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【日記公開】カミさんのは名器だ!

先週の日曜日のこと、四五冊たまった読みかけの本をせっせと読破していたら、カミさんが書斎までやって来て「久しぶりにアレ!・・・やらない?」と瞳を潤ませながら小声で<やまのぼ>を誘ってきた。「エ~ッ?」<やまのぼ>は予期せぬカミさんの言葉に、素っ頓狂な大声を出した。

「カミさんと・・・しかもこんな真っ昼間から・・・」と思案していたら「娘も出かけたし・・・」と執拗に迫ってくるカミさん。「まァ!いいか!気晴らしにでもなるし!」とつき合おうかと思っていた。

すると<やまのぼ>の承諾もろくにとらないうちから、カミさんは鼻歌交じりでカーテンというカーテンを閉め、クーラーをかけるではないか。

『ヤツは気合十分だッ!』<やまのぼ>は、後悔の念に溺れそうになった。

「撫でるのはもういいから・・・もっと腰を入れて!体重をかけて!」
額に少し汗を滲ませながら、肌を撫でたり叩いたりしている<やまのぼ>にカミさんの檄が飛んだ。「そう!そう!その調子よ!思い出したようね!いい感じよ!」カミさんに励まされながら、腰を再び入れようとしたとき。

<事故>が起きた。

「ヤバイ!」そう思うのと同時に腰に激痛が走った。魔女の一撃を食らったのだ。「イテテテッ・・・!」<やまのぼ>はその場に四つん這いで固まってしまった。

「たくっ~!始まったばかりじゃないの!」カミさんの不満タラタラを浴びることになった。

久しぶりに挑戦した<陶芸>で、忘れていた<ギックリ腰>を誘発してしまったのだ。

横になった<やまのぼ>にあきれながら、カミさんは中断した<菊練り>を再開させ、土に含まれていた空気を手際よく追い出していた。「あなたって!基本のキッ!の菊練りもろくにできないなんて、不器用なんだから!」

<菊練り>とは、土の中にある空気を抜き取る作業で、菊の花のように練り上げるところから、そう呼ばれるようになったらしい。土に空気が入っていると,成形後<ぷくっ>と膨らんだり、その部分が<穴あき>になったりするため、まずはじめ、入念にこの作業を行うらしい。<やまのぼ>は、この<基本のキッ!>も充分にできなかったのだ。

 <陶芸>はカミさんから、手ほどきいただいて三年にもなるのだが、なかなか奥が深い。十年のベテランのカミさんには到底かなわない。ましてカミさんの家系は<芸術家>だ。実妹も<画家>だし、どうもDNAに組み込まれているらしい。「友達にどこで買ったの?」って言われたと、自分が作った器を自慢したりもしている程だ。

 正直、贔屓目をさっ引いてもカミさんは、ちょうとした<陶芸家>だ。特に<器物>は<名器>ばかりである。食卓にのぼる器のほとんどが<カミさん作>で、我が家は<食器>など買うことがない。苦しい家計を助けてくれているのはありがたいことだ。

だが、それを壊そうものなら・・・そう考えただけで寒気がする。

<やまのぼ>も早く<カミさん>の足下に寄りたいと思うのだが<菊練り>で<ギックリ腰>になるようでは、まだまだ<違いがわかる陶芸家・やまのぼ>への道程は遠いようだ。


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