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異邦人 いりびと

3.11の原発事故の後、東京を脱出する人は少なからずいた。
妊娠中の主人公「奈緒」も京都に避難したのである。
最初はホテルに、それから、祖父も習ったという書道家の家に。
奈緒の絵画に対する直観は素晴らしいものがあり
家業が画廊経営の夫「篁一輝」も叶わないと思っている。
奈緒の実家は不動産業で、美術館も持っており、奈緒はその有吉美術館で
学芸員をやっている。
ところが地震の余波と詐欺にあったことでで、東京の画廊は少しずつ経営不振になっていく、実家の不動産業も徐々に苦しくなり、美術館は手放す
ことが決まってしまう。
この美術館は祖父が手掛けたものだった。

何度も出て来て気になるのはも奈緒の母親克子の、一輝に対する態度である。画廊の存続が危なくなって、有吉美術館が持つモネの睡蓮を売らせてもらうのだが、その際、母の克子と一輝は関係を持ってしまうのだ。
それは克子の方から持ち掛けたようなもので、今まではそういう誘惑めいた視線も避けていて、だからこそ娘の奈緒と結婚できたのに。
しかも克子は、一輝を脅しながら、娘にはそのことをあえて言ったという。

そういうゆがんだ母子関係もあろうとは思うが、何故歪んでいるかが後半になってわかってくる。
そしてもう一つ、ゆがめられた関係が「白根樹」という女性画家とその養父との間にもあることがわかってくる。

もちろん京都の四季の流れに沿って話は進行していくし
奈緒と樹の関係も最後にははっきりする。

経営とかお金の問題も家族のことも深く知らないで夫婦になってしまう事はよくあるのだろうけれど、それにしても言わな過ぎなんじゃないのかと
思ってしまう私は単細胞なのかもしれない。
話せばわかると思っているわけではないけれど、情報を持っているかどうかも大分違うし、と。

原田マハさんの文章なので、するする読めてしまったのだけれど
奈緒だけが芸術を知り美術の中で生きていて、夫は奈緒に対して愛がないわけでもないのに、カタキの金に吞まれてしまうのが、気の毒と言えば気の毒ではあった。




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