスタッフ陣、音楽の牛尾さん、監修にあたってくれた皆様も、最高の仕事をしてくださいました。たくさんの人に見てもらいたかったです。牛尾さんのサントラはまだ配信していたので置いておきます。

■インタビュー
以下はどれも後編放送前のインタビューですが、どんな作品だったのか多少なりともわかると思います。

■雑記
情報公開当時、NHKがフェイクニュースにまつわるドラマを作るというだけで、一部から批判の声があがりました。まだ放送されてもいないのに、私のTwitterにも政治系アカウントからのクソリプやクソタグ付けが大量に来て、どれも「NHKの回し者め!」という論調。せめて見てから言ってくれ。私はフリーの脚本家で、前出のインタビューで語っているような理由で本作を作ったのですが、まあ決めつけがすごい。某ネットニュースでも某教授が「ネットが間違っていると主張するためにNHKが作らせたドラマである(意訳)」と、事実無根・根拠皆無の発言を堂々としていました。これぞまさしくフェイクニュース。そこまでいうならソースくらい出してくれ。と呆れたものの、すでに書き終えていた脚本の中身と一連の騒ぎがリンクしていたため、図らずも身を以て答え合わせをする形になり、描いたことは絵空事じゃなかった!とストーリーに自信を持ちました。ちっとも嬉しくなかったけど。当時はネタバレになるから言えませんでしたが、最後までドラマを見ればネットメディアを落とすことが目的の作品ではないとわかるはずです。現在放送中の大河ドラマ『いだてん』に対しても「五輪賛美のプロパガンダドラマだ」と言う人がいますが、見てもいないのによく言うなあと思います。右の人は「NHKは左に汚染されている」といい、左の人は「NHKは政府の犬だ」という。私たちの敵は、一体誰なのでしょう。

「テレビはすぐにネットを悪者にする」というイメージは、テレビ業界が長年の積み重ねで作り上げてしまったものです。私も長い視聴者時代に「またネットが悪ってオチか」と辟易していたので心情は理解しますが、作る方も見る方も、次のフェーズに入っていいんじゃないでしょうか。交通事故をなくすために車をなくせないように、ネットはもう生活と不可分のツールです。ツールは単なる道具であり、使う人間次第だということも、本作のテーマの一つでした。ドラマで描いた内容が早く古くなればいいなあと思うものの、あおり運転犯の同乗者として無関係の女性が個人情報を拡散された件といいSNSを取り巻く現実はちっともよくなっていないのが悲しいところです。ドラマを見た人にしか伝わりませんが、後編のクライマックスシーンは、ネット炎上の可視化を試みたものでした。サブタイトルを『あるいはどこか遠くの戦争の話』としたのは、本作を寓話として捉えてほしいという意図があってのことです。

監修についてなど、当時のつぶやきをまとめたモーメントを置いておきます。

監修の皆さんは、質問や無茶ぶりにたくさん応えてくださいました。ありがとうございました。実際に悪用できる手口はドラマで流すわけにいかないので、本編ではぼやかしたり、すっ飛ばしたりしています。そのあたりは事件モノと同じです。ドラマとしてどうか、という視点を優先して変えざるをえない部分もありました。

モーメントに記載はありませんが、故・岡本顕一郎さん(スプラウト)も監修者の一人でした。本編中の広告番号の話は岡本さんに取材したときに教えてもらったアイデアです。準備稿くらいから別の方に監修を引き継いでもらったのですが、生前には脚本を褒めてくださり、完成を楽しみにしてくれていました。静かにしておいてほしいというご遺族の意向もあり、監修について公表しない方針でしたが、後に「息子が関わっていた証しを遺しておきたい」となり、後編のときは「協力」として公式サイトにクレジットを入れました。もはやそれも見ることができなくなってしまったので、ここに記しておきます。岡本さん、ありがとうございました。ご冥福をお祈りします。

ネットメディアを舞台にしたドラマはおそらく本邦初で、ドラマで扱われるのに慣れていない中の人たちは、「真面目に報道してるネットメディアだってあるのに」としょんぼりしていました。特に後編の放送前。しょんぼりさせてごめんなさい。これからも真面目に報道するネットメディアでいてください。応援しています。しかし見渡してみれば、ドラマで描かれる警察は腐敗と汚職だらけだし、医者は金と名誉を求めてばかり。見る方もすっかり慣れてしまっていますが、実際に働いているほとんどは真面目な人たちです。どんな職業にも負の面と正の面があり、どういうバランスでどういう問題意識を持って描いていくかという話で、警察ドラマを作る人は警察に恨みがあるわけではないし、医局ドラマを作る人も医者が嫌いなわけではありません。とはいえ。いくらフィクションでも、ありもしない誇張で特定の職業を貶めたり、実際に仕事をしている人たちに被害が及ぶような表現はよろしくないので、職業ものを手がける際には気をつけています。本作の舞台となったイーストポストも「ダメ寄りのネットメディア」という設定で、ネットメディアあるあるな負の部分もたくさん描きましたが、新聞社にはできない、ネットメディアだからこそできる優位性まで描いたつもりです。

本作にはベトナム人労働者の話や、監理団体から賄賂を受け取るエピソードが出てきます。当時「賄賂は実際にあるのか?」と専門家に聞いたところ「あったとしても表沙汰になった例はまだない」と言っていましたが、今年に入ってから厚生労働政務官の口利き疑惑や、外国人労働者の悲惨な実態が明るみに出ました。本作の執筆時は、まさかそこまでのことになっているとはわかっていなかったため、いまの視点で見ると呑気な描写が多々あります。近年、創作を軽々と超える悪い現実を目にすることが増え、その度に無力感に苛まれます。でもやるんだよ。

作品紹介等で惹句として使われた『全てが真実になり、全てが真実でない時代だ。』は北野Pが考えたフレーズで、言いえて妙。キービジュアルの『つぶやきは、感情を食べて怪物になる。』はコピーライターさんが脚本を読んで考えてくれたコピーで、プロの仕事はさすがだなあと思いました。北川さんの麗しさが際立つキービジュアルもスタイリッシュで好き。

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美術や小道具班もとてもいい仕事をしており、セットも作り物も素晴らしかったです。下はドラマ内小道具『竹取の里』の試作品。実際に使われたのは黄色いパッケージの方。

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鶴亀うどんのパッケージは四角くて汁が飲みにくそうですが、実際の商品に似せないための苦肉の策だったそうです。気遣い100%のデザイン。

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異物混入ネタなだけに、使わせてもらえる工場がみつからなかったり、いろいろと大変だったようです。スタッフの皆様、お疲れ様でした。DVDはプレスもすべて終わっており、円盤特典の野木×牛尾憲輔さん×北野Pのオーディオコメンタリーも収録済でした。牛尾さんの音楽解説、面白かったのに幻になってしまったな。いつか発売・配信停止措置が解ける日がくるかもしれません。それまでお待ちください。

おまけ。本編中に出てきた猿滑さんMAD動画 ↓

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