クーヨン9月号

育てにくさを減らしたい!     (だっこ・おんぶを見直してください)

(2017年のFBノートを加筆修正したnoteバージョン)
(写真は、クーヨン2018年9月号表紙です)

(20190420追記)
 今さらですが、FBのシェアにいいねがたくさん付いているので、念のために追記します。取材に協力させていただいたクーヨン9月号の中身はとってもいいし、表紙の写真のおんぶはかわいいのですけれど、写真のように赤ちゃんの位置が高すぎると、赤ちゃんの頭は重くて、親が前傾姿勢を取ったときなどにバランスを崩して上からスポンと抜けそうなので、私はちょっと怖い感じがします。これだと赤ちゃんが肩に頭を載せられないし、手も肩にかけにくくて、耳たぶも触りにくいし、親の身体感覚とのずれで頭をごつんとどこかにぶつけそう。本文でおんぶの赤ちゃんの位置が低すぎることについて書いていますが、ちょうどいい位置になるように気をつけて下さいね(時間が経つとどちらにせよきっと赤ちゃんは自然に下に落ちてきますが)。低すぎず高すぎずの感覚、をその感覚を自然に会得していない場合に、バランスよく伝えるのは難しいなあと改めて思います。


1.赤ちゃん成長発達状況の変化
 急速な日本の生活文化の変化や少子化、核家族化等に伴い、親になる世代がそれまでに小さな子どもに接したことのない状態で子どもを持つようになっている。多くの赤ちゃんと接する機会があれば、ほとんどの人が赤ちゃんのメッセージを聴き取る技術や対応の技術を自然に身につけられると思われるが、今の時代にはそのような技術を持たない人が増え、たとえ親になっても赤ちゃんの泣きに適切に対応できないことは珍しくない。以前であればあたり前のこととして伝承されてきた地域の風土に合致した子育て文化、あるいは「見よう見まね」で獲得されてきた子育ての知恵や技が引き継がれにくい状況となっている。 
 中でも、子どもの心身の発達、愛着形成に欠かせない抱っこやおんぶの仕方がここ四半世紀に大きく変化し、とりわけここ10年の間に劇的な変化を見せている。それらの変化は赤ちゃんの成長発達にどのような影響を及ぼしているのだろうか。       
 2014年冬、この状況変化が親子に及ぼす影響に着目した子育て支援者2名(迫きよみ、松田妙子)・ベビーヨガ創始者(高橋由紀)・東大大学院博士課程院生・抱っこ紐製造販売(園田正世)、臨床心理士(武田信子)の5名は、Facebook上で「だっことおんぶを語る会」を立ち上げ、https://www.facebook.com/groups/1540569352830891/?fref=ts そこにおける議論をベースとして、地域の親子の観察なども踏まえつつ、近年の親子の抱っことおんぶをめぐる状況に関する情報を収集、分析し、問題提起してきた。
  本稿は、それらの活動を通して、現在の日本の抱っことおんぶをめぐる状況について見えてきた懸念を武田がまとめたものである。執筆にあたっては、この問題に長く取り組んできた先駆者である子育て支援者の迫きよみ氏(子育ての文化研究所)と2014年秋に開催された「抱っことおんぶを語る会」主催の第一回公開勉強会「抱っことおんぶを語る会」からこの活動に参加した理学療法士の中原規予氏の全面的な協力を得ている。
 なお、本文中、抱っこ紐とだけ書いてあっておんぶ紐と書いていないものの中におんぶ紐兼用のものを含んでいる場合もある。文脈によって読み替えていただければ幸いである。

