企業文化をともにつくる -MVVに従業員視点で向き合った話-
※2023年1月8日:少し追記しました
はじめに、この話は僕が執行役員を務めている会社でのことを書いておりますが、あくまで個人の見解の発信です。
従業員でありながら、経営メンバーでもある、社内で僕だけが持たせてもらっている視点で自社実践してきたことについて書いてみました。
これから組織の変化に立ち向かう方の何かしら参考になれば幸いです。
2023年に創業60年の節目を控え、2022年1月に資本提携を行いグループ会社の一員として参画、グループシナジーを効かせてさらに大きな力で社会の役に立っていく新たな挑戦をはじめました。
そんな大きな変化を最前線で体験するなかで、組織は元の状態を維持したがる慣性の力が強いことを実感しています。
この慣性の力がなぜ起きているかを理解して、会社にとっても従業員にとってもいい方向へ導いてくにはどうしたらかいいかと考えた結果、向き合ったのが企業文化でした。
企業文化は目に見えないものですが、組織を構成する人らの考え・価値観・日々の行動から生まれてくるものだと思っていて、その見えない企業文化の共通の指針となるのが当社にとってはMVV・クレドです。
MVV・クレドの策定から実践(あえて浸透とは書かない)に携わってきた僕が、どう向き合ってきたか、どんな難所があったかを振り返りながら紹介します。
56年目の組織変革とMVV策定
僕の働いているエスケイワードでは、共通の指針として以下が定められています。
経営理念
Mission(会社の使命・根本的な存在意義)
Vision(会社がめざす将来像)
Core Values(めざましい成果を生むための価値観)
クレド(自分や会社がキラキラ輝くための「ステキな行動」)
特にまとまった呼び方は定められていないのですが、ここでは「SK Way」と呼んでいきます。
SK Wayは2018年10月1日に創業55周年を迎えたのを機にリブランディングの1つとして、これまであったものから再構築されました。
SK bookという1冊の冊子にまとめており、従業員だけでなく時にはお客様へもお渡しして考えを共有しています。
プロジェクト期間としては2019年4月から1年ほどかけてじっくり行い、2020年4月の経営計画発表会で全社でお披露目。
偶然だが、完成とほぼ同時期にコロナが流行り、リモート前提での働き方に変化して会社への帰属意識も薄れやすい時期でみんなと共有する指針として実践をスタートさせたのでした。
SK Way再構築のプロセス
再構築は大きく分けて5つのステップで行った。
プロセスでの一番のポイントはみんなで作りあげたこと。
トップや経営層で作ったMVVをいきなり渡されて、さあ今日から実践してくださいって、従業員の視点で考えたときに急に受け入れられないですよね。。
なので、段階的に関わる人を増やしていきながら最後は全員で作り上げています。
STEP1:マネージャーが考えるPurposeを意見交換
まずは、マネージャー以上で、それぞれが考える存在意義をワークシートに整理して持ち寄りました。
当然、代表や役員がまとめたもの出てきますが、忖度せずにあくまで一意見として扱います。
僕はこのときグローバル部門の事業部長に就任した初年度だったのもあり、これまでに取り組んできたデザイン・テクノロジー領域にグローバル向け事業とどう掛け合わせて新たな価値を生むことができるか悩んでいた様子が残っています。
2019年度に書いていたので、3年先の未来2022年度に向けて考えて書いていたようです。
この辺りの時間軸も人によってバラバラな意見が出てきたのは面白かった反面、発散しすぎてしまうので、整理に慣れてない組織や外部ファシリが入っていない場合は条件をある程度決めて実施したほうがいいかもしれないポイントです。
STEP2:どんな未来をつくりたいか社会課題軸で考える
続いて、社会課題軸で未来を考えていきました。
当社が事業や経営を通じて、どんな社会課題を解決していくことができるかを各マネージャーの視点で持ち寄ります。
社会課題解決の視点でといっても、各マネージャーによって経験や知識量も異なるので、議論を深めるためには共通言語にできるものが必要でした。
当社では、SDGs 17のゴールを利用して、ある程度視点を合わせてながらそれぞれの意見を持ち寄りました。
STEP3:意見を集約してワーディング
ここまでの工程から存在意義をどんな未来を目指していくかが、ふわっとですがだんだん見えてきます。
各メンバーが考えるMVVの案を持ち寄ると、大切にしていることなど共通事項として表れてきました。
この段階で元コピーライターの代表が引き取り、選定とワーディング。
経営層とライターで密に連携しながら自社らしい言葉にしていく難易度の高い工程ですが、当社の場合は代表が元コピーライターだったので、楽をさせてもらえました 笑
STEP4:全社員で案をブラッシュアップ
次にマネージャー以上のメンバーで仕上げた案を全社員でブラッシュアップしていきます。
名古屋本社・東京オフィスに案を貼りだして全社員から意見を募集しました。
いいねって感想や、ここが分からない、しっくりこないなど、社歴や経験、スキルの異なるメンバーそれぞれの視点から様々な意見が集まりました。
