【読書メモ】「勘違いが人を動かす - 教養としての行動経済学入門」
「勘違いが人を動かす」では、行動経済学における、いくつかの認知バイアスが解説されています。
行動経済学は、経済学と心理学の間に位置する学問分野で、人々の経済的意思決定がどのように非合理的な行動や心理的要因に影響されるかを研究します。
私が本書の中でもっとも印象に残った認知バイアスは、インドのコブラの事例です。
これは、インドが英国の植民地だった時代に、首都デリーで毒ヘビのコブラが大量に発生しました。
政府はコブラの数を減らすために、コブラを捕獲して政府に持ち込むと報酬を支払う制度を設定したのですが、これが意図しない結果を招きます。
報酬制度が設けられたことで、当初はコブラの数が減りました。ある一定期間が過ぎると人々は報酬を得るためにコブラを大量に育て始めました。
そのため政府がこの事実を知り、報酬制度を中止すると、それまで飼育されたコブラは価値を失い、大量放棄されました。
結果的に、放棄されたコブラが野に放たれ、問題はさらに悪化したとされた事例です。
この事例は、認知バイアスの一種である「激励の逆効果」を示しています。つまり、外部からの報酬や刺激が逆に期待した行動とは異なる結果を引き起こす場合があるという点です。
この事例からは、人を動かすために単純な報酬制度を導入する際には、その潜在的な副作用や逆効果を十分に考慮する必要があります。
以下は、その他のいくつかのバイアスと具体例です:
1. スラッジ(Sludge): これは手続きをわざと面倒にして、人々が特定の選択を避けるように仕向けるバイアスです。
例えば、サブスクリプションサービスが解約を困難に設計することで、ユーザーがサービスを続けざるを得なくなるケースがこれに該当します 。
2. セールや期間限定の誘惑: 人々は「このチャンスを逃したらもうないかもしれない」と感じると、セール品や期間限定商品に強く引かれます。
このバイアスは、失うことへの恐れが、得ることの喜びよりも強く作用するために生じます 。
3. フレーミング効果: 情報の提示方法によって人々の選択が変わる現象です。
たとえば、「90%の確率で生存する手術」と「10%の確率で死亡する手術」という表現は同じ事実を異なる角度から提示することで、受け手の反応を大きく変えることができます 。
これらのバイアスは、日常生活やビジネスの場面で、意思決定に無意識のうちに影響を与えています。
認知バイアスを理解することは、自分自身の選択や他者の行動を理解するのに役立つ知識です。
『勘違いが人を動かす』の表紙にある文字「い」にとまったハエの絵には、特別な背景があります。これは、行動経済学の実際の応用例から着想を得ています。
オランダのアムステルダム・スキポール空港の男子トイレでは、小便器にハエの絵が描かれており、これが「的」として機能します。
男性は無意識のうちにそのハエを狙って小便をするため、はね返りを減らし、トイレの清掃効率を向上させることができました。
この現象は「ハウスフライ効果」とも呼ばれ、小さな刺激が大きな行動変化を引き起こすことを示しています。