2.抱っこ紐、おんぶ紐の仕様の変化に伴う懸念
 近年、抱っこ紐おんぶ紐が輸入されるようになり、
①ファッション性の高さ 
②両手が空くこと 
③腰に赤ちゃんの重さが行くために抱く側が重さを感じにくいということ、
④股関節脱臼が防げるというふれこみ、
 などからここ十年、流行が急速に進行した。それに伴い日本製の抱っこ紐も追随して形態が変化し、親子それぞれの、抱っことおんぶの際の姿勢に変化が起きてきた。現在は、数年前よりも体型面について抱っこ紐おんぶ紐の工夫がなされるようになってきているが、親子の心身への負担や、後述するような発達上生じると思われる根本的な問題は解消されていない。また、赤ちゃんの上げ降ろしや装着に手間がかかる抱っこ紐おんぶ紐の使用は、赤ちゃんの長時間の拘束を誘導している可能性があると我々は考えている。
 そこで、以下に、身体に合わない抱っこ紐おんぶ紐、赤ちゃんの長時間の拘束、抱っこやおんぶの仕方により懸念される問題をまとめる。

【赤ちゃんの身体発達の側面】 
1)首や腰への負担
 かつて抱っこやおんぶされた赤ちゃんは、親の身体にしっかりもたれかかることができた。最近の抱っこ紐をつかった抱っこやおんぶではそれが難しい場合がある。また、首の据わらないうち、腰の据わらないうちから抱っこ紐、おんぶ紐を使ってよいと取扱説明書に書いてある場合が多くなってきた。
  それらは、首が安定するように後ろで支えるしくみになっていたり、落ちないように支える布が工夫されるたりしている。しかしそもそも赤ちゃんの頭は体重に比してとても重い。神経の集中している首だけでその重さを支えるのは、赤ちゃんの身体に負担が大きすぎる。たとえ布で支えても、枕状のものではない薄い布でゆっくり首を休ませることが望めるだろうか。
 親が手を添えて、赤ちゃんの身体の状態を見極めながら頭の重さや腰の不安定さを支えればよいが、それをすることを知らない親が増えている。単に物理的に物が支えるのでは、長時間になればなるほど体に負担がかかってしまうと考えられ、身体的な影響が懸念される。
2)股関節外転の強制
 道具を利用した抱っこは、赤ちゃんの成長発達の状態に関係なく股関節を大きく開いて固定し、座った姿勢を一定時間矯正されるものが多い。そうすると、赤ちゃんは、股関節周囲の組織が未成熟な状態のまま、自力で座れるようになる前でも座る姿勢を取ることになる。これは一見、座れるようになったと見えるが、自力で姿勢を変えることは難しく、養育者に姿勢を変えてもらわないと姿勢を変えられないことになる。 このように育った赤ちゃんは、素手で抱き上げた時に見られる本来の股関節のM字型が保たれにくく、柔軟で自由な動きを自力で行うことが困難になっていく。
 また、近年、赤ちゃんの本来の姿勢であるカエル足ではなく、開脚姿勢のお座りをしている赤ちゃんや、アシカ足の這い這いや片這いの赤ちゃんなど、非定型の事例の報告が多い。基本的な身体発達に必要な姿勢が取れず、動作ができない幼児の事例については、長時間固定される抱っこの影響の可能性を検討していく必要があるのではないだろうか。
3)腰椎の後弯(こうわん)と円背(えんぱい)
 抱っこ紐の中には、骨盤が後ろに傾いた状態で股関節の内側を押しつけるようにして固定されるものがある。抗重力姿勢(重力の影響を受けてもしっかりと保てる姿勢)を獲得する前の赤ちゃんは脊柱(せきちゅう)の可動性が高いため、円背(ねこぜ)になりやすい。
4)反り返り姿勢    
 生まれてまもなくの赤ちゃんを素手でなく抱っこ紐を用いて抱っこすると、抱っこ紐と体の間に隙間ができて支えの不安定さを補う必要が生じ、背中が丸くなりにくく反り返りしやすくなると思われる。一方、首据わりの頃に自分で体を動かし始めると、体を捻りやすいこの姿勢が首据わりや寝返りに応用される可能性がある。
 また、その後、前向きで親の胸しか見えない状態に固定された赤ちゃんは、進行方向や養育者の行動を観察しようとして、大きくのけぞって体幹や頚部を伸展した姿勢をとるか、振り向くように体幹を回旋させた姿勢を取ることになる。そこで必要以上に反り返った姿勢を一定時間、無意識のうちにとり、これが長時間にわたることで、継続的な身体の使い方の誤学習が生じてしまうのではないかと思われる。
 反り返り姿勢に慣れた赤ちゃんは、その後、おんぶをしても反り返りやすく、背中に密着して落ち着くまでに時間を要したり、事前の体ほぐしを要したりすることさえあり、時には、おんぶを拒否してしまってできない場合もある。
 このように、抱っこ紐の不適切な使用は、成長発達に伴う脊柱の生理的弯曲に影響を生じるのではないかと懸念される。
5)手足のしがみつく力がつかない
 体幹を安定させるためにも両手両足の力をつけるためにも、養育者に自らしがみつくというサルのような行為が人間の発達過程においても必要と考えられる。しかし、新生児期から抱っこ紐の中に手足の自由度の低い状態で動けないまま固定されている赤ちゃんが少なくない。これらの赤ちゃんは、抱っこやおんぶをされた際に、手足を脱力した状態になっており、素手で抱こうとすると自らしがみつこうとしないし、肩に手をかけようとしない。素手の抱っこや単純な構造の抱っこ紐おんぶ紐(兵児帯、スリング、さらし、一本帯、もっこなど)の場合は、養育者が赤ちゃんの成長に合わせて手足でしがみつく力が発揮できるように力加減を調整したり、適度に態勢を変化させたりすることができるが、ストラクチャータイプ(布や紐のように個体に合わせて細かな調整が自由にできるタイプではなく、あらかじめ形が定まっているタイプ)の抱っこ紐やおんぶ紐ではそのような双方の協力に基づくやりとりが困難である。また、そのような抱っこを長くされていた赤ちゃんは、しがみつく力が極端に弱い。両手足の力は、生活上も運動上も重要な力であるが、これらが幼少期から自然に身につかなくなっていることが危惧される。今後、はいはいや歩行の獲得に影響が及んでいる可能性も検証していく必要があるだろう。 
6)長時間の可動域制限による筋硬結(筋肉のしこり状態)のできやすさ
 長時間の抱っこやおんぶは、赤ちゃんにとって体全体の動きを制限される状態が続き、発達に悪影響を及ぼす懸念がある。特に脊柱起立筋群は一つ一つが小さい筋であるため、長時間同姿勢を保持する場合には筋疲労を起こしやすい。その結果として生成された筋硬結は、赤ちゃんにとって不快刺激となる。筋緊張状態の継続は生活上のさまざまな場面に影響が出ると推測される。また、長時間抱っこ紐の中にいた赤ちゃんは、身体の硬直状態のために、降ろす時に泣きやすく、養育者が泣きに反応してまだ抱いてほしいのだと勘違いして、更に抱き続けるといったことが起きやすい。