全社で意見を出し合うことによって、2つの拠点で働くみんなで作り上げた一体感を生み出し、自身がどう感じるか、この会社でどんな未来を描いていくのか、社員一人ひとりが考えるきっかけになります。
客観的にみんなが意見を書いている様子を見て印象的に覚えているのは、付箋を書きながら隣の人と議論が生まれていたことです。
「これってどういうこと?」「馴染みがない言葉でわからない」って質問に対して、メンバーが「こういうことじゃない?」と回答するやりとりが生まれていて、このプロセスが理解を深めるきっかけになっていると感じた出来事でした。
人によって自身も関わって作ったという認識の大きい小さいはあるのだが、突然トップが決めた理念を共通の想いですと渡されても自分ゴト化はできるはずがないので、こういった策定のプロセスにメンバーが関わることによって、率先して実践するためのきっかけとする仕掛けは随所に盛り込んでいくことが大切なのです。
そして、仕掛けに関わった人らがそれぞれの部署に戻って、率先垂範で実践していくと、現場レベルでまわりを巻き込んでいく触媒になっていきます。
こういったしたたかな設計が出来ているかは、後々実践フェーズに入ったときに大きく効いてくると思っています。
STEP5:コミュニケーションツールへ落とし込み
こうして意見を取り入れながらブラッシュアップして、MVVが決定。
最後にみんなと共有するためのコミュニケーションツールの冊子へ落とし込んで完成です。
全社で行った経営計画発表会議でお披露目・配布されたのでした。
当社では既にあった経営理念とクレドを新たに策定したMVVと合わせてSKWayとなりました。
関わり合う言葉の関係性を整理する
完成した後、モヤっとした感情が生まれてきました。
言葉一個一個への理解を深めることは進めていたものの、言葉が増えてそれぞれの関係性が曖昧に感じていたこと。
そこで、当社のCDOと一緒に社長・取締役へインタビューを敢行して、それぞれの言葉の関係性を整理したのでした。
ここでは整理した内容とそれぞれの言葉をどう解釈しているか紹介します。(当時、内部検討の機会を逃してしまい、公認ではない、あくまで個人としての解釈になりますが 汗)
「経営理念」「MIssion」「Vision」「Core Values」「クレド」の関係性を、横が時間軸、縦が社会へのインパクトで関係性を整理した図がこちら。
経営理念は組織の土壌であり器
Missionは組織の使命であり存在意義、未来に向かった言動力として常に実践し続けているもの
Visionは社会をより良くするために目指す未来
Core Valuesは未来に向かって日々の業務に取り組む中で訪れる意思決定のコンパスとなる価値観
クレドは個人、会社として未来に向かって輝いていくためにふさわしい行動であり、立ち振る舞いを自分自身に引き寄せるもの
こんな感じでそれぞれが相関することで社会に大きなインパクトを生む未来を実現できるものだと解釈しています。
経営理念は要素分解して引き寄せる
経営理念「個が輝き、調和を育む器であり続けます。」
この言葉は要素を分解して捉えている。
「個」
社員一人ひとりの「人」「個性」であり、所属する「チーム」「部門」
そして、SKという「組織」そのものを指している。
「調和」
馴れ合いではなく相乗効果。
共に価値を創り上げるパートナーとしてのつながり。
「育む器」
Visionに共感して同じ未来を目指して共に高め合っていく、つながりの器。
会社という組織内のことだけでなく、地域社会に対しても。
壁のない横のつながりで相乗効果による価値創造を
Mission「コミュニケーションで、世界のあらゆる壁をなくす。」は、デザインやテクノロジー、言語の力を駆使して、組織やサービスのもつ魅力を最大限引き出して発信することで、様々な壁や情報格差をない世界をつくっていこうという当社の使命について書かれていると理解している。
もう1つの使命の解釈として、壁のない横のつながりの集団をつくりあげることがある。
多様な個性を持った一人ひとりが自身の得意領域でそれぞれリーダーシップを発揮することによって、相乗効果による新たな価値を共創しやすくなっていくのではないかと考えている。
後から気づいたのですが、最近はこれをシェアド・リーダーシップと呼ぶそうです。
そして、お客さまもこの横のつながりに入っていただいて、一緒に悩み・考え、創造を積み重ねていくことで、Vision「人にとって価値あるものを共に想い、共に創り、そして伝える。」の実現に近づいていくのだと思います。
ちなみに当社の名刺はここまでに紹介した内容をコンセプトにデザインしています。
多様な「個(顔社員)」が壁のない横のつながりをつくり、共に価値を創造させていただく表現になっています。
当社のみんなと付き合いがあって名刺をお持ちの方は、ぜひこんな感じで横につなげて「個」を「調和」させてみてください 笑
追記:2023年1月より名刺の裏面をリニューアルして、グループ会社の情報を記載しました。
僕はこの裏面のデザインプロセスには関わっていないので、完全な後付け解釈になりますが、理念で表されている「個」はグループ会社の一つひとつであり、調和(シナジー)を生み出していくという意思の表れであると受け取っています。
