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【連載小説】教えて!アヤノさん〜青葉大学バスケ部の日常〜

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大学三年の秋、青葉大学体育会男子バスケットボール部の主将になった菅野タケルはコーチの人選に悩んでいた。そんなある日。 「私が教えてあげる」 そう言い放ち、コーチに志願したのはタケ…
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#仙台市

【連載#12】教えて!アヤノさん〜青葉大学バスケ部の日常〜

第十二話  ようこそわが家へ!  青葉大学女子バスケ部と仙台市内のクラブチーム・上杉クラブの練習試合が終わった後、青葉大学男子バスケ部主将の菅野タケルは、上杉クラブのメンバーで、中村アヤノの母、中村ユキノに捕まっていた。 「菅野くんやバスケ部のことアヤノから聞いてるよー。でもいいのかなあ、アヤノがコーチだなんて」 「お母さんは余計な口出ししないで。ちゃんと部の総意でコーチをお願いされているんだから」  体育館の外で立ち話をしていたタケルとユキノの背後には、二人を監視する

【連載#11】教えて!アヤノさん〜青葉大学バスケ部の日常〜

第十一話 お姉さんですか?  十二月も中旬を迎え、西公園の地面は色づいたイチョウの落葉で黄色に染まっていた。  薄暗く、吐く息も白い早朝。巨大なこけしがそびえ立つ広場に背の高い二人の女性が向かい合っている。一人は金髪の髪をヘアバンドで留め、もう一人は真っ黒な長い髪を後ろで一つに束ねてランニング用のキャップを被っていた。二人は準備運動をしながら言葉を交わす。 「アヤ、なんだそのレトロな恰好は?」  金髪の日下部ニコルが話しかける。 「え、ダメですか?」  黒髪の中村ア

【連載#7】教えて!アヤノさん〜青葉大学バスケ部の日常〜

第七話 素敵なことじゃないですか  杜の都仙台の老舗デパート『藤崎』は、仙台駅ら東西に続くアーケードと、仙台市役所から南北にのびるアーケードの交わるところにある。青葉大学の大学祭が開催されている週末の日曜日、青葉大学男子バスケ部主将の菅野タケルは、同じく男子バスケ部のコーチである中村アヤノと藤崎のエントランスで待ち合わせをしていた。  予定が決まったのは二日前の金曜日。文系キャンパスの食堂でのちょっとした事件のあと、アヤノからの「付き合って欲しいんです」発言に耳を赤くしたタ

【連載#6】教えて!アヤノさん〜青葉大学バスケ部の日常〜

第六話 推理をしましょう  十一月の最初の週末、金曜日から日曜日まで三日間の日程で、青葉大学では大学祭が開催される。この三日間、青葉大学体育会バスケットボール部が使用している体育館は大学祭のイベントの関係で使うことができない。練習が休みとなったこの日、男子バスケ部主将で経済学部経営学科三年の菅野タケルは、午後から図書館でゼミの課題に取り組んでいた。  十月中はずっと晴天が続いていたが、大学祭の初日の金曜日は生憎の雨だった。タケルは図書館の窓から外を眺める。雨が雑木林の間に幾

【連載#5】教えて!アヤノさん〜青葉大学バスケ部の日常〜

第五話 伊達の悪魔    杜の都仙台市の中心部から西に位置する青葉山。その麓に広がる青葉大学文系キャンパス。経済学部経営学科三年で青葉大学男子バスケットボール部主将の菅野タケルは、文系キャンパスにある経済学部講義棟で行われている統計学の講義を抜け出し、生協の外にあるベンチでホットの缶コーヒーを飲んでいた。夏から秋へと移ろう季節の爽やかな風を受けながら寛いでいたタケルの隣に、何者かがスッと腰を下ろす。 「おいタケル。また授業サボってんだろ」  声の主は、法学部三年で青葉大

【連載#3】教えて!アヤノさん〜青葉大学バスケ部の日常〜

第三話 どういうご関係で?  青葉大学北キャンパスにある体育館。水曜日は二面あるバスケットボールコートそれぞれで男子バスケ部と女子バスケ部の練習が行われる。チーム練習が始まる前、男子部の練習が行われるコートのゴール下で、男女二人が一対一で練習をしていた。 「ボールを受けたら一度体を押し込んで、スペースを作るんだ」  ディフェンスをしながらアドバイスをしているのは、三年生で男子部副主将の古川トモミだ。オフェンスは二年生で女子部副主将の上野ナギサ。遠くから見ると小柄に見える

【連載#2】教えて!アヤノさん〜青葉大学バスケ部の日常〜

第二話 契約をしましょう  青葉大学経済学部ゼミ棟。毎週水曜日の午後は、経済学部のゼミが行われる。この日、青葉大学体育会男子バスケットボール部主将の菅野タケルはゼミの開始時間よりもだいぶ早くゼミ室に到着し、ロの字型に組まれた長机に一人、頬杖をついてボーッとしている。しばらくすると、タケルのゼミの友人である中嶋が入室する。 「おや、タケルどの。お早いですね。その様子では、まだお悩みですか? バスケ部コーチの件」 「いや、コーチは決まったのだよ」  タケルの返事を聞いた中嶋

【連載#1】教えて!アヤノさん〜青葉大学バスケ部の日常〜

 第一話 私が教えてあげる    夏の陽射しが翳りを見せ、高い空が秋の気配を感じさせる十月初旬。杜の都・仙台市青葉区にある青葉大学文系キャンパスの隅に建てられたニ階建てのプレハブでは、経済学部三年生以上が所属するゼミが行われていた。学生の本分は学業。経済学部経営学科三年の菅野タケルはそのことを十分に理解しているつもりだ。その証拠に、タケルは真面目にゼミに参加し、研究テーマであるマズローの五段階欲求論の分厚い本を眺めている。そう、眺めているだけで読んではいない。文字の羅列をボ