【赤ちゃんの心理発達の側面】
1)スキンシップの機会の減少
 元々、抱っこやおんぶという行為には、安全な移動の役割とスキンシップの役割がある。しかし、現状の抱っこは、スキンシップしながら抱っこしているという状態というよりは、輸送の意味合いが大きくなっている。
 ワンオペ育児という言葉に代表されるように一人ですべてをこなさなければならない養育者にとって、両手を空けたいという思いは切実で、両手がふさがる素手の抱っこは不便に感じられてなかなか受け入れられない。両手を空けながら活動できることが抱っこ紐を使うメリットとされているために、抱っこ紐を使う抱っこでは、養育者が子を手で支える必然性がないように作られている。両手をぶらぶらさせて、低い位置で赤ちゃんを抱っこ紐が支え運搬している状態では、手を添えようにも自然に肘を曲げた状態での抱っこやおんぶができず、赤ちゃんのお尻を手で支えたり背中をさすったりといった、赤ちゃんの身体感覚・皮膚感覚の刺激を与える動作が急激に減少してしまうのである。なでるという皮膚接触は、なでられた部位に対する感覚刺激となり、赤ちゃんの、ホールドされ体重を支えられている安心感や自我境界の形成、知覚機能の促進等につながると考えられるが、その時間も少なくなっていると推測される。
2)コミュニケーションの機会の減少
 抱っこの場合は目を見合わせながら、おんぶの場合は高い位置でおぶったときに養育者の肩越しに、両者がコミュニケーションをとることが可能であるが、現在流行している抱っこ紐おんぶ紐では高い位置に抱っこしたりおぶったりすることに限界がある。コミュニケーションといっても、言語レベルのみではなく、耳たぶや頬、髪を触ったり、匂いを嗅いだり、養育者の子守唄の振動を背中で感じたりするというような原始的なレベルの身体接触によるコミュニケーションが、高い位置の抱っこやおんぶでは可能であるし、密着感のある抱っこやおんぶの場合は、養育者の胸や背中を感じるといった、赤ちゃんが養育者の存在を感じる、ケアされている感覚を持つことができる機会を与えていると思われるが、現在の抱っこやおんぶは、自然なコミュニケーションの機会としての役割を以前に比べると果たしにくいものになっている。
3)視覚刺激による学習機会の剥奪
 現在、流行している抱っこやおんぶでは、前が見にくく視覚刺激が得にくい。また、高い位置の縦抱っこやおんぶの際に可能となる養育者との共同注視(二人が目線の先にある同じものを見ること)ができないため、移動と共に共同注視の力をつけていくせっかくの学習機会も減じられる。同時に、親の表情を脇から見て、親と他者や他事象との社会的な関係性を学習することも難しくなる。一方、おんぶの肩越しに養育者の手元を見ることは、手の細やかな動きなどを学習するなど、身体図式の構築や視覚を通した学習の獲得にも影響があると考えられるが、低い位置での抱っこやおんぶでは、結果的にこれらの学習の機会が与えられないこととなる。
4)意欲や好奇心の阻害
 親の表情や目や口の動きを確認したい赤ちゃんや、自分を取り巻く周囲の事物に対して好奇心を抱く赤ちゃんが、したいことができない、見たいものが見えにくい態勢のために、学習意欲を満たすことが困難となる。そういったことが許されるという体験を持ったことがなければ、赤ちゃんは不満を表現することもなく、そのまま育っていくことになる。意欲を阻害されることは、自己効力感、自尊感情の剥奪につながりうるだろう。
5)運動機能獲得への影響
 長時間の抱っこやおんぶは、赤ちゃんが自分一人で、床(畳)の上で寝る時間を減らしてしまう。寝転がってごろごろと動きながら自分自身の体への気づきを得ることがその後の運動機能獲得へ大きく影響することはいうまでもない。身体発達のためにも、自我境界の形成のためにも、自由に活動する余地や親との距離感を作っていく体験を赤ちゃんに与える必要があるだろう。
【養育者の身体的側面】 
1)骨盤腸骨部への圧迫
 産後は靭帯などの関節を構成する組織が緩みやすく、骨盤の上部を圧迫することで骨盤下部が開きやすい。骨盤下部が開く方向に圧力がかかることで産後によくみられる尿漏れや子宮脱などが懸念される。このため長時間抱っこ紐を利用する抱っこは母体への負担も大きいとされる。昔から初めて抱っこやおんぶをする親は、素手で下腹に力を入れて抱っこしながら赤ちゃんとともに身体を微調整していくと良いとされていた。しかし、抱っこというのは紐に入れてするものだと思い込んでしまっている養育者もいる。道具に頼らなければ抱っこができなくなっている時代であるといえる。
2)腱鞘炎や肩こりなどの負担
 素手で抱くことが養育者の身体的負担となっている。かつては、肘を曲げた位置で前腕に赤ちゃんを座らせるように抱き脇をしめるように力を入れる抱っこが普通にできていたが、近年は流行の抱っこ紐を使うのと同じように低い位置で抱っこをする人が少なくない。肘を曲げた状態であれば手首をほとんど使わなくても済むが、肘を伸ばすと手首で重みを支えなければならないので、手首に負担がかかる。肘を曲げたときは、手首より肩や肩甲骨を含む背中の使い方が課題になるが、その使い方がわからない養育者が増えている。これらの抱っこの最大のコツは、赤ちゃんの体重が少ない頃から徐々に慣れていくことである。その中で、赤ちゃんの成長発達に伴うしがみつきの力を見ながらお互いの力加減を練習するなど、双方が息を合わせて協働作業として抱っこやおんぶを練習していくのである。しかし、赤ちゃんが小さいうちから抱っこ紐に慣れてしまい、親子共にうまく身体を使えないまま長時間の抱っこをし続けると、腱鞘炎や肩こり、腰痛などになりやすい状況ができてしまう。
 また、そうした時ももし交代で抱っこしてくれるような人たち(家族や兄弟、近所で見てくれる人)が親子の周辺にいれば問題は大きくならないが、地域コミュニティのつながりが希薄になっているため、赤ちゃんを皆で育てることができず、親の負担が大きくなっている。
3)おんぶの身体感覚の喪失
 近年はそもそも前で抱くことに慣れ、目の届かない位置である背中におんぶすることは不安だという養育者は少なくない。また、おんぶをしてみようとするが、身体を前傾にすること、肩甲骨を内側に入れることを知らず、背骨が突っ立ったまま、膝を突っ張ったままでおんぶしようとしてしまい、赤ちゃんが前方にもたれかかることのできる姿勢が取れない場合もある。そこで、おんぶをする前に、リラクゼーションや身体ほぐしをして準備に時間をかけなくてはならない状況が生じている。

