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夏なのに冬

 私は愛犬のかき氷とゆず(仮名)をつれて散歩にでかける。
けもの道をくだっていくと、たちまち視界がひらける。ここは、見わたす限りの草原である。色とりどりの蝶が舞い、草花が生い茂る。まるで楽園だ。



 かき氷は女の子。中型の雑種である。毛並は純白で、ぴんとたった大きいな耳、くるりとまるめたモフモフした尻尾が特徴だ。

 ゆずは男の子。ヨークシャテリア風(血統証明書がないので風である)
チョコレート色にシルバーがまじり。ふわっふわの毛並みである。


 かき氷は猛暑日に我が家にやってきた。私の友人宅で6匹の犬が産まれた。子犬を見にいくと、わたがしのような、かき氷と目があった。黒々としたつぶらなひとみに私のハートは射貫かれてしまった。

 ゆずとの出会いはクリスマスだった。街並みはイルミネーションで彩られている。
 しかしながら、夢のようなロマンチックな出会いはできなかった。ゆずは飼い主不明で収容施設にいた。殺処分が迫る中、ゲージの中でぷるぷる震えていたのだ。はかない小さな命をまもりたい一心で、ゆずを引き取ることにしたのだ。


 ここは楽園のような草原。
 かき氷とゆずのリードを外すと、待ってましたと言わんばかりに猛ダッシュ。私はかき氷とゆずを追いかける。
 ぴょんぴょん飛び跳ね逃げまわり、私の腕を見事な立ち回りでひらりとかわす。やる気があふれて本気になる。なんとかしてつたまえようとするが、直前でひらりとかわされる。
自慢の鼻をペロリとなめて、してやったりの顔をする。
「ああ。追いかけっこ楽しいな」
 このひと時が、私の最高のおもいでとなる。


 いまでも、まぶたを閉じると、追いかけっこの光景が目に浮かぶのだ。
 かき氷は12歳、ゆずは15歳で本当の楽園に旅立った。
 かき氷とゆずが残してくれたものは、私の一生の宝となる。 
共にすごす時の中で愛することを教えてくれた。慈しむこと。育てること。よろこぶこと。悲しむこと。感謝すること。心を豊かにたがやしてくれた。    
 「愛することは奥深い。だかろこそ学び、実践する価値があるのだ」


 ここは雲の上の楽園。
 かき氷とゆずはこれからも、あの草原で走りまわる。

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