幻想と向き合う
こんな感じでまとめていると、さもうまく言っているように見えるような気がしてきたが、実際には色々と失敗を繰り返しながら社内で実践を進めています。
素敵なMVVをつくれば、社員みんなが共感してくれてすぐに組織が変わるぞ!なんてのはご存知の通り幻想で、実践に終わりはないと日々取り組みを繰り返しています。
せっかくなので、これから取り組んでいく方に向けて、組織で実践してきた中での気づきを2つ紹介します。
その1 トップダウン型で受け身な共有会にしてしまった
MVVができた後、率先して使っていかないと絵に描いた餅になってしまう!と、気合いを入れた僕は担当部門の朝礼でSK bookの内容を自分に引き寄せて話をする共有会をスタートさせました。
ここで運営担当に帰属意識の薄い中途入社したばかりの社員を指名して自社への理解を深めてもらおうと狙った結果、うまく回らず、さらに細かい指示を出す介入をしてしまったのです。
見事にトップダウンでやらされている受け身な会が出来上がり、やっても意味がないと終了させました。。
少し冷却期間をおいてから、今度は新卒メンバーに私が引っ張るとトップダウンでやらされてる感が出てしまうから、先輩らを巻き込みながらボトムアップでやってみてほしいと状況を説明して、主担当を交代して再会してみたところ、少しずつこの取り組みが自走しはじめたのでした。
今では2〜3年ほど、毎朝継続しています。
その2 レイヤーによって自分ゴト化に必要な情報が異なった
これはMVVの部分ではなく、クレドでの話になります。
当社のクレドはベストプラクティスという行動集がセットになっています。
例えば、「私たちは、お客様のベストパートナーであり続けます。」であれば、こんな8つの項目が掲載されています。
クレドは10年ほど前につくられたのですが、実はその頃はこの行動集はありませんでした。
当時の僕はダメ若手社員の代表格だったので、クレドがどういうものかも理解しようとせず、なんか言葉ができたみたいですねーくらいで全く自分ゴトとして引き寄せることが出来ていなかったのです。
数年して、この行動集を社内の有志チームが作ってくれたことで、変化が訪れます。
役職・職種・経験など、人によって、関わる業務が異なりますが、この行動集ができたことで、こんな行動もこのクレドを実践しているふさわしい行動なんだと気づきを得られるようになり、自分自身に引き寄せがしやすくなったのです。
どうやら、僕以外にもクレドを理解できてなかった人はいたようで、この頃から社内の会話で「自分の仕事だから徹底的にセルフチェックだよ」とか「中間フライを進んでキャッチしてくれてありがとう」といったクレドや行動集の言葉を聞くようになっていました。
今の僕であれば、おそらくこの行動集がなくてもクレドの内容は理解できるでしょう。
しかし、持っている知識や経験など異なる人らが共通の指針に共感して、同じ方向に向かっていくためには、どのレイヤーにいる人かに関わらず自分ゴト化して日々の業務で実践できるような設計にしておくことが大切だと、自社での経験から気づきを得られたのでした。
グッドサイクルはいいカルチャーから
ここまで自社でMVV・クレドと向き合ってきた話を書いてきたが、これらを実践して、いい企業文化をつくっていくことはいい成果を出すためには不可欠だと思っており、これからも自社のみんなとしっかり向き合っていいカルチャーを育んでいきたいと考えています。
なぜ、いい成果を出すために、まずカルチャーが大切と思っているかというと、MITのダニエル・キム教授が提唱する「成功の循環モデル」という理論からだ。
この理論では、「成果を高めるには、まず関係の質を高める必要がある」と言われています。
「結果の質」を求めるところからスタートするバッドサイクルは、成果が出ないとチームの関係もよくならず、どんどん悪循環に陥ります。
僕自身も経験した心当たりありますが、組織の状態も悪くなっていきパフォーマンスもかなり低下します。。
一方で、「関係の質」からスタートするグッドサイクルは、まずお互いに尊重し合うことからスタートするので、成果から逆算して何をするべきか一緒に考えていくことができるため、創造的なアイデアが出やすいだけでなく、チームで助け合いながら成果を出すことができると、成功体験をチームで共有していい雰囲気を自分たちでつくりあげることができるようになっていきます。
ここにMVVのような共通の指針の視点があると、関係の質から高めていきやすくなっていきます。
いいカルチャーを育んで、いいチームをつくりあげることに取り組むことが、成果を出せるチームになっていくためには、とても大切なことではないかと思います。
2022年が終わろうとしていますが、2023年は改めていいカルチャーをみんなと一緒に育んで、グッドチームをつくっていければと思います。
おまけ
MVVの策定にお仕事として、関わらせていただく機会も増えてきました。
その様子を紹介いただいたnoteもあるので、よろしければ合わせてご覧ください!
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