【養育者の心理的側面】
1)赤ちゃんを抱いたままで下に降ろせない親の増加
 抱っこ紐によっては赤ちゃんを降ろしにくいものがある。また寝かせたままうまく降ろす方法・技術を知らないまま子育てをしている養育者が少なくない。降ろすと赤ちゃんが起きるから泣くからと、赤ちゃんが寝ていても、家の中でも、抱っこ紐で抱っこしたままで、一日中生活する養育者が増えている。このような状態であると、身体的負担はもちろん、心理的な負担は大変に大きい。
2)ファッション重視の育児の広がり
 子育てを一人でこなす養育者にとっては、周囲の写真や通りすがりの親子の姿がモデルとなっていると思われる。育児に関する雑誌やSNSでの情報は、以前と比較するときらびやかで母親が主体であり、赤ちゃんもアクセサリーの一つのように見えるほど子育てにデザイン性が求められている。
現在、最もよく見られる抱っこは、中高生がリュックを背負うが如く、低い位置の前抱っこであるため専門家が意識的に伝達していかない限り今後もこの影響は続くだろうと予測される。ネットではタレントをはじめ、多数の自撮り写真があふれており、これらが新しい養育者にとってのモデルとなっている。街中の親子の姿は、次世代を担う子どもたちのモデルにもなって、世代間連鎖が起きるだろう。

