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クレームは忘れた頃にやってくる

 記事を見た読者や取材先からクレームが来ることは、そう珍しくない。前回の水島新司の図版使用の件では幸いクレームはなかったが、「これ、クレーム来るかもなー」と覚悟しているときは案外来ないもので、思わぬときに思わぬところから来たりする。

 たとえば、西原理恵子さんのマンガの取材でサハリンに行ったときのこと。サハリンへは小樽空港からアエロフロートで飛んだのだが、その機体がとんでもなくボロかった。気密性が低くて耳が超痛くなるし、私の座った座席は背もたれが壊れていて、離陸の際にそのまま後ろにひっくり返りそうになる。が、後ろの席にコワモテのロシア人がいたので必死に腹筋で耐えたのだった。
 それでも無事取材を終えて帰国。で、その紀行マンガの冒頭で西原さんが「世界で一番落ちる飛行機アエロフロートに乗る」と書いた。そしたら、「ウチは一番じゃありません!」とアエロフロートからクレームが来たのである。

 いやいや、おたくが世界一でしょ……と思って調べてみたら、その当時は2位かなんかで、よく落ちることは落ちるが確かに一番ではなかったのだ。マンガには機体のボロさについても描かれていたが、そこは何も言われなかった。向こうも思い当たる節があったのだろう。ただ、「一番落ちる」は事実に反しますよ、そこだけは譲れませんよ、というわけだ。
 仕方がないので丁重に謝って、単行本化の際には〈誤解です。アエロは一番ではありません〉との注釈を入れた(『できるかなリターンズ』収録)。

「GON!」の創刊当初には、レゲエのおじさん(いわゆるホームレス)をファッション誌のストリートスナップ風に紹介する「街で見つけたオシャレゲエ」という企画をやった。もちろん隠し撮りとかではなく、時間をかけて口説いて(時には差し入れの酒を一緒に飲んだりして)の取材だが、やっぱりあるときクレームが来た。
 身に着けてるアイテムを「○○でゲット」「何年物のジャケット」とか説明をつけていく部分で、腕時計について先方の説明どおり「いただきもの」と書いたら、後日、えらい剣幕で編集部に怒鳴り込んできたのである。どうやら「いただきもの」というのは「盗品」の意味で、「そんなことまで書きやがって、この野郎」とのクレームだったらしい(「らしい」というのは、私は外部スタッフでその場にはいなかったため)。

 つか、こっちは普通に「誰かからもらったもの」と解釈して、聞いたままに書いたんスけど……。結局、編集部のほうでなにがしかのお金を払ってお引き取り願ったらしいが、対応した編集長の話によれば、バックに「これはカネ取れるぞ」と焚きつけてる奴がいる雰囲気だったとか。何しろ現場にいなかったのでよくわからないが、その一件でコーナーは打ち切りになってしまった。

「SPA!」でゲッツ板谷さんの「出禁上等!」という連載をやっていたときも、取材先からクレームが来て、文字どおり出禁になったことがある。
 取材と明かさず、あくまでも一般人としていろんなイベントや施設に行き、感じたままを書くという企画なので、クレームが来るのは織り込み済み。なのに、全然クレームが来ないもんだから、「誰も読んでないのか……」と残念な気持ちだったところに、とあるカルチャーセンターから抗議文書が届いたのだ。
 そこではジークンドー(武術の一種)とジャグリングの体験講座を取材した。どんな記事だったかは『超出禁上等!』(角川文庫)をご参照いただきたい。
 抗議文書の詳細は覚えてないが、要点としては「参加された他の生徒さんを揶揄するような表現は見過ごせない」「一度ならず二度までもネタにされた。もう勘弁ならん」「『出禁上等!』と言うなら望みどおり出禁にしてやる。二度と来るな。今度記事にしたら法的措置も考える」というものだった。
 板谷さんと二人で「やっと来たか!」と、むしろ喜んだのを覚えている。

 その文書には「きちんとした手続きで取材を申し込め」みたいなことも書いてあったけど、そういうふうに取材として特別扱いされたら意味ないのだ。そもそもこっちはきちんと参加費払って申し込んで体験したうえで書いてるわけで、文句言われる筋合いはない。まあ、出禁にされるまでもなく、同じカルチャーセンターに何度も行くのは企画としてアレなので、その後は行かず、訴えられることもなかったが。

 ほかにも細かいクレームはいろいろあるし、大阪府警とか部落解放同盟とかオウム真理教とかからクレームをいただいたこともあるのだが、その話はまたいずれどこかで。

(※当記事は「季刊レポ」が発行していたメルマガ「メルレポ」2012年7~9月配信分を再構成して掲載しています)

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