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あなたの前に一本のコカ・コーラが配られています。

あなたの前に一本のコカ・コーラが配られています。それによってあなたの中にひき起こされる自由な考えを、1200字以内で記しなさい。
('98年・多摩美術大学)

 さすが美大というべきか。小論文のテーマも一般の大学とは一味違う。コカ・コーラの瓶から、いったいどんな考えが引き起こされるというのだろう。

 パッと思いつくのは、映画『ブッシュマン』(古くてすみません)のオープニング。自家用飛行機を操縦していた白人が投げ捨てたコーラの瓶を主人公のブッシュマンが拾ったところから物語は始まる。そこでは、コーラの瓶は西洋文明の象徴として描かれていた。が、そんなオリジナリティのない解釈じゃ、とても高得点は望めないだろう。このテーマで1200字くらい書けるようでないと、多摩美の門はくぐれないというわけだ。

 多摩美は、毎年のようにこうしたシュールな問題を出題している。コーラの翌年の'99年は新聞紙を配り、「この新聞によって考えたことを、1200字以内で自由に記しなさい」ときた。'00年には「あなたの前に手袋が置かれています。それを見たり触ったりすることによって呼び起こされる考えを、1200字以内で記述しなさい」、そして21世紀最初の年である'01年には「各自にフロッピーディスクが配布されています。このフロッピーディスクには『二十世紀の歴史』が記録されています。このことをふまえた上で、自分の考えるところを、1200字以内で自由に述べなさい」という問題が登場しているのだ。

 コーラ、新聞、手袋、フロッピーディスク……。どれも日常に転がっているものだけど、そんなありふれたものからでも何かを感じ取ることが、芸術家への第一歩ということか。

(※2005年に某誌より依頼を受けて拙著『笑う入試問題』から抜粋・再構成した記事が先方の都合でボツになりました。そのときの原稿を順次掲載していきます)

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