3.課題及び提言
1)両手の空くおんぶをファッショナブルな流行にしていく
 本会グループページを開始してからしばらくして、さまざまなおんぶ紐やファッショナブルな結び方が考案されるようになった。とりわけ、2016年4月に、ばってんおんぶではないオシャレなおんぶのプロモーションビデオを作成し、youtubeで公開(https://www.youtube.com/watch?v=0BEJvJK_CYo)した頃から、おんぶに関する動画の投稿が一気に増え、現在は相当数の動画が簡単に検索できるようになっている。
 また、メディアもおんぶを取り上げるようになってきた。両手が空くこと、ファッショナブルであること、身体が楽なこと、子どもの心身発達によいこと、防災に役立つこと、安価なことと揃えば、広報次第で、簡単にできるおんぶがファッションになっていく可能性はある。
 一方で、おんぶができない準備状態の身体に対しては、おんぶを学ぶためのワークショップが必要な時代にもなっており、これらを経済的負担のない母子保健の範疇で広げていくことは喫緊の課題であると我々は考えている。
2)防災の観点からのおんぶの普及
 災害の際には、赤ちゃんをおんぶして逃げる、あるいはより小さければカバンに入れて逃げるなどの方策が役に立つ。防災袋におんぶ紐になる晒(さらし。数百円)をいれておき、日頃からおんぶできる人が家族の中にいれば、赤ちゃんの命が助かる可能性も高まる。防災訓練と共に、おんぶを広げていくのは一つの方策である。
3)組織化された研究開発
 本会が明確化してきたさまざまな抱っことおんぶをめぐる課題は、現場から発信された実体験によるものが多く、一般にエビデンスとしては十分とはみなされない場合がある。医療、保健分野の関係者と連携しながら現場で起きていることを学術研究としてまとめていく必要があるだろう。
4)啓発冊子や書籍の作成
 京都府宇治市で活動している「子育ての文化研究所」では、2016年、『AKAGO』(同研究所が300円で販売)という小冊子に基本的な育児法をまとめた。本稿で指摘したような問題に配慮した基本的な背負い方やあやし方だけではなく、育児に関する文化を継承すべく活動している団体による冊子である。このように、養育者や保健師、助産師、保育士、教員、子育て支援者、医療関係者、ソーシャルワーカーなど、専門家にも一般にもそれぞれに向けた冊子や書籍の執筆、出版、インターネットの活用などの広報手段を至急、より多く開発していくことが望まれる。
5)メディア掲載
 メディア掲載・出演のインパクトは大きい。これまでにもNHK等の番組、や保育士向けの雑誌『エデュカーレ』、母親向けの『ひよこクラブ』などに公式、非公式にアドバイスなどしてきた。
 特にクーヨン2018年9月号は、写真をつけてしっかりと掲載していただいたものであるので、是非参考にしてほしい。
 今後、さまざまな媒体に取り上げられるための工夫と努力が必要になるだろう。しかしながら、流行とは別に地道に養育者に届けていくことの方がより大切であることを確認しておきたい。
5)ネットワーク
 おんぶや抱っこに関心を持つ人々とFBグループページを中心としたネットワークをさらに広げ、研修会(2017年7月1日―2日、京都で開催した子育て支援者らの専門家を対象とした合宿研修には全国から60名近くの実践家が集合して学び合った。その後、2018年、2019年と連続開催している)などを実施しながら、刻々と変わる状況を把握し対応していくことのできる機動力のある多職種連携グループを作っておくことが必要だろう。
 また、この文章も確定版ではなく、あくまでも、問題提起することで多くの専門家、実践者の多角的な視点からのよりよい見識をご紹介いただき、より正確な表現に適宜、書き換えていく必要があると考えている。

