見出し画像

【書評】 傲慢と善良(辻村深月・著)

今年から、月イチでその月に読んだ本の中で、よかったものの書評を書いてゆこうと思います。


傲慢と善良(辻村深月・著)
https://amzn.to/3QAGvgc

結婚はまだ先のこと、と思っていた主人公が、本格的に婚活を初めて、ようやく出会った婚約者が突然失踪する。

「ピンとこない、の正体は、その人が、自分につけている値段です(中略)値段、という言い方が悪ければ、自分はいくら、何点とつけた点数に見合う相手が来なければ、人は”ピンとこない”と言います。 ― 私の価値はそんなに低くない。もっと高い相手でなければ、私の値段とは釣り合わない」

この人たちは ― 世界が完結しているのだ。自分の目に見える範囲にある情報がすべてで、その情報同士をつなぎあわせることには一生懸命だけど、そこの外にある別の価値観や世界があることには気づかないし、興味もない。

皆が行くから大学に行き、親が決めたから就職し、そういうものだからと婚活する。そこに自分の意思や希望はないのだ。好みとプライド ― 小さな世界の自己愛があるから、自由になれない。いつまでも苦しい。

互いの生い立ち、彼女の実家、自分の交友関係……

彼女を懸命に捜す過程で浮き上がる、人生の背景を流れ過ぎていったはずのものの複雑さや色濃さ。
自分が本当に欲しかったものは何なのか、否、自分とはそもそも何なのか。
それぞれを著者は丁寧に活写する。

ヒト科のメスが同性に向ける最も醜い部分も、同性の著者が構わずえぐり出してゆくのもとても興味深い。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?