実録 その112

言葉にしてきたことは
すべて叶えてきたという歌い人の
歌をきく。

500年
歌い継がれてきた歌は

ある決まった時期にだけしか、歌うことが許されないのだという。

祖先を慕い敬う神聖な儀式としての役割を持ち大切に歌い継がれてきた特別な歌だなのだと教えてもらい、しみじみ聴きいっていた。

撮影やテープに残すことなどは
許可されない。

口伝えであること。

そうやって厳しく守られてきた文化があることを知る。

あまり人前で目立つことは
好きではないが、伝えたいことがあるのだそうだ。

歌うことで、踊ることで
楽しむことで
世界を平和にしていきたいと願う。

彼の視線の先は、世界を見ている。


今、この場所から
楽しむことを
教えてくれる。


繋いできた命、文化は、尊い。

いつしか人は、それを忘れてしまう。

歌は元々
エンターテイメントとしてのものではなく
人々の生活の中に身近なものとして存在していた。


多種多様な文化、思想が混在し、批判・批評の絶え間ない現代において
変わらずに歌いつづけられた歌の意味と
歌い人の人生は、この先も重なりつづけていくだろう。

踊る風のように
波を手繰り寄せて
歌い人の想いは
幾度となく
聴く者の心を撫で、震わせた。

人から人へ。

声となり、歌となり、言葉となり
血と共に流れる。

塞ぎ込んでいた身体も
枯れた心も
刻みこまれた命の記憶へと
染み出し
歌と身体は、ひとつになる。

もしかしたら


私たちは
すべて、ひとつの存在に過ぎないのではないか。

そう思うときがある。

それがいつしか、ただ分かちあうためだけに
分かちがたくも、分かれざるをえなかったのではないか。

散らばったもののひとつひとつに
夢や愛という名前をつけて

私たちは世界を懸命に
つなげようとする。

海も。

山も。

愚かさも。

酒も。

土も。

法律も。

人も。

虫も。

動物も。

嘘も。

身体も。

光も。

昨日も。

花も。

哀しみも。

詩も。

後悔も。

髪も。

夕焼けも。

時間も。

この空も。

いま、この瞬間も。


放っておいても
舞い踊り、笑う子供のように
地球という星で
皆、踊らされて

歌い人は、世界の仲介者となり
大人の私を
さぁさ、また踊ろうと誘い出す。


繰り返していく生と死。

その両方を讃えあい、慈しむダンス。

歌い人の
誇り高き歌と共に、心は舞い上がる。

遠く、懐かしい誰かの記憶に
導かれるがまま。


踊らされるがままに。








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