4.おわりに
 おんぶで子どもを育てなかった世代が既に50代、60代になっており、おんぶが日本から消えつつある。自然な形での親や祖父母からの伝承が難しくなっており、意識的な伝承が既に必要な段階である。抱っこにしても、従来では考えられないような抱っこの仕方をする養育者や専門家が出てきており、素手の抱っこがうまくできない養育者もいる。もはや、抱っこやおんぶを周囲の大人から「みようみまね」で学ぶことができなくなっているのである。そのような中で、養育者を対象に、一家言ある専門家の方々が、講習、研修、ワークショップなどを行っているが、それらが必ずしも親子の発達にとって良いとは限らない玉石混交状態になっていることが懸念される。

 また例えば、歩行が自立している幼児がずっと抱っこ紐に入れられていたり、子どもが小学生になってもベビーカーを持ち歩いて移動する親がいたりする日本の状況が、今後の子どもたちの成長にどのような影響を与えるのか、育児グッズの利用に関して再考する時が来ているのではないだろうか。

 FBグループページ「だっことおんぶを語る会」では、解説のためのパワーポイント作成、わかりやすい動画作成、抱っこ紐作成、ワークショップ開催、シンポジウム開催、日本各地に伝承されている抱っこやおんぶの研究、日本の抱っこやおんぶの変遷、育児雑誌に現れる抱っこ紐やおんぶ紐の広告や表現の変化、海外の抱っこやおんぶの状況の紹介など、さまざまな観点からの指摘を続けたことで、現在は、インターネット上でその内容が拡散されてきている。またNHKの情報番組・子育て番組や新聞紙上などでのおんぶの紹介にもつながった。
 しかしながら、町の中で見かける抱っこの多くは、ますます親子の発達の促進にとってよい状態とは言えなくなっている。日本の子育てが、生活様式の変化やメディアの影響によって、急速に変化しており、それに対する関心が、学会等で研究者に取り上げられるに至るまでには、もう少し時間がかかりそうである。

