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ストーリー03 友人を迎えるイクヨさん

イクヨさんは、今年七〇歳になる女性です。ちょっとした病気にかかった結果、足が弱ってしまい、外出することがままならなくなってしまいました。どこへでも好きなところに出かけて行き、友だちとの時間を楽しんでいたのに、それがもうできません。孫の面倒もよく見ていたのに、逆にいたわってくれるようになりました。病院通いが増え始めた夫とは「できるだけ人に迷惑をかけないようにしたいね」と話すようになりました。

そんなイクヨさんにとっては、人のために仕えること、役に立つなんてことは、できっこないことに感じられます。若いときならまだしも、この歳になったらせめて迷惑をかけないのがいいところです。
「人のために仕えるのはいいことだけれど、自分にはもうできることはない」

外に出られないイクヨさんのところに、ときおり友だちが遊びに来てはおしゃべりをしていくようになりました。昔のように手作りのお菓子を用意して、テーブルクロスをかけて花を飾るなんてことはしません。かろうじてお客さん用のティーカップを並べますが、入れる紅茶はティーバッグです。こんな自分のところに来てくれる人がいることは、本当にありがたいことでした。

でも、友人たちはそんなことを気にも留めていない様子です。しゃべりたいことをしゃべりたいだけ話していきます。イクヨさんはいつも聞き役です。話をさえぎることなく聞いています。気の利いたアドバイスをすることもありません。それで、友人たちは満足して帰っていくのです。

イクヨさんには不思議なことでした。友だちのほうが喜んで帰る、これはなんなのだろう?

仕える関係は、お互いさまです。助ける側も助けられることがあり、助けられる側も助けることがあります。

「自分は何の助けにもならないし、仕えることもできない、と考えていたのは愚かだったわ。こんな私でも人の役に立つことがあるみたい」

夫に話すイクヨさんのうれしそうなこと。しばらくぶりに見せた笑顔でした。

ほめられると調子に乗って、伸びるタイプです。サポートいただけたら、泣いて喜びます。もっともっとノートを書きます。