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海テックの苦悩

この記事は UMITRON Advent Calendar 2021  7日目分として執筆したものです。


こんにちは、ウミトロンの野田と申します。
前職は六本木のITメガベンチャーで働いていたのですが、海をフィールドとするIoTスタートアップ(=「海テック」)のウミトロンに転職して2年強、今では月の半分ほどが出張で各地の養殖場を飛び回っています。
ウミトロンではField Successという職種で、現場課題のキャッチアップ行いつつ製品・サービスのProduct Managementやオペレーション構築などスタートアップらしく幅広の業務範囲で動いています。

ヒールの靴を履いて六本木の街をカツカツ歩いていた私が海テックに参画してこれまでぶつかってきた苦悩をここでは紹介したいと思います。
「仕事で海に行けるって楽しそう!」とよく言われるけれど、結構大変なんです・・・。
(海業界の方からすると全部当たり前のことだと思うのですが、環境違えば苦悩も違う、そんなことが新入りには大変なのね〜とご笑覧いただけますと幸いです。)

朝が早い

養殖場の朝は早い。

養殖場では当日水揚げした魚の出荷作業が朝方4時台から行われていたりしており、自然と業務時間帯が朝に寄ります。我々が現地を訪れる際もアポは基本朝。
かつ、私は飛行機移動にコストを抑えるためよくLCCを使うので離陸時間も朝が多く、朝5時台に自宅やホテルを出発することがよくあります。
前職はエンジニアで夜遅くまで作業し、その分朝も遅めになっていたのに、今ではすっかり朝方人間です。夜10時くらいに眠くなります。

ひと仕事終えたと思ったらまだ朝9時だった、みたいなこともよくある。

現場が遠い

日本各地の養殖場を訪れますが、ほとんど全ての漁場が空港から離れており、車で1〜3時間ほどの距離があります。さらに現地の漁場から別の漁場へ移動する時は車で5時間ほどかかることもあります。

車内はもっぱら打ち合わせ or カラオケ。

昨年4月~6月の長期出張中は車での移動距離が2000km以上になりました。
ペーパードライバー状態で入社した私ですが、おかげで同乗者にスムーズな減速を褒められるほどにドライビングテクニックが進歩しました。バック駐車を華麗にこなせるようになるのは時間の問題かと思います。

まれに海に落ちる

夏なら海水浴気分。冬なら・・・

入社して2年強たちますが、その間3回ほど身体を水没させています。片足が2回、全身1回です。
洋上生簀の周りはあまりしっかりした足場が無いことが殆どなので、気を抜くと足を滑らせます。
出張バッグの中にはいつも救命胴衣を携えているので、飛行機に乗るときには毎回手荷物検査員にお世話になります。

救命胴衣を付けてても落下には注意。

沖での尿意 = 詰み

現代社会の中で5分以内にトイレに行けない場所といえば、タイムズスクエアのニューイヤーカウントダウンの群衆の中か沖の小船の上くらいではないでしょうか。
気を抜いてトイレに行かずに船に乗ってしまったら最後、帰り道は冷や汗を潮風が生ぬるく撫でていくのを感じながら只々我慢の時間となります。

心は焦るけれど、ジタバタしない。

日焼けする

洋上での作業中は、遮るものが何もなく直射日光が容赦無く照りつけてきます。
念入りに日焼け止めを塗っても、腕は袖のところまでくっきり黒く。
万全の装いで臨んだ結果の日除けルックは、H.Gウェルズの「透明人間」に似てるらしいです。

「透明人間」、ググってみると瓜二つ。

天候によるデプロイ延期

天気はもうどうしようもない。

エンジニアの皆さん、これまでデプロイを「天候」によって延期したことはありますか?
きっと無いでしょう。私はあります。
「デプロイ」とは一般的に、開発したシステムをサーバー等に配備し利用できるようにすることを指しますが、弊社における「デプロイ」はIoT機器の海上への配備を含みます。
その日のために色々と準備をしてきていても、当日の風や雨の状態によっては海に出られないことがあり、そうするとデプロイは延期です。組んだ出張スケジュールも要変更。なかなか事が予定通りに進まないことも多々あります。

想定を超える環境変化でプロダクトが幾度も壊れる

海という外乱。強風、潮、雨、波、照りつける日差し。
海で安定的に稼働する電子機器の実現は本当に難しいです。
念を入れて強度を高めても、思わぬところで故障が発生したりと一筋縄では全くいきません。
プロダクトリリース初期はユーザー様にも大変ご不便をおかけしてきました。その度に「現場の労務を改善するために導入してもらっているのに、こうして手間を増やしてしまっている…」と不甲斐ない気持ちになります。
それでも忍耐強くお付き合いいただいているユーザー様のおかげで、どんどん改良が進んでおり、「最近は壊れないからちょっと寂しい」とお声がけ頂けるようになりました。

壊れた回数だけ改善が加わり強くなったプロダクトをまた洋上へ。

電話文化への適応

海で働く方々のコミュニケーションは電話がメインです。
船で沖に出ると分かるのですが、スマホ等でテキストを打つのは至難の業です。波飛沫で画面が汚れたり、揺れで手元が覚束なかったり。
またおそらく、元来漁師さんたちはその日取れた魚を扱うため、タイムロスなくその場でコミュニケーションが取れる電話が主流となり、その名残もあるのかなと思います。
一方エンジニア文化でslackやLINEなど非同期コミュニケーションに馴染んでしまった私からすると、電話は正直なところ苦手です。今でも掛ける時は必要以上に構えてしまいますし、急に掛かってくるとビクッとします。

オーシャンビューへの感動が薄れる

先日、外部の友人と一緒にビーチに遊びに行った際に、「あれ、感動少なくない?」と言われて気づきました。

トンネルを抜けて、少しずつ海の断片が見えてきて、さぁ遮るものが無くなった、来たぞ来たぞ、海だ〜〜〜〜〜!!!

というその感動が以前と比べて遥かに薄くなっています。
コンクリートジャングルの中で暮らしていた以前の私にとって憧れのまとだった海は、今では職場、日常風景です。
プライベートで遊びに行くなら、森に行きたい。
けれども海はずっと眺めていられます。それだけは変わらないのは不思議です。

奥の方で仕事しているのが見えるだろうか。ここが私の職場です。

まとめ : 苦悩の先に

以上、海テックの中に居て感じている苦悩をソフトなものからセミハードなものまで9つ挙げさせていただきました。ここに書けるレベルに言語化できていないモヤモヤも他にもちろんあったりします。

水産業界はまだまだIT/IoTの導入が遅れていると言われます。
実際にやってみると、上記に挙げたような苦悩も含めてこういった大小のハードルが多々あるところにこそ、これまで中々進んでこれなかった背景があるのだなぁと日々感じています。
つまり、これを乗り越えた先には誰も見たことがない新たな世界が待っている。今我々が感じている苦悩は、業界全体が前に進むために必要な、産みの苦しみならぬ、「海の苦しみ」なのだ。

そうやって考えると大変だけど割と頑張れます。


ウミトロンでは一緒に働く仲間を募集しております。持続可能な水産養殖を地球に実装するというミッションの元で、私たちと一緒に水産養殖xテクノロジーに取り組みませんか?

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