 赤ちゃんの最初期の心身及び脳の発達は、臨界期的なものでもあり、今の赤ちゃん親子の発達を支えていくために、私たちは広報を続けていくことが必要であると考えている。抱っこにしろ、おんぶにしろ、不適切な形の継続は、赤ちゃんの動きを制限することになる。そのことを専門家が認識して、抱っこ紐やおんぶ紐を最低限度の使い方にしていくようにコメントしていくことが必要ではないかと考えている。
 もちろん、赤ちゃんの発達は、大変に可塑性に富むものであり、最初期の発達に問題があったとしても、その後の養育環境がそれらを補うに余りあるものであれば、その後の生活に支障が出るほど大きな問題にはならないと考えてよいだろう。大多数の子どもたちに関して言えば、そうであるかもしれない。しかしながら、ここで特に懸念として取り上げるのは、現在の先進国の子どもたちの発達環境が、子どもの発達を自然に促す要件を持ちにくく、保護者も子育ての経験を持たず、五感や身体感覚、勘といったものが使えない状況になってきているということである。そのような環境があまねく広がっている状態の中で発達する子どもたちに対しては、注意深く発達を見守る研究的態度が必要ではないだろうか。
 2016年12月、武田は、東京大学発達保育実践政策学センターにおける第19回発達保育実践政策学セミナーにおいて、「社会環境の変化に伴う子どもの発達の阻害と求められる対応」と題した講演の一部でこの話をすることができた。 http://www.cedep.p.u-tokyo.ac.jp/about/symposiumseminar/cedep_seminar19/
 この問題を広く伝えていくためには、学術的な実証が必要であることは言うまでもなく、計画的に研究が進められる必要がある。多くの研究者に伝えることで、多発的に研究が広がることを願っている。もし、ご協力いただける研究者の方、工学的なエビデンスを出すことや母子保健分野、子育て支援分野等での情報提供等に関心のある方がいらしたら、是非ご連絡いただきたい。
 ただし、私たちは、本来、抱っこやおんぶのような子育ての仕方は、普通の人が普通に伝達していくものであって、特に専門家が介入したり、教えたりする類のものではないと考えている。どのような子育てがよいのかについては、生活、気候、家族形態など、さまざまな要因の中で、試行錯誤が続いていくだろう。どこにでもあてはまる正解はないと思われるが、これはやめた方がいいということは気づいた人が伝えていく必要があると考えている。 今回の広報は、緊急避難的なものであり、目標は「普通に自然に子育てが伝わるコミュニティの再生」である。
 

 本投稿は、武田信子のノートによることを明記して引用・参考・拡散してください。ただし赤ちゃんを取り巻く状況の変化によって常に改訂されていますので、より新しい記述を確認してください。
 どうか、赤ちゃんの抱っことおんぶのあり方が多くの人の関心を引き、健やかな親子の生活が保障されるように、ご理解とご協力をお願い申し上げます。(2017年7月28日)

追記1)赤ちゃんの子育て方法の伝承の不在は、だっこやおんぶのみならず多方面にわたっており、さまざまな側面からの対応が必要と考えられる。方法を学ぶ機会のないまま、育児を一人で担わなければならない状況では、便利な育児グッズは福音であるが、その多用、長時間利用は、赤ちゃんの発達の誤学習を起こし遅延をもたらしかねない。引き続き、関心をお寄せいただきますように。

追記2)「子育ての文化研究所」では、毎年、京都における合宿研修に合わせて、AKAGO という小冊子を作成し、研修テキストとして使用している( http://www.kosodate-bunka.jp/akago/jigyo-akago.html ) 。写真を多用して、おんぶやだっこ、子育てのポイントを解説している冊子である。現在、「今伝えたい赤ちゃんとの暮らし」と題したAKAGO3(妊娠から産後一か月)、4(産後一か月からお座りまで)までが出ている。 http://www.kosodate-bunka.jp/akago/jigyo-akago3-4.html こちらのサイトから送料・手数料のみで配布しているので、出産予定の方、小さい赤ちゃんがいらっしゃる方に、是非差し上げてください。

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子どもたちの養育環境をよりよくするために、大人として自分のできることを